社団法人私立大学情報教育協会
平成19年度第1回経営工学教育FD/IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成19年6月4日(月)午後1時から午後3時まで

U.場所:私立大学情報教育協会事務局会議室

V.出席者:渡邉委員長、越島、玉木、細野、後藤、佐々木、冬木、小池各委員、
井端事務局長、木田

W.検討事項
1.「ファカルティ・デベロップメントとIT活用」の刊行について
  事務局より、18年11月に報告書が刊行された旨の報告がなされたともに、委員会への謝辞が述べられた。また、事務局にて取りまとめた第1章の概要についての説明がなされた。
  さらに、関連情報の提供として、平成19年6月1日に発表された教育再生会議の第二次報告(「社会総がかりで教育再生を」)についての説明がなされた。この報告では、大学の取り組むべき課題として5つの提言がなされている。提言1では、教員の教育力向上のためのFDの義務化や教育手法に関する研修プログラムの開発、提言2では企業や社会との連携の強化、提言4では国公私を通じた大学地域コンソーシアムや大学院の共同設置、提言5では国立大学の改革として、人事給与システムの見直し(教育・研究業績の給与への体系、学長選挙の廃止、学長のリーダーシップの発揮)が謳われている。
2.経営工学における産学連携教育の具現化に向けて
  事務局長より、産学官連携サイバーユニバーシティ構想の概要と、本委員会の活動内容として、経営工学における産学連携教育の実現に向けて検討されたい旨の説明がなされた。説明の後、渡邉委員長、後藤委員、小池委員より、産業界に求める教材コンテンツの要望について、資料に基づき説明がなされた。要旨は以下の通り。

(1)渡邉委員長
  システム分析序論の授業において、学生に生産現場の作業状況を把握させるために、作業現場を撮影したコンテンツを共同作成したいと考えている。画像や動画によって現場の状況を提示するだけでどれだけの効果が期待できるかはわからないが、物流やシステム構築を学生が視覚的に理解できるようなものが望まれる。
  現在3〜4年生を対象とした卒業研究では、3日間学生が現場に足を運び、現場見学と企業の方からのヒアリング、ビデオ撮影を行い、データを分析した結果を報告させているが、それらの報告に対して企業の方からも意見をいただいている。

(2)後藤委員
  環境マーケティングの授業において、市場細分化”、“ターゲッティング”、“製品戦略”、“価格戦略”、“チャネル戦略”、“プロモーション戦略”等に関する事例や実業界経験者による経験談を交えた実践的内容を含むコンテンツを活用したいと考える。これまでも年に1回企業の方を招いてお話いただいているが、それにより学生の興味関心を惹き起こしていることが窺える。

(3)小池委員
  次年度からシステムデザイン工学の授業を担当するが、システムデザイン工学の定義は未だに確立していない。よって、従来のシステム工学をベースにアレンジを加えた授業を実施しようと考えているが、どのようなアレンジを加えるべきかについて悩みを抱いている。そこで、システムをデザインするとはどういうことであるかについて議論することは難しいので、システムデザインの事例を提示したいと考えている。業種やメーカー、あるいは部署ごとに扱うシステムは異なるし、システムのデザインも異なるので、そのような世の中に存在する多種多様なシステムを提示するためには、企業の協力を仰いで教材を作成する必要があると考えている。具体的には、企業の方からシステム構築の考え方を説明いただくようなビデオ教材が望ましい。

 以上の説明について意見交換したところ、以下の旨の意見があった。

@渡邉委員長の資料について

  • 対象を二つに分ける必要があると思う。一つは全体のモノの流れ、つまりどのように製品が組み立てられるのかを全体的に把握できる内容のものと、もう一つには個々の工程の改善が把握できる内容のもの、この二つを切り分けて考える必要がある。前者については、例えば日本のものづくりの歴史を伝える教材をパブリックなものとして大学全体に提供できる仕組みが必要である。後者については、個々の工程の改善の話は生々しいので、それを汎用的な内容へと加工する必要がある。このように、階層化したアプローチが必要ではないか。
  • 実際の講義に企業の方をゲストスピーカーとして招いてお話いただいても、学生にとっては単なる自慢話として受け止められてしまうことが多い。教員がそのようなコンテンツをお膳立てするより、むしろ学生が個々の興味関心に応じて収集・活用することが可能な1分間程度のコンテンツを用意した方が良いのではないか。そうしない限り、企業人の話も学生の血となり骨となることはない。

