社団法人私立大学情報教育協会
平成17年度第2回法律学教育IT活用研究委員会議事概要

機テ時:平成17年10月18日(火)午後6時から午後8時まで

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掘ソ仞兵圈У般邂儖長、野口、執行、加賀山、笠原、高嶌各委員、井端事務局長、木田

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 議事に先立ち、事務局より「私立大学教員による授業改善白書」について説明がなされた。要旨は下記の通りである。

 本白書は、昨年11月に本協会が実施した、私立大学教員による授業改善に関する調査の回答結果を取りまとめたものである。この調査では、授業を運営する上での現状の問題点、授業改善のための課題、授業でのIT活用状況、授業でITを活用した場合の効果や問題点等、質問内容をITに限定せず、大学教員が授業を運営する際に関わる問題点を広く聴取したものである。
現状の問題点としては、学生の基礎学力の欠落、学習意欲を高める工夫が困難であること、教育に対する組織的支援がないことなどが、多くの教員から指摘された。授業改善のための課題としては、授業シナリオ作成、科目間の実質的な連携、授業に即した教育環境作りなどに多数の回答があった。IT活用状況では、現状ではWeb上にシラバス掲載、現実感覚の創出、レポート・課題提示に活用しているとの回答が多く、2年後には、e-Learningの導入、理解度把握、教員・学生間のコミュニケーションのために使用したいとの回答が多かった。ITを活用した際の効果については、授業に刺激を与えること、学生の学習意欲の向上に繋がることに多数の回答を得た。問題点としては、理解しているようで理解していないこと、ノートを取らないことなどの指摘が多かった。また、ITを活用している教員としていない教員の回答を比較したところ、授業運営について抱える問題点は共通していることが判明した。

1. 加賀山委員による授業事例の報告

 加賀山委員より、法科大学院の民法(民法総則、契約法)、民事法(民事基礎事例演習、民事法応用)におけるITを活用した授業事例を報告いただいた。以下はその要旨である。

○ 教育目標
  法科大学院の教育目標は、司法制度改革審議会『意見書−21世紀の日本を支える司法制度』に書かれたとおり、「専門的な法知識を確実に習得させるとともに、それを批判的に検討し、また発展させていく創造的な思考力、あるいは事実に即して具体的な法的問題を解決していくために必要な法的分析能力や法的議論の能力等を育成する」ことを目的としている。しかし、法科大学院のカリキュラム的な制約から、知識の習得、批判的検討能力の涵養、事実に即した法的分析能力、法的議論能力の育成を同時に行う必要がある。

○ 法的分析能力,議論の能力
ルールに基づく事実の発見と事実に基づくルールの再発見する能力が、法的分析能力である。また、法的議論能力を育成するためには、ある事実に対して適用すべき最適なルールを発見するため、学生同士原告被告に別れ議論を行う必要がある。

○ 具体的な授業事例
  ※契約法
  従来の契約法の授業の場合、総論と各論を個別に教育するが、ここでは総論は「契約の流れ」という観点、各論は「契約の類型」という観点から教育する。
  具体的な教育方法としては、まず講義用のレジュメを予めWeb上にアップロードし、学生はそれを用いて予習した上で講義に出席する。実際の講義は、ソクラティック・メソッドによる質問と回答を中心に行う。なお、学生が質問に回答する場合には、条文の言葉を用いて説明することを課している。
  なお、この授業では受講生二人に速記録を取らせ、全文をWebに掲載している。これには教員と学生の質疑応答も全文含まれている。作成方法は、まず一人の受講生より速記録を加賀山委員にメール送信してもらい、それを加賀山委員が添削し、さらに加賀山委員からもう一人の受講生にメール送信し、欠落していた箇所を補充してもらうことで完成する。授業内容を公開する目的は、第三者による授業評価と、授業評価を通じて次年度以降の授業内容を改良することにある。
  なお、昨年度は掲示板を利用して学生の質問に応じていたが、加賀山委員の回答に対して引き下がらない学生が多かったため、レスポンスの回数を往復2回までにする規則を設けた。また、メールを活用したレポート提出も行っているが、学生のレポートにはコメントを付加するのみで添削は一切せずに返送する。

