社団法人私立大学情報教育協会
第1回心理学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成15年7月26日(土)午後2時より午後4時まで

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:木村委員長、今井副委員長、中原、田崎、大島、塩谷、中澤、吉田、桐木委員、井端事務局長、木田

W.検討事項

 議事に先立ち、本年度より新たに委員として就任された田崎美弥子氏が紹介された。

1. 木村委員長による授業事例の報告

 木村委員長より、Webページを活用した授業事例を報告いただいた。Webページを用いている科目は、早稲田大学第一文学部の学生を対象とした「学習心理学」、第二文学部の学生を対象とした「心理学基礎実験」の二科目である。講義用Webページには、大学のホームページ、文学部のホームページからアクセス可能である。

 「学習心理学」のwebページには、授業形式や実験日程、実験室や実験で使用する実験装置の画像、また実験の進行手順が掲載されている。例えば、オペラント条件づけのページでは、実験装置、被験体、実験手続き、結果の整理方法がテキストで掲載されているほか、実際のハンドリングの様子を画像で、実験の様子を動画で閲覧することが可能である。動画については、Webに掲載していないものもあり、講義の合間に見せている。

次に、「心理学基礎実験」について説明があった。この授業は、認定心理士の資格取得を申請するために必要な科目であり、授業内容は、「二点弁別閾」、「重さの弁別」、「ミューラー・リヤーの錯視」、「形の感情効果」、「鏡映描写」の5つの実験を通年で実施する。今回は、「二点弁別閾」と「ミューラー・リヤーの錯視」のWebページについて報告いただいたが、「学習心理学」のページと同様に、実験装置や実験手続きの画像や動画が掲載されている。

最後に、「心理学基礎実験」のオンデマンド授業について説明があった。コンテンツ形式は、予め撮影した教員の映像が画面端に現れ、説明と同期して画面中央にスライド教材が配信される。なお、通常の授業は90分間であるが、このコンテンツは20分に内容が凝縮されている。

以上のコンテンツに対する学生の評価を把握するために、アンケート調査を行ったところ、まずWebページについて、Webページの存在やアクセス経路、利用方法や具体的に何が参考となったか設問した結果、webページの存在は7割方の学生が知っていたものの、実際にアクセスした学生の数はそれより低かった。アクセス経路については、わかりにくいと言う回答が大半を得た。利用方法は、予習やレポート作成のために用いるという回答が多く、復習のために用いる学生は少なかった。参考となったコンテンツは、文章が最も多く、動画像の評価は低かった。

オンデマンド教材については、同じ箇所を繰り返し再生できるという感想があったが、教員の映像は不要、通常の授業の雰囲気が感じられず、違和感を覚えたとの回答もあった。

2.桐木委員による授業事例の紹介

桐木委員は、広島女学院大学文学部人間社会文化学科に所属しており、人間文化分野の心理学関連の授業を担当している。担当授業は、「心理学概論」、「心理学研究法」、「データ解析」、「心理学実験演習」、「認知心理学」などあるが、「心理学実験演習」と「データ解析」の授業において、コンピュータを利用している。

当面している問題として、女子大学という性質上、認定心理士の資格取得を目指している学生が多いため、心理学関連の科目も多数の学生が履修している。特に、実習科目では、学生数が多いと時間が掛かりなかなか先に進まないことがあるので、効率化するためにITを用いている。

「心理学実験演習」では、両側性転移、二点閾、ミューラー・リエル錯視、対連合学習、プライミング効果、コミュニケーションの変容、対人知覚、社会的態度尺度の作成、幼児の行動観察などから、6つの実験を半年で行う。ITの活用方法としては、まず学生グループ間で実験データを集計する際に、時間の効率化を図るために、データ送信システムを開発した。このシステムは、ブラウザ上で実験データを入力し、LAN経由でデータをサーバーに転送することが可能になる。個々のデータは、ブラウザで閲覧することができる。

また、プライミング効果などの集団実験の際には、時間的都合上実験準備が十分にできないので、Macromedia Flashを用いて作成した教材を用いて学生に実験をさせている。実験データは、上述の送信システムを用いてサーバーに転送し、集計したものを学生にWeb上で配布している。

「データ解析」では、卒業研究に向け、Excel等を利用して必要とされる統計処理を自力で行い、分析結果を解釈して、論文に記述できる能力を身に付けさせることを目的としている。t検定、χ2検定では関数を組んだExcelデータを事前に学生に配布して、を実習させている。分散分析では、cgiを用いた独自プログラムANOVA4 on the Web    (http://www.hju.ac.jp/~kiriki/anova4/)を用いて学生は分析を行い、データをブラウザ上で送信させている。

これらのIT活用により、時間的に効率化を図ることができ、授業時間内に予定していた学習内容を網羅することが可能となるが、学生が理論的概念を理解できないままになる恐れがあるので、授業時間外に学生のサポートができるような自習用システムなどを構築する必要があり、現在検討している。

3.塩谷委員による授業事例の紹介

塩谷委員は、金沢工業大学修学基礎教育課程の心理学関連科目を主に担当している。

最初に、金沢工業大学のIT・マルチメディア関連の設備について説明があった。金沢工業大学では、学生全員がノートPCを所有しており、情報コンセントは学内に6000個設置されている。また、学生は、学習管理システム(ポートフォリオシステム)を通じて、レポートの提出や教員の使用教材をダウンロードすることが可能である。また、殆どの教室の教員卓にはネットワークに接続されたPCが設置されており、全学的に情報化が進んでいると言える。

次に、塩谷委員自身の授業におけるIT活用事例について説明があった。塩谷委員は、PowerPointの様々な機能を活用している。例えば、「行動と心理」の授業では、オペラント条件の実験を説明する際に、口頭だけでは学生の関心を惹かないので、PowerPoint上のアニメーションを用いている。また、画面の動きだけでは学生が寝てしまう恐れもあるので、音声を多用している。

その他に、「実験行動心理学」の授業では、t検定などの統計手法を身に付けるため、学生にノートPCを持ち込ませ、アンケートの作成、集計を実習させている。

4.その他

事務局より、委員会改組に関する説明があった。概要は下記の通りである。

これまでの名称「心理学情報教育研究委員会」では、「情報教育」の研究に特化した委員会であるとの誤解を招きやすいことに鑑み、ITを活用して心理学教育の改善を図るという本来の委員会趣旨をより広く普及させるために、「心理学教育IT活用研究委員会」と名称を変更するに到った。なお、他の情報教育研究委員会でも同様に、本年度より委員会名称を変更した。また、委員会の活動内容も、従来のITを活用した教育方法の研究に加え、授業実験等を通じて、ITを活用した教育内容の豊富化や高度化を検討していく。

次に、特色ある大学教育プログラムに関して説明があった。概要は下記の通りである。

本プログラムは、国公私立大学・短期大学の教育改善に資する種々の取組を募り、そのうち、特色ある優れたものを選定し、広く社会に情報提供することを目的としたものである。選定された(私立)大学には、本プログラムのための予算枠9億円から補助金が配分されるほか、既設の補助金も優先的に採択される。

本プログラムは原則的に一大学につき一件の応募が可能であり、応募は特定のテーマ(総合的取組に関するテーマ、教育課程の工夫に改善に関するテーマ、教育方法の工夫改善に関するテーマ、学生の学習および課外活動への支援の工夫改善に関するテーマ、大学と地域・社会との連携の工夫改善に関するテーマ)のいずれか一つに沿わなければならない。また、学長を中心としたマネジメント体制の下で実施されているという条件が課されている。なお、複数大学共同による応募も可能であるので、本委員会としても、共同申請を一つの活動指標として考慮されたい。

 なお、次回委員会では、中原委員と田崎委員より、それぞれ授業におけるIT活用事例を報告いただくこととした。