A後藤委員の資料について

  • 例えば、市場の細分化というテーマで、競合する企業同士に自社の考えを話してもらえれば、各社の市場におけるポジションが明確になるであろう。つまり、こちらでキーワード100個ほど用意して、各企業に対して1つのキーワードについて20秒で考えを述べてもらいそれをビデオ撮影して収集すれば非常に面白いコンテンツができると思う。

B小池委員の資料について

  • この授業ではどのような目標を設定しているか。
    → 少なくとも何らかのシステムを構築する場合には、一つや二つだけではなく様々なことを同時並行に考える必要があることを理解させたい。4年制大学であれば理論的な考察を深めることも可能であるが、短大ではそれよりも世の中を色々と見せてあげることの方が必要であると考えている。最近彼らが短大を卒業して社会に出る、あるいは4年制大学に編入学する際に、授業で学んだことが少しでも役立ったと実感してもらいたいのが希望的観測である。

その後、これまでの事務局の説明、各委員の説明を統括して意見交換したところ、以下のような意見があった。

  • 渡邉委員長の構想は、他の委員の構想と若干色合いが異なる。渡邉委員長の構想は、企業の生のデータを入手して学生に分析させることを主眼に置いているが、後藤委員、小池委員の構想は、あるテーマに対する企業の考えや取り組みについて企業の方に話してもらうことを想定している。渡邉委員長の構想は内容的にも高度であり、企業と交渉するためにも周到な準備と仕掛けが必要である。また事務局が考えるように複数の大学で共同利用できるような汎用性の高いコンテンツを考えると、企業の実態を知らしめるような内容のものが望ましい。ただし、企業の実態を知らしめるための内容といってもレベルに応じて階層化する必要があり、例えば後藤委員の構想では企業戦略などの話を大学院生に聞かせてやりたいと考えているが、小池委員の構想ではもっと単純でも良いから企業の生々しい実態を短大生に理解してもらいたいと考えている。そこで、企業の実態を学生に理解させるための最も基本的な内容としては、「仕事」の一連の流れを収録したものではないだろうか。つまり会社には顧客がいて、顧客をニーズに答えるために、社内でどのように仕事を分担して、各部署の仕事内容がどのように相互に関連しているか、を理解させるようなコンテンツである。このような内容であれば企業秘密に触れることなしに学生に企業の実態を把握させることができるのではないか。
  • そのためには、やはりキーワードを提示してそれについて話してもらうのが最も良い手法ではないか。カリキュラム内でのキーワードを抽出してそれに添って話していただければ、授業内容に適したコンテンツの作成が可能となるのではないか。
  • システムづくりにせよものづくりにせよ、基本的な業務な流れは似ている(要求定義、基本設計、詳細設計、コーディング、検査)。それを様々な業種の企業の方に説明いただけるようなコンテンツが作成できれば理想的である。
  • カメラの前で企業の方に話してもらうことは難しい。むしろこちら側が台本を用意してインタビュアーとなり、企業人に聞きたいことを質問して応答してもらう方が双方にとってやりやすいのではないか。
  • ビデオコンテンツの時間は長すぎない方が良い。せいぜい一つ一つのコンテンツが2〜3分程度に収まるよう編集する必要がある。
  • 提案であるが、コンテンツ作成のための要件を3つ程度に分けて考えた方が良いのではないか。まずは会社概要を説明してもらったうえで企業戦略を社長や事業部長に話してもらう。次のその会社の代表的な製品の歴史について(固有技術からいかに市場価値を創造したのか)話してもらい、最後にその製品を売るための仕事(事業システム)について話してもらう。ただしこの内容では3分以内で終わらないので、最低限会社概要と経営工学として抑えておかなければならない垂直統合プロセスに内容を絞って作成すべきである。
  • まずは最低1個のサンプルを作成して、それをもとに広く企業に協力を仰いだ方が話が早いのではないか。

 以上の意見を踏まえ、次回委員会までに細野委員にコンテンツ作成案を取りまとめていただくこととなった。また、次回委員会では、私情協の賛助会員の企業に参加いただき、協力を打診することとした。

3.その他
  事務局より、本委員会の活動として、産学連携の推進のみならず、経営工学として為すべきFDの内容について議論いただきたいとの説明がなされた。