社団法人私立大学情報教育協会
平成17年度第1回会計学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成17年6月25日(土)午後2時から午後4時まで

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:岸田委員長、椎名副委員長、高松、黒葛、河崎、阿部、金川各委員
        井端事務局長、木田

W.検討事項

議事に先立ち、新委員の阿部仁委員の紹介がなされた。また、事務局より、「平成16年度 私立大学教員の授業改善白書」と「教育改革を目指したeラーニングのすすめ」について紹介があった。

※「平成16年度 私立大学教員の授業改善白書」について
  本白書は、昨年11月に本協会が実施した、私立大学教員による授業改善に関する調査の回答結果を取りまとめたものである。この調査では、授業を運営する上での現状の問題点、授業改善のための課題、授業でのIT活用状況、授業でITを活用した場合の効果や問題点等、質問内容をITに限定せず、大学教員が授業を運営する際に関わる問題点を広く聴取したものである。
現状の問題点としては、学生の基礎学力の欠落、学習意欲を高める工夫が困難であること、教育に対する組織的支援がないことなどが、多くの教員から指摘された。授業改善のための課題としては、授業シナリオ作成、科目間の実質的な連携、授業に即した教育環境作りなどに多数の回答があった。IT活用状況では、現状ではWeb上にシラバス掲載、現実感覚の創出、レポート・課題提示に活用しているとの回答が多く、2年後には、e-Learningの導入、理解度把握、教員・学生間のコミュニケーションのために使用したいとの回答が多かった。ITを活用した際の効果については、授業に刺激を与えること、学生の学習意欲の向上に繋がることに多数の回答を得た。問題点としては、理解しているようで理解していないこと、ノートを取らないことなどの指摘が多かった。また、ITを活用している教員としていない教員の回答を比較したところ、授業運営について抱える問題点は共通していることが判明した。

※ 「教育改革を目指したeラーニングのすすめ」
本冊子は、大学におけるeラーニングの普及・啓発を目的として、本協会のコンテンツ標準化委員会により作成されたものである。これまで日本で刊行されてきたeラーニングに関する書籍は、必ずしも高等教育に限らず、企業内研修を対象として書かれてきたので、純粋に高等教育のみを対象としたのは、本冊子が日本初と言える。
冊子の具体的な内容を見ると、第一部では、全体的な要点が整理され、第2部では、eラーニングの定義、授業事例、導入レベル別授業モデル、導入に向けた自己点検表が掲載され、第3部では、eラーニングを導入する際の、教員、大学当局それぞれの配慮すべき留意点、教材作成の留意点が掲載されている。
1. 会計学教育のコア・カリキュラムについて
  はじめに、高松委員、財務会計におけるコア・カリキュラム案について、下記の旨の説明がなされた。

このカリキュラムは、通年23回の授業を想定して作成されたものであり、毎回の授業内容に対して、医学教育モデル・コア・カリキュラムと同様に、一般目標と到達目標が記されている。列挙した項目は、非常にオーソドックスな内容であるが、対象とする学生のレベルや、将来希望する職種によって、項目を整理する必要がある。

 このカリキュラム案について、下記の旨の意見があった。

  • 金融ビッグバン以降、書店の一般コーナーにも会計に関する書籍が陳列されるなど、会計に対するニーズ、特に会計情報を利用するニーズが増加している。また、大学の会計学科で学ぶ学生の9割は一般企業に就職するのが現状である。これらに鑑みて、コア・カリキュラムの目的も、そのような学生を対象とするのか、あるいは会計の専門家を目指す学生を対象とするのか、今一度検討すべきではないか。
  • 法律の分野においてもロースクールの開校以降、同様の議論がなされたが、当面はロースクール、学部教育並列して検討することとなった。会計においても、二つのレベルに応じて検討してよいのではないか。
  • 会計学の場合、学部生向けとアカウンティングスクール向けと棲み分けることが困難である。アカウンティングスクールは、卒業しても会計士試験の科目が免除になるだけで、ロースクールのように試験資格を与える訳ではないから、実質的には学部の教育内容と重複していると言える。

 次に、金川委員より、会計情報システムにおけるコア・カリキュラム案について下記の旨の説明いただいた。
会計情報システムは、学問的に体系化されていなく、例えばアメリカのAISに関する書籍を紐解いても、データフローダイアグラムやaccess、e-コマースがトピックスとして掲載されているが、それだけで会計情報システムの全容が明らかになるとは言えない。ここで挙げたカリキュラムは、データベースを設計する観点から作成したものであるが、学部の一般教養レベルを想定するのであれば、データ、システム、コードの意味を把握し、その上で販売情報に関する一連の流れをデータベースとして設計できることが必要最低限求められると思う。しかし、社会人大学院などのレベルを想定すると、彼らは業務を通じてここに掲げた項目を把握しているので、コア項目を抽出することが難しい。

以上の説明について、下記の旨の意見があった。

  • 会計情報システムについては、会計情報を作る側と利用する側の二つのレベルに応じたカリキュラムが検討できると思う。このコア・カリキュラム案は、作る側のカリキュラムとしては充分である。さらにここから、会計情報を利用する側に必要とされる科目を抽出することが可能ではないか。

次に、岸田委員長より、管理会計のコア・カリキュラム案について説明がなされた。

このカリキュラムは、自身の授業シラバスに基づき、教養におけるKPI、学部専門におけるKPIを付与したものであるが、オーソドックスな管理会計のカリキュラム体系と異なり、実務に即した内容である。また、公認会計士国家試験の出題範囲を見ると、バランスコアカードなど、比較的新しいトピックスが盛り込まれており、コア・カリキュラムを検討するうえでも、このような動きを考慮する必要があるのか検討の余地がある。

以上、各委員より提示いただいたカリキュラムは、いずれも会計専門職を目指す学生にとって必要な学習項目を備えているが、一般企業に就職する学生の立場に鑑みれば、会計情報を有効活用するために最低限必要な科目、知識をさらに抽出する必要があるとの結論に至り、次回委員会では、授業回数15回を想定した、会計情報を利用するために必要なコア・カリキュラム案を検討することとした。
また、椎名委員、阿部委員には、財務会計を担当いただくこととした。

2. サイバー・キャンパス・コンソーシアム・メールマガジンについて
本年度より、サイバー・キャンパス・コンソーシアム事業を再構築することとなった。具体的には、これまでの大学による登録制参加を廃止し、国公私立大学問わず多くの教員をサイバーFD研究者として登録し、ネットワ−ク上でオ−プンに教育改善に関するフォーラムに参加できるよう、制度改革を図ることとなった。また、事業内容としても、本委員会での議論された教育改善に関するトピックスを、サイバーFD研究者に対してメールマガジンで配信するほか、分野別に優れたIT活用授業をWeb上でアーカイブ化し、教育業績としての教員の努力も併せて紹介するなど、見直しを図ることとなった。
それに伴い、各学問分野別に運営委員会を設置することとなり、椎名副委員長、黒葛委員、金川委員に運営委員として就任いただくこととなった。

3.その他
次回委員会において、椎名副委員長より日立総合経営研修所で担当された、会計知識の無い企業人を対象とした会計学講義について紹介いただくこととした。