論文誌「情報教育方法研究」 第5巻 第1号 − 概 要 − |
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「初等アセンブラプログラム評価支援システムの開発と活用」 帝京大学 渡辺博芳、荒井正之、武井惠雄 コスト・ベネフィットは教育においても重要であり、計算機システムによって自動化できる作業を教員とシステムの協調作業によって効率化し、結果として教育効果を高めることが期待される。このような視点に基づき、COMET/CASLおよびCOMET II/CASL IIを対象として初等アセンブラプログラム評価支援システムを開発し、実際の授業で運用してきた。評価支援システムは、年々拡張を行っており、現行の最新版は大きく分けて、1)問題データの作成管理、2)プログラム動作の自動評価、3)評価事例を用いたプログラムの実現方法の自動評価、4)提出状況の確認と評価入力支援の四つのサブシステムから構成される。授業における3年間の実用実績を基に、定性的評価と定量的評価の両方を行い、授業内容の前進と授業効率の改善の両面において、本システムが有用であることを明らかにした。 「インターネットによる中国語音声教育支援システム 〜中国語音声教育データベースシステム〜」 成蹊大学 湯山トミ子、武田紀子、沈 暁文、土屋肇枝、余 瀾、 根岸宗一郎、 田 禾、 虻川誉之 本システムは、中国語の音声教育、学術研究の発展に供するために制作した大規模な中国語音声データベースである。収録語彙8万余語、プロアナウンサーによる模範音声データ10万個の規模を持ち、従来の電子辞書にはない複数キーの組合せによる複合検索など、多種多様な検索機能(72項目)と精度の高い音声波形表示機能(音声の高低、強弱の提示)を備えている。これらの機能によって、レベルや目的に応じた単語データ(文字・音声)を瞬時に検出し、中国語学習、教育研究、音声学、言語学研究に利用できる。また、ユーザは、模範音声とユーザ音声の比較波形表示により、両者の相違を視覚的に認識しながら発音矯正できる。本システムは、学内に限らず誰でも幅広く利用できるようWeb上に無料で公開しており、社会に開かれた教育学術学習システムとして利便性、汎用性を有している。 「幼児教育科学生のための情報教育カリキュラム『デジタル紙芝居』の実践」 常磐会短期大学 新谷公朗、平野真紀、植田 明、宮田保史 甲南大学 井上 明 同志社大学 金田重郎 幼稚園・保育所へも情報機器の導入が急速化している。一方、保育者を養成する短期大学においても、高等学校での情報科目の定常化から、入学生の情報リテラシーの向上が見込まれ、従来のような情報機器の操作のみを教える情報教育を続けることは、困難である。今後は、保育活動にも生かせる、より実践的な情報機器活用を主眼とした教育カリキュラムが必要であると考えられる。しかし、情報科目単独では、このような課題を解決することは難しい。そこで本研究では、幼児教育科の総合演習において、1)幼児美術の観点から表現方法としてマルチメディアを活用し、保育教材「デジタル紙芝居」を制作し保育活動で実践する。2)保育方法の観点から、デジタルコンテンツを利用した保育活動における幼児の様子を観察し、保育教材としての有効性を評価する。という二つの取組みを実践した。演習を履修した学生の科目に対する評価を含め、その実践結果についての報告である。 「CD-ROM化画像教材とWebシステムの連携による組織学教育」 日本大学 磯川桂太郎、宮崎洋一、大塚吉兵衛、戸田善久 生体を構成する細胞や微細諸構造を学ぶ組織学実習で、実物の組織標本の観察・理解を支援するために、Webサーバによる参考組織像の提供を行っている。しかし、予復習等の便からも、それらを手もとに置きたいと希望する学生は多く、約650の組織像を収録したCD-ROMの配付を始めた。CD-ROM化にあたってのジレンマは、内容の更新・修正がままならず、Web上の情報との乖離が生じる点にある。これを最小限に留め、さらに、配付CD-ROMをシステム的に有効活用する目的で、clientに装填されたCD-ROM中のデータを引用・リンクするHTMLページをserver side script (php)を用いて動的に生成させる工夫を講じた。生成されたページは学生にとっても取り扱いやすい特徴を持ち、Webおよびこれと連携させたCD-ROMは、受講学生の基本的な疑問に応需する参考教材を提供する仕組みである。 「Webを用いた統計物理学のコンピュータによる教育支援」 日本大学 鈴木潔光、戸塚英臣、石原美由紀 、住本千香、山崎幸子 統計物理学を例に、基礎科目のWebコンテンツを作成する際のガイドラインの設定および教育支援効果の測定を行った。一番容易にWebページを作成するため、コンテンツは実際の講義の黒板写真と音声を利用して作成した。