○ 成績評価方法
  法科大学院では、厳格かつ客観的に成績評価を行う必要がある。そこで、独自に開発したexcelによる答案採点システムを用いて、定期試験の採点を行っている。このシステムでは、まず採点基準を作成し、それを学生の答案と対照することにより、自動的に採点することができる。なお、答案の論理的な繋がりや矛盾をチェックできる機能を付加することも原理的に可能であるが、そのためには1セルにつき500行のプログラムを入力しなければいけないなど膨大な労力を要するため、現状では行っていない。

○ IT活用のデメリット・今後の課題
IT活用のデメリットとしては、先述した通り、掲示板の回答に膨大な時間を費やさざるを得なくなる点にある。効率的に行うためには、質問の回数制限等が必要である。また、レポートの添削指導にも多大な時間を費やすことから、TAの活用が不可欠である。さらに、答案の採点システムを一般化し、答案採点の厳格化、公平化を進める必要がある。

  以上の報告について質疑応答を行った。以下はその要旨である。

 A1.次年度以降再び契約法の授業を担当した場合、講義録は残しておくか。
  Q1.次年度は物件担保法を担当し、契約法の担当から外れるが、仮に再び契約法を担当したとしても、本年度のレジュメや講義録は残すが、授業内容は一新するつもりである。

Q2.講義録を見る限りだと、知識を問う発問が多いが、そこから発展して学生自身に考えさせるような発問は考えてないか。
A2.それは実際に行っている。例えば、諾成契約と要物契約の違いを知識として問うた後に、寄託と消費貸借契約がなぜ要物契約に該当するのかを続けて問い、さらにそこから有償・無償の場合の違いへと問いを発展させている。それでも解答が出てこない場合には、説明することにしている。

Q3.現在の法科大学院全体の教育システムは、とても組織的・体系的なものとは言えず、個々の教員が各々の流儀で授業展開している印象が強い。今回紹介いただいた契約法の授業でも、商法や執行法など他の民法分野との内的関連を押さえておく必要があるが、明治学院大学及び加賀山委員は、どのように体系的な教育を展開しているか。
A3.明治学院大学では、アメリカのロースクールの教育体系を参考にするとともに、国際的な民法の潮流を踏まえたカリキュラム編成を行った。アメリカでは民法を、不法行為法、契約法、財産法、家族法と個別に区分していることに則り、明治学院大学でも従来の民法総則、各論という区分ではなく、契約法、不法行為法、家族法、物件法、担保法という区分に従って教育している。さらに商法行為法についても契約法に取り込むなど、世界標準的なカリキュラム編成にしているが、手続法についてはまだ着手していない。
2. その他
  事務局より、18年度11月に発刊を予定している報告書について下記の旨の説明がなされた。

今回の報告書では、コア・カリキュラムを一つのキーワードとして、各分野でのITを活用した授業モデルを報告することにしている。法律学分野では、法科大学院、学部教育それぞれの到達目標を検討いただいたうえで、目標の達成に有効な授業モデルを紹介いただきたい。なおページ数は、一委員会につき25ページ程度を予定している。

以上の説明について意見交換したところ、下記の旨の意見があった。

○ 学部教育と法科大学院教育を両方取り上げると、却って焦点が暈けてしまう。高嶌委員より法科大学院の教育システムに関して問題提起いただいたことにも鑑みて、今回の報告書では法科大学院一本に的を絞った方がよいのではないか。
○ 法科大学院でも専門的な技術を取得することが目標と思われがちであるが、基本的にはリーガルマインドを育成することにあり、その点では学部教育と共通しているのではないか。
○ 以前から委員会でも議論してきたように、法曹家の育成という目標は法科大学院へと移行したことに従い、学部教育では法律を社会的に応用する能力を育成することが求められているのではないか。そのためには、「生」の教材の充実化を図る必要がある。

 以上の意見を踏まえ、次回委員会では、法科大学院のコア科目の体系や教育方法、学部教育と法科大学院の関連性について議論することにした。なお、委員各位には、本件について10分程度プレゼンテーションいただくことにした。