社団法人私立大学情報教育協会
平成18年度第1回医学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成18年5月11日(木)午後5時から午後7時まで

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:内山委員長、松本、中木、高松、渡辺各委員、渋谷まこと氏、嶋田博之氏
  井端事務局長、木田
W.議事進行

1. 18年度発刊の報告書について

(1) ITを活用した授業モデルについて

@渋谷まさと教授の報告
  前回、前々回の委員会にて、報告書の授業モデルとして渋谷まさと教授の「一歩一歩学ぶ医学生理学」が推薦されたことを受け、渋谷教授よりその概要を報告いただいた。詳細は配布された資料を参照されたい。

 本報告について自由討議したところ、下記の旨の意見があった。

○ 通常の大学の授業とどのように関連付けているのか。
⇒ 医学部の学生にとっては内容的に足りないと思われる。このシステムの主な目的は、(医学部以外の)大学生の予習のために活用されることと、また中高生が生物学を学習するために活用することもできる。

○ 教員が閲覧した際に自分の授業で使いたいコンテンツがあった場合、モジュール的にダウンロードすることは可能か。
⇒ 本年の4月よりシステムに変更を加えて、教員に対してIDパスワードを配布し、ログインするとサーバー上にディレクトリの作成や教材のアップロードを許可している。つまり、サーバー上に教員が自由にページを作成できるようにすることで、本システムのコンテンツの充実化を図ることにしている。
⇒ オンライン上だけでなく、オフライン上で素材的に活用できるコンテンツを供給いただけるとよりあり難いのではないか。
⇒ 一つ一つの画像や図表は右クリックすることによりダウンロードすることはできる。その際には、一報いただいた上で出典を明記いただければ自由に活用いただいても構わない。

@嶋田博之助手の報告
  次に、渋谷氏の取組み同様、前回の委員会にて報告書の授業モデルとして推薦のあった、慶應義塾大学小児科の「患者データベースを用いた臨床実習システム」について、嶋田博之氏より報告いただいた。詳細は配布された資料を参照されたい。

○ 学生の入力した青字データと指導医の入力した黒字データとの具体的な差異、つまり学生の所見と指導医の所見との違いを学生に対してどのようにフィードバックしているのか。
⇒ 学部生が書いたものに対しては研修医がオーバーライトし、さらにそれを専修医、指導医と上層の医師がチェックを行う。

○ 学生が患者を直に診察しその所見をシステム上に打ち込むことは無いと思うが、それでは従来の紙ベースのカルテの遣り取りと劇的に変化しているところはないのではないか。
⇒ 現在はシステムが漸く稼動できた段階であり、その運用方法は各指導医の判断に委ねている。しかし指導医の能力にもバラツキはあるために、学生の評価方法に関するルール等、システマチックな運営方法を検討する必要がある。

○ 学生の書き込んだ履歴は閲覧することはできるか。
⇒ 履歴は残していない。改良すれば履歴を記録することも可能かと思われるが、逆にシステム全体の動作が重くなってしまうことを危惧している。

○ 学生同士にお互いに書き込みを閲覧できるよう、BBSなどを用いた方が良いのではないか。

○ 先ほど指摘があったように、学生は実際の患者に接する機会は少ないので、動画を多用することにより臨場感を出すことができるのではないか。

B中木委員の報告
次に、中木委員より、授業モデル案「薬理学における多肢選択式試験システム例」について報告いただいた。詳細は配布された資料を参照されたい。
なお、中木委員の報告について自由討議したところ、下記の旨の意見があった。

○ 今回の文案では、システム面を強調している印象が強い。授業モデルであることから、中木委員が授業のなかで、学生の理解度に対する適切な評価や学生の学習意欲の向上のために努力された点を強調されたい。

C渡辺委員の報告
次に、渡辺委員より、授業モデル案「EBM演習」の草稿について報告いただいた。詳細は配布された資料を参照されたい。
なお、渡辺委員の報告について自由討議したところ、下記の旨の意見があった。

○ ここでのEBMの目的は何なのか。単に情報処理の手法に慣れてもらうことなのか。
⇒ EBMを行うためのリソースやデータがネットワーク上にあるため、情報機器の操作方法は必然的に求められるが、仮にリソースやデータがオフラインで豊富にあるとすれば、情報機器を使う必要はない。ところで、EBMの目標は、必要な医療情報を収集、解析、集約した後に意思決定することにある。この演習では、知識の習得ではなく教員と学生が同一のシナリオに則ってEBMを体験することを目的としている。
⇒ 医療情報学Uの教育目標が掲げられているため、それとEBMの教育目標を混同してしまう恐れがあるので、前者は削除した方が良い。

○ 学生アンケートの回収を紙ベースで行っているが、なぜオンライン上で回収しないのか。
⇒ 100人程度の受講生なので、わざわざオンライン上で回収するよりも紙ベースで回収した方が効率的であるし、かりにオンライン上で回収したとしても、答えに至るまでのプロセスを教員が推察することが難しいが、紙の場合には書き直し等一目でわかるので、フィードバックしやすいという面もある。なお、回収したアンケートはスキャナーでPDF化し、学生ポートフォリオシステムを用いて蓄積することにしている。そこでは、教員は学生全員のアンケートが閲覧可能であるが、学生は自分の答えたものしか閲覧できない。
⇒ 学生同士も答えを相互に閲覧できた方が、教育効果が高いのではないか。
⇒ 他の科目では学生同士掲示板を活用しているものもある。そういったものは紹介可能である。

○ 慶應義塾の患者データベースを用いた臨床実習システムのようなものと、渡辺委員の実践されている授業内容が組み合うことで、真のEBMの授業が実現したと言えるのではないか。報告書でも渡辺委員には、今回の嶋田氏の事例も含めた授業モデルを考案いただきたい。
⇒ 電子カルテから個人情報を匿名化したデータを取り込んで教育利用する試みはいくつかの大学でも実践されているので提起できるが、しかし今回の嶋田氏の報告にもあったように、他科との連携という面では課題が残っている。その点については、委員各位にもアイデアを頂戴したい。

 今回の意見を踏まえ、中木委員、渡辺委員には授業モデル案を再度提出いただくことにした。なお、渋谷教授より紹介いただいた「一歩一歩学ぶ医学生理学」については、中木委員の授業モデルのなかで、学生に予習教材として利用するための教材として紹介することが提案され、中木委員に検討いただくこととした。
  また事務局より、「報告書の授業モデル数は1委員会につき4モデル紹介することにしているが、本委員会では中木、渡辺委員にそれぞれ渋谷教授と嶋田氏の事例を織り交ぜることで4モデルと見做しても良い」との説明がなされた。

(2) 執筆分担の確認

 報告書の授業モデル以外の執筆分担について協議した結果、下記の通り決定した。

1. コア・カリキュラムを意識した教育の到達目標・・・吉岡委員

2. 教育現場での課題・・・高松委員

3. 教育改善のための授業設計・開発・運営の方向性 ・・・中澤委員

5. IT活用に伴う課題・・・渡辺委員