このようなコンテンツ作成に関する注意点は、1)作成者に科目の学習経験がかなり必要なこと、2)授業中に代名詞を安易に使わないこと、3)添え字等をきれいに書くこと、等である。教育効果測定は、エントロピーを理解させることを目的としたシミュレーション教材を用いて行った。中には「なぜエントロピーが理解できなかったのか?」を十分検討した跡が見られた回答もあり、学生に十分ものを考えさせるコンテンツを作成することの重要性を知ることができた。試験では、エントロピーの定義等、Webコンテンツとまったく同じ問題はかなりの正答率であった反面、Webコンテンツにない応用問題を解く能力をつけさせることの難しさがわかった。 「Web Learning Studioによる建築設計の教育 〜ネットワークを利用した遠隔地の非常勤講師との実時間授業チャットによる試み〜」 芝浦工業大学 衣袋洋一 3年生対象の「居住環境デザイン演習」におけるエスキス指導のため、ネットワークを介した教員と学生、学生同士の実時間授業チャットよるWeb Based Trainingシステムを開発した。エスキスは漠然とした配置、機能、寸法、空間、形態などが書き込まれた初期設計で、多くの人からの評価や意見により完成度が高められるものである。 本システムを利用することにより、設計の専門家を非常勤講師として採用し、遠隔地の自宅、職場、出張先等からインターネット上でエスキス指導に参加し、最先端の知識や意見を学生に提供できるようになった。また、学生はチャットとそのログを見ることで、自己の思考プロセスをいつでも確認することができるようになった。 本研究により、「教える教育」から「学ぶ教育」への脱皮を図り、高い水準の授業を実現できたことが明らかとなった。
「多人数基礎情報教育授業の実施に関する工夫について」 日本大学 小林貴之 240人収容の一般講義教室をコンピュータ160台設置の情報教育併用教室へ改造した教室で実施しているコンピュータリテラシーと表計算ソフト活用法の授業を効果的に行う工夫についての報告である。 コンピュータ操作内容のビデオファイル化や教科書などの教材作成や教材のマルチキャスト配信、TA・SAの導入を実施した。さらに学生とインタラクティブな個別指導などの授業改善を目指し、LMS(Learning Management System)を導入した。LMSを利用して、理解度テスト、アンケート、レポート提出、掲示板機能を教員の大きな負担なしに実現させ、さらに学生一人ずつにレポート指導実施も可能となった。 これらの試みにより、情報機器を用いることで教員が授業を改善することは充分可能で、学生の授業に対する満足度も高いことを示した。 「情報教育における『創成』演習科目の設計・運用法 〜成長し続けるカリキュラムの実践〜」 芝浦工業大学 徳永幸生、榎津秀次 「創造性の豊かな人材の育成」に向けた教育プログラムとして、種々の「創成科目」の試みが各大学で始まっている。創成科目を「これまでに学んだ知識や思考力を総合的に発揮し、与えられた課題を具体化する喜びを体験する」授業科目と捉え、多様な学習課題を内在した総合演習科目を企画し、3年生を対象に実施している。 「創成」の意義を踏まえ、教育効果を十分に発揮させるためには、学生の思考力・技術力などの能力や知識レベルに応じた課題の設計・運用が必要である。本論文では、これまでの3年間の実践や、高校生・中学生を対象に同種の課題による実験授業を通じて得た各学年での創成能力の出現パターンの相違点・共通点などを考察しながら、創成科目の意義や設計・運用法を明らかにした。 「インターネットを利用した外国人学生のための知的な作文学習支援環境の提案」 東洋大学 中挾知延子、垣本せつ子、高橋直美、佐藤 郁、クレア・マリィ インターネットを利用した外国人留学生のための日本語作文学習環境「てにをはチェッカー」の提案である。本チェッカーはインターネットによって不特定の人間で情報を共有しあえるという点を活かして、学生が好きな場所と時間で自由に学習できることを目的としている。また、チェッカー内部のデータ表現にXMLを用いることで、コンピュータが苦手な教師にもアドバイスの作成といった教材の編集が容易に行えるようになっている。本チェッカーは、学生の入力した文章に対して修正でなく適切なアドバイスを提示し、学生が学習を行えば行うだけ、また教師がそれらの文章に対してアドバイスを提供すればするだけ、チェッカーの持っている言語知識が豊富になり、よりよい学習環境が形成されていく自己成長型教材である。本チェッカーを試用したところ、操作の簡便さと遊び感覚で使えるという点で評価されつつある。 「携帯電話を利用したリアルタイム授業評価システムの開発と運用」 東海大学福岡短期大学 八尋剛規 長崎県立大学 大塚一徳 Webブラウジング機能のついた携帯電話を用いたリアルタイム授業評価システムについての報告である。 1998年からパーソナルコンピュータを用