社団法人私立大学情報教育協会
平成17年度第4回建築学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成18年1月14日(土)午後1時から午後3時まで

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:若井委員長、衣袋副委員長、真下、眞鍋各委員、井端事務局長、木田

W.検討事項

1.18年度発刊予定の報告書について

 はじめに、若井委員長より資料説明がなされた。若井委員長に今回提出いただいた資料は、コア・カリキュラムに関連して、日本建築学会の部門・再分類表、UIA建築教育憲章、JABEE認定プログラムの一覧、耐震強度偽装問題に関する日本建築学会の声明文である。特に、耐震強度偽装問題は、昨今国民が建築分野に関連して最も関心を抱いているトピックであることから、報告書でも倫理教育について触れるべきか否か今後の議論の中で検討したい、との提案がなされた。

 次に、事務局より報告書の方針について下記の説明がなされた。

○ 報告書は18年11月下旬に開催される総会に向けて上梓することにしており、原稿の締め切りは8月末を予定している。

○ 授業モデルは、1委員会につき1〜4モデル紹介いただくことにしているが、各モデルの具体的なIT活用方法の差別化を図りたい。

○ 今回の報告書では、ITを活用した教育効果の検証に力点を置きたい。そこで、来年度前期授業の中で、教育効果を検証いただきたい。

○ ITのみを活用した授業だけではなく、通常の対面方式の授業とIT活用をいかに組み合わせるべきかに焦点を当てたい。

以上の説明を踏まえて自由討議したところ、下記の旨の意見があった。

 

(1) 設計・計画について

  • 地方公共団体と連携した街作りプロジェクトは、学生にとっては有益な結果を得るが、教員側にとってはそのための段取りに甚大な労力を要する。また、相手側の地方公共団体も人事異動で担当者が年々変更するため、その度に関係を再構築する必要に迫られるなど、一筋縄にはいかない。維持するためには体力が必要である。
  • 今後設計・計画に求められるのは、公共団体主導のアーバンデザイン、都市計画ではなく、地域密着型のまちづくりに参画することではないか。昨今は景観の問題がきっかけとなり、市民主体のまちづくりの波が広がりつつある。報告書でもこのようなコラボレーション型授業のモデルを紹介できれば、5年先のあるべき設計・計画教育を先取るものと言える。

(2) 構造について(真下委員)

  • 授業評価の手法については、学生アンケートを一つの指標にすることが考えられるが、学生のレベルによって評価も変わるから、必ずしも客観的であるとは言えない。
  • 建築の本質を理解させるために力の流れを単純化して教えようと努めると、耐震強度偽造問題と同じだと言われてしまう。このような学生の混乱を解消する必要がある。
  • 工学部でも技術者倫理の科目を設置すべきかどうか議論されているが、授業を受けたからと言って必ずしも技術者倫理が学生に身に付くとは限らない。それが一つの論点となっている。
  • 耐震強度偽造問題でも構造解析ソフトが取り沙汰されたが、学部で高度なソフトの操作に慣れておくと、他の大学院に進学または企業に就職した場合に、他のソフトを使用することが迫られても、抵抗感無く操作することが可能である。
  • 東海大学で導入しているのはNASTRANという構造解析ソフトだが、このソフトは応力計算の結果を出力するものであり、実務では応力計算の結果を経た後に個別審査を要するので、偽造の余地が無い。一方一貫計算ソフトは、パターン化された建物の構造を一貫計算が可能となり、出力された数値の計算過程がブラックボックス化されてしまい、偽造の温床となる恐れがある。
  • 3DCADによって、建物にかかる力を視覚化することができる。耐震強度偽造問題の教訓を踏まえて、今後は具体的にどのような力が働くと建物が壊れるのか、視覚化して見せていく必要があるだろう。

(3) 材料・施工について(衣袋副委員長、眞鍋委員)

  • 本委員会では材料・施工を専門とする教員がいないが、委員海外の材料・施工の教員に尋ねたところ、材料・施工部門でITを活用することは難しいとの答えが返ってきた。
  • 早稲田大学の嘉納教授は、施工における3DCADの活用を提唱していることから、執筆依頼を検討した方が良い。
  • 日本大学工学部の新校舎の設計を某建設会社に依頼しており、会議では先方から3次元の図面が提示されるが、それを教育で活用することが可能であれば有益である。それが叶うよう交渉したい。

(4)その他

  • 建築士の倫理や職業意識については、報告書の総論で触れるのが妥当ではないか。
  • 3DCADを用いて作成された製図は、オブジェクトを水平に切断するとその断面を平面図として見ることができる可能である。また、広大な空間を有する建物を仮想的に構築することが可能となり、それが構造や設備の側面から妥当であるか確認するために、他分野の教員とコラボレーションすることも可能となる。このように、3DCADは単に三次元の製図を作成するのみならず、分野横断的な連携を実現するきっかけにもなる。
  • CAD教育は、ソフトの操作法に関する教育と非難されがちであり、実際に学生も往々にして操作法のみ習得することを目的としてしまうが、実は操作法を習得することが目的なのではなく、むしろそれは新しい発想を生み出すためのスタート地点であるということを知らしめる必要がある。

 以上を踏まえ、本委員会では、@総論部、A四分野別(設計・計画、環境・設備、構造、材料施工)に5年後を見越した教育の方向性を提示、B2〜3つの具体的な授業モデルの紹介を暫定的な報告書の方針とすることにした。なお分野別の担当は、以下の通りとした。

○ 設計・計画・・・衣袋副委員長、下川委員

○ 環境・設備・・・関口委員、寺尾委員

○ 構造・・・真下委員、横井委員

○ 材料施工・・・未定

 なお、これまで議論されたコア・カリキュラムついては、本委員会でカリキュラム自体を構築することは困難であるので、分野別の教育目標や到達目標を文章化することになった。