社団法人私立大学情報教育協会
平成17年度第2回医学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成17年9月10日(土)正午から午後3時まで

U.場所:アルカディア市ヶ谷私学会館4階会議室

V.出席者:内山委員長、平田、竹内、松本、中木、吉岡、高松、渡辺各委員、鈴木 雅隆 氏(昭和大学)、仲林 清 氏(NTTレゾナント)、井端事務局長、木田

W.検討事項

 今回は、18年度に発刊を予定している報告書に向けて情報収集を行うため、昭和大学医学部第二解剖学教室より鈴木 雅隆 氏、NTTレゾナントより仲林 清 氏を招聘し、それぞれ医学教育におけるe-Learning実践事例と技術標準化に関してお話いただいた。

1. 医学教育のe-Learning化 の試みと問題点(鈴木氏)

 はじめに、鈴木雅隆氏より、(1)e-Learningの必要性、(2)ネットワーク環境の整備、(3)コンテンツ、(4)教育効果、(5)問題点と今後の課題の5つの側面から、昭和大学におけるe-Learningの実践例を報告いただいた。

(1)e-Learningの必要性
  医学の進歩によって、各教科で教えるべき内容は年々増加していくが、それと比較して医学部自体の修業年限は過去と同様に6年制であるため、今までの講義形態で全ての内容を網羅することは不可能である。また、コア・カリキュラムの導入によって、内容が増加した科目と減少した科目があるが、必ずしもアンバランスを是正したとは言えず、科目によっては大幅に授業時間が削減されるものもあるため、授業時間外で補う必要がある。そのために、e-Learningを導入することは不可欠である。

(2)ネットワーク環境の整備
  昭和大学では、旗の台、長津田、富士吉田の3キャンパスと豊洲、烏山、藤が丘、リハビリテーション病院、横浜市北部病院、歯科病院(千束)全ての施設間におけるWANの敷設を構想している。B-Fletsのデジタルアクセスを利用しているため、現在はVPNによるセキュリティにより、財務系のネットワークと旗の台キャンパス?横浜市北部病院間のみ敷設しているが、来年度以降は全施設間での敷設を予定している。
  学内LANについては、マルチメディア教材を配信するために、旗の台キャンパスでは建物間の速度が1?2Gbps、建物内では100Mbpsの帯域を確保している。富士吉田キャンパスでは、新旧学生寮、教室において情報コンセントを完備している。建物間では100Mbpsの帯域を確保している。

(3)コンテンツ
  シミュレーション、画像を用いた電子テキストをWebに掲載しているほか、またCBT対策として、自作に依るExcelフォームを用いたWebベーステストを実施していたが、学生の成績管理の効率化を図るために、現在は試験的にLMS機能を有したNTTレゾナント社のPerceptionを導入している。

(4)教育効果
  末梢神経の試験において、e-Learning導入前と導入後の結果を比較した結果、導入前は学生数117人に対して不合格者が13名、平均点は71.8点であったが、導入後は学生数114人に対して合格者が4名、平均点が90.8点と、成績が向上していることが判明した。しかしながら、勉強した学生としない学生の成績が大きく乖離しているため、WBTによる模擬試験と自学自習を忘却曲線に基づいたスケジュールに沿って繰り返し学習させることで対応を図っている。

(5)問題点と今後の課題
  PerceptionやストリーミングシステムはWindowsのみ対応しているが、教員の3割はMacintoshを用いているため、CBTの問題やストリーミング教材を作成することが不可能である。今後はFlash等プラットフォームによらないプログラムの開発が望まれる。
  また、学生によっては自宅でインターネットを利用できないため、学内の整備をより推進することが必要である。さらによりユビキタスな環境を構築するためには、携帯端末対応のソフトウェアを開発する必要がある。
  また、先述したように、e-Learning導入後は勉強した学生としない学生の差が歴然としているので、勉強しない学生に対しては従来通り教員による指導が必要である。

 以上の報告ついて、下記の質疑応答がなされた。

 Q1.忘却曲線を具体的にどのように応用されているのか。
A1.授業を受けた日の記憶を100%と仮定すると、次の日に学習した内容は20%〜50%しか覚えていない。しかし、二日目に10分間勉強させると記憶が100%に戻り、その後の忘却率も減少する。また一週間後に5分間、さらに続けて一ヶ月に2〜4分間勉強させると再び100%近くまで記憶が再活性化されると、理論的に云われているが、検証は行っていない。実際の授業では、二日目と一週間後にHPを閲覧させたところ、アクセスした学生の成績は良く、アクセスしない学生の成績は低かった。

Q2.Webサイトと授業内容の整合性はどのように保っているか。
A2.コア・カリキュラム導入後、解剖学の授業時間が削減されたため、対面の授業ではポイントだけ話をして、詳細はWebサイトに掲載している。試験には、Webサイトに掲載された内容も範囲に含めている。

Q3.Webサイト上のシミュレーションや画像は自作のものか。
A3.以前は本に掲載されたものを使用していたが、現在は全て自作している。

その他意見
・ 教材の電子化に際しては、二つの大きな問題に直面する。まず、著作権の問題があるため、極力オリジナルのコンテンツを作成することが望ましいが、全学的に教材を電子化する場合には、中には第三者のコンテンツを無断転用する者もいると思われ、その確認や著作権処理を統括的に行う組織が必要である。次に、コンテンツ作成に伴う時間的労力の問題が挙げられる。コンテンツ作成する場合に外注委託を行っても、丸投げするわけにはいかず、教員の指導が必要となるが、そのために多大な時間を要するため、効率化を図る必要がある。

2.e-learningの技術標準化 〜SCORM規格とQTI規格を中心に

 続いて、仲林氏より(1)e-learning技術標準化の意義と動向、(2)SCORM規格
(3)QTI規格について報告をいただいた。

(1)e-learning技術標準化の意義と動向

 e-Learningの標準化とは、e-Learningで必要な情報の形式・インターフェー
スを標準化することであり、教材の内容には無関与である。これまで米国を中心とした各種コンソーシアム、標準化団体により、コンテンツレベルではSCORM、QTI、LOM、DREL、学習者情報レベルでは、LIP、学習体系レベルではRCD、LDなど様々な標準規格が策定されてきたが、なかでもLOM, SCORMはコンソーシアム標準から国際標準へと昇格されている。しかし、いずれの規格も内容が複雑であることから、今後はより高度かつ使いやすい規格を作成することが望まれる。

(2)SCORM規格

 SCORMとは、WBT (Web-Based Training)コンテンツの規格である。現在は、SCORM1.2が広範に採用されているが、最新バージョンは、SCORM2004である。SCORMの意義は、WBTのコンテンツとシステムに分離し、カスタマイズされあコンテンツの流通を可能にすること(WBTの構造化)と、コンテンツとシステムのインターフェースを規定し、ンカスタマイズのコンテンツ流通(WBTの標準化)を可能にすることが挙げられる。SCORM2004では、学生の成績や学習履歴によって適切なコンテンツを提示することが可能なシーケンシング規格が盛り込まれた。しかし、規格が非常に複雑化され、規格書は700ページにも及ぶ。

(3)QTI規格

 QTI規格とは、オンラインテストの標準規であり、テストで使用される個々の質問やテストそのものが、異なったテストシステム間で流通することを目的として定められたもので、XMLの技術を取り入れている。 NTTレゾナント社では、QTIに準拠したテスティングシステムの開発を行っており、東京女子医科大学においてCBTに向けた実証実験を実施した。試験問題は、各専門分野の医師が作成した、多肢択一、多肢択二問題を収集し、静止画、動画も含まれている。また、市販のテスティングシステムにより作成された問題をQTI形式にインポートした。

(4)まとめ

 SCORM規格 は、企業内教育を中心に本格的に普及しているが、規格が複雑であり、教材作成に際して専門家が必要とされることが大きな問題である。今後簡便にSCORM対応教材が作成可能なオーサリングツールの開発が望まれる。また、履歴データの有効活用手法の研究を通じた教育効果の検証もより広範な普及のためには必要である。
  QTI規格は、テスト出題形式に関する一般的なニーズはほぼカバーしているが、非常に多機能に及び、運用するための周辺ツールや人的資源が必要である。また、実装された製品も少ないことから、操作性の簡便化を図り普及発展することが望まれる。

 以上の報告について、下記の質疑応答がなされた。

Q1.CBTや国家試験の出題基準に変更があった場合、それに合わせて各規格の拡張や改正されるのか懸念が残る。それ故、例えば医学特有のサブセットに関する定義を盛り込むことはできないのか。
A1.規格を策定するコンソーシアムでは、特定の分野に関する問題を議論することはなく、各ベンダーが独自に機能の拡張を行っているのが現状である。今後ユーザーのニーズを集約するための機関が必要である。

Q2.標準化は必要であるが、SCORMやQTIは複雑すぎる。ユーザーを置き去りにするのではなく、より簡易的な規格を策定すべきではないか。
A2.確かにSCORMもQTIも複雑であるが、その反省を踏まえてSCORMはバージョン2004で一端更新を打ち止めし、またQTIも最新バージョン1.2のリリース以後、更新の予定はない。それ故、今後はSCORMあるいはQTIに対応した教材作成用のオーサリングツールの市販化が望まれる。

2. その他

 次回委員会でも、報告書作成に向けた情報収集を行うために、委員会内外の教員から授業事例についてヒアリングを行うこととした。候補者としては、中澤委員、河村 徹朗 氏(鈴鹿医療科学大学)とした。

追記:次回委員会では、河村氏に代わり渋谷まさと氏(昭和大学)よりヒアリングを行うこととした。なお、中澤委員には、予定通り授業事例を報告いただくことした。