平成20年度第1回CCCコミュニケーション関係学グループ議事概要

平成20年度第1回CCCコミュニケーション関係学運営委員会議事概要

Ⅰ．日　　時：　平成20年12月19日(金)午後4時30分～6時30分
Ⅱ．場　　所：　私情協事務局会議室
Ⅲ．出席者：　北根委員(ネット参加)、阿部委員、中西委員
　　　　　　　　　井端事務局長、事務局山野上
Ⅳ．検討事項：

１．学士力に関する当協会の取り組みについて

　第1回目の委員会開催に当たり、これまでの高等教育行政に関する国、文部科学省の動向や、それに対する当協会の取り組みについて、井端事務局長より説明がなされた。

（１）国・文部科学省およびそれに関連する当協会の動向について

学士課程教育の構築について

　かねてより大学教育の単位認定が形骸化しており、大学卒業時に基本的な学力を身につけていない学生が目立つようになり、大学として明確な教育目標や質の保証を求める声が大きくなってきた。そこで、中教審では学士課程教育の構築を審議し、大学を卒業するまでに最低限身につけておくべき能力を学士力と定義し、各大学に学位授与の方針の策定や分野別の質保証枠組みづくりを促すに至った。

教育振興葵基本計画について

　これらの支援を国として今後５年間に亘り取り組んでいく施策を取りまとめた「教育振興基本計画」が公表された。高等教育に関しては計画内の「基本的方向３」において、社会からの信頼に応える学士課程教育の質の向上や、卒業認定も含めた厳格な成績評価システムの導入、教員の教育力向上実質化、教育研究機関の拠点形勢、大学連携による教育の質保証等々について、補助金も含めた支援施策が盛り込まれている。
特に「共通に身に付ける学習成果の明確化と分野別教育の質の向上」として、国際的な通用性の確保、分野別の教育の質の向上保証を大学に取り組みを促す。
　こうした取り組みが国から提示されたことには、社会から大学教育に対する信頼の失墜が原因としてある。大学の教育成果のゴールを決めることで、それが初等・中等教育の学習改善や、高大接続連携にも繋がる。大学としてガバナンスを発揮して、質保証していただきたい。
　これらの方針は強制力を伴ったものではないが、学部改組等、文部科学省の許認可が必要なケースでは認可が下りないということもあり得ることは理解しておきたい。

OECDによる学習成果の評価について

　経済協力開発機構(OECD)では、各国の経済発展は教育水準に拠っていると考え、生産性の低い教育を行っている国には勧告を行う目的で、世界共通の大学生の学力試験を実施する方向で動いており、来年ないし再来年にはフィージビリティスタディズ(実現可能性調査)が実施される。内容としては、批判的思考力、応用展開力、コミュニケーション能力等を問う内容となり、２０歳前後の学生が多い日本には厳しいものとなる。社会人を経験して大学に入学する欧米の方が有利かと思われるが、社会からの要請に加え、世界的な通用性の確保を目指すためには、国としては協力せざるを得ないという状況になっている。

私情協授業改善調査について

　平成19年度に教員を対象にした授業改善に関する悉皆調査では、基礎学力の低下や学習意欲の低下が指摘され、学習意欲を高める効果的な授業のシナリオ作りが難しいという問題を挙げた教員が多数に上った。大学としての課題については、人材育成を主軸にした教育改善に大学が積極的でなく、FDを主導できていないという回答が多く、大学の危機意識の欠如を指摘する声が大きかった。
　また、先生方にも、人材育成が大学教育の主な目的であることを意識してもらうことが急務な課題ということが分かり、また、カリキュラムの到達度測定による出口管理の徹底が大学に要求されていることが分かった。
一大学では解決できない課題として授業の成功事例のアーカイブ化や社会からの支援を求めたいという興味深い意見が集まった。
　情報技術の使用効果については、刺激が高まり動機付けには役立つが、学習効果の向上には必ずしも繋がっていない。授業シナリオが不十分だとITをただ活用しても効果はないということを示している。

今後の進め方について

　現在、各学問分野で最低限度の学士力を平易な文章で表現し、学士力の第一次案として公開している。社会学分野でも同様に学士力案を作成することとするが、最初の学士力案が確定した後には、更なる詳細化を来年度の冬頃までには明らかにしたい。共通能力も含めた学士力、コアカリキュラムのイメージ、能力判定や測定方法等について検討を進め、サイバーFD研究者からの幅広い意見を反映した上で文部科学省に提言することとする。
　世界に通用する教育を実現するために教育の多様性に配慮することが指摘されていることから、私情協では多様な意見、分野別の意見を参考に提言をまとめた。また、ICTを活用した教育の推進について、学士力のような目標が定まっていないと、何に対してICTを活用するのか説得力をもてない。
　一方で、私情協では経済団体との連携も視野に入れている。実際に社会で活用されている現場情報を企業に提供していただいたり、インターンシップで学生を受け入れていただくなど、経済団体に大学の授業への協力を要請していくことを検討している。

２．コミュニケーション関係学における委員間の意見交換

　前項で説明した内容を踏まえ、コミュニケーション関係学における学士力について、フリーディスカッションを行ったところ、次のような意見があり、今後の方向性について共通認識を得た。

(A委員）「学士力」という言葉については、初めて聞くものの、他の表現として例えば「社会人として責任感を持って仕事ができるようにする」という意味合いとして捉えており、それを目標に学生の育成に努めてきた。教員としての責任があるのはもちろんだが、学力的に多様な学生が増えてきた現在では、学生にも責任を負っていただきたいという面もある。学生全員の学力を押しなべて向上させるということは現実には難しく、上位層に対してエリート教育を行い、大学の名前を背負ってもらっているというのが実情である。
学力レベルが劣っていても学生の数を確保しなくてはいけないという経営的な問題と、すべての学生を最低限度の質保証を行って卒業させる義務という、言わば二律背反が私立大学にはある。しかしながら、大学生の75パーセントが私立に在籍している現状では、社会に対する責任が大きく、建学の精神を体現した大学の掲げる最低限度の学力修得、人間力形成について、大学が責任を持って教育することが求められる。
私立大学に対する補助金支出について厳しい目が向けられている。国の干渉を受けることなく、自らの自治で補助金を活用した授業改善を行うのが理想だが、補助金を受け取っている以上、エビデンスを出す必要ある。そのためにも学士力を規定しておくことが望ましいのではないか。また、ITを使った授業に効果があるかというと、前述の通り効果は低い。それにも関わらず、300億円の補助金が予算化されていることに対して財務省が難色を示し、次年度からは、教育内容をテーマとして挙げて、そのテーマに関する必要な支出を取りまとめて申請する方式に変更が予定されている。税金を使うことの意義を明確にしてほしいという狙いがある。
就職活動をしている学生をみると、企業があまり学力について期待していないのではないかと思える面がある。例えば、学生時代に何を頑張ったか？等と勉強以外のことを訊いてくる。企業側が大学に側に何を求めているのか知りたいというのが率直な感想である。
中教審の学士課程教育について、コミュニケーションスキルや、生涯学習能力など、知識だけではなく、応用力も求められている。一方通行の授業だけではなく、インターンシップを受ける等、社会で揉まれて卒業してもらいたい。
多くの教員は学士力等の問題について認識してない。常識やしつけのレベルまで対応することまでかまっていられないという意見があるが、教員が学生の頃と今の学生の気質は異なっている。礼儀規範の欠如、上下関係の崩壊、責任転嫁しすぐにキレる等々の問題があり、看過できない問題となっている。教員が根本的なところから学生指導を行う必要がある。
就職に際し、学生と企業のミスマッチが目立つ。1年に2,3割の新卒者が退職していく現状がある。本人の自覚が大事なのだが、学生に真剣味が足りず、相談に乗るというよりは説教をしている時間が長い。説教の仕方によっては、パワハラ、アカハラと言われ、叱ると逆に訴えるという親もおり、それならば放置しておいたほうがよいという教員が萎縮してしまう。一方で、キャリア教育は、持続的な就業力の育成を目指すものとして、今後教育課程の中に適切に位置づけるものとされ、就職課だけでなく、教員が参画することが求められている。
自ら律し努力ができる学生にとっては、学士力のような目標を掲げることは意味あることかもしれないが、目的意識が低い学生にとっては無駄ではないか？
大学に入って何をしたいか分からないうちに進学のタイミングがきてしまい、偏差値だけで大学を決めてしまうというのが今の高校生の実情ではないか。なんとなく通学し、とりあえず卒業するという学生が増えているのは確かである。教員がキャリア形成にどう関与するのか、文科省、ビジネス界の要請も含め、様々な課題がある。
国や企業、大学、家庭などが、どこまで役割分担をすることができるか、明らかにすることが重要である。例えば、少人数教育が必要な場面では、人員やコストがどうしても生じてしまう。しかし必要であれば授業改善を行い、自助努力の範囲を超えるところについては国、社会からの支援をお願いする。
私情協の教員調査では、社会からの支援が欲しいという意見が多かった。現場情報などのエビデンスを使いながら、学ぶための動機付けに活用するというもので、私情協では経済団体の協力を得ながら実験していこうとしている。例えば、建築分野では、設計事務所に学生の作品をWebで講評していただき、キャリアアップ教育では、社会で活躍する人に来訪もしくはネットから参加して質疑応答をしていただくことなどが考えられる。
学生の質保証について、授業科目の積み重ねではなくて、それらを統合した応用力をもって卒業させるということにあたって、そのような方針でカリキュラムが成り立っていない。教員同士の連携がなされておらず、どこまで身に付いたかという検証もできていない。
学士力と合わせて教員の教育力も問題となってくる。私情協では「FDとIT活用」で授業設計能力や授業の質保証取り組み能力など、教員の教育力を提案している。また、ヨーロッパでは大学教授について資格がある。日本も教員の資格制度までいかないまでも、どういう能力が必要か各大学で策定していただきたい。
(B委員)地方小規模の大学で教えているが、進路もほぼ県内で決まってしまうような状況にあり、都内有名校とは、学生の間に文化的、質的にだいぶ隔たりがあるように思われる。大学の中でも基礎学力をどうするかは重要な問題として捉えており、社会人としてどう力をつけるか、授業科目に落とし込む段階にきている。大学ごとに温度差が大きい問題であり、各大学ごとに考えていかなければならないと考えている。
(C委員)学士力の問題については以前から関心があった。以前奉職していた大学では学生の学力に問題があり、トップ層からの指示で改善を求められ、内容は現場に一任された。結果については具体的なエビデンスを求められたが、例えばそのような情報交換を大学間で行うこともFDの一環といえるのではないか。
芸術系の委員会では、彫刻、絵画、デザイン等色々ある分野を包含するように学士力を定義した。本委員会もまず、学問内容を整理する必要があるのではないか。たとえばコミュニケーション学と言った場合、おそらく世間がイメージするものは教養学部的イメージではないか。マスコミ論や、社会学、異文化コミュニケーションなどが挙げられる。学士力としてまとめられる概念があるか、総花的なものになってしまわないか不安はある。
専攻として求められる学士力あるいは教養教育としての学士力のいずれかに方向性を定める必要があるが、私情協では、教養レベルでの学士力と考えている。その上で、専門教育の学士力を別に規定することを検討している。英語の分科会では、汎用能力を基本に内容を付け加えたものとしている。英語は後に専門と教養の二つに分ける予定であるが、コミュニケーション関係学も同様に行おうと考えている。
先生方に意識していただくということが最も重要である。いきなり上位基準を規定しようとしても際限がない。それぞれの分野、ジャンルごとの最低基準を出して取りまとめていけばよいのではないか。
日本学術会議で学士力を検討している中、私情協で敢えて分野別学士力を提言する意図について、「広く教員の見解や社会のニーズを聞いて学士力を検討する」とされているにもかかわらず、学術会議は学者の集まりになっている嫌いがあり、より多様な意見を反映させる必要を感じているためである。例えば、心理学分野での学士力案が公開されたが、臨床心理士試験への対応がベースになっており、職能開発の内容になっている。学士力としては不適当ではないか。私情協では、委員間のネットワークを駆使し、社会からの意見を反映できる上、サイバーFD研究者(約2万人弱)の意見を得ながら学士力を検討することができるというメリットがある。
社会人の専門家を招聘して学士力策定に協力していただけるとよいのではないか。例えば対人コミュニケーションの分野であれば人事部長、メディアコミュニケーションであれば、マスコミや民放連など、IT産業的な面からはWebデザイナーなどが対象となるのではないか。
大学で民放連出身の教員がいるが、就職予備校的な内容となっており、学士力とは相容れない部分がある。

３．今後の予定

　次回委員会は３月上旬ないし３月下旬に開催する。日程は追って調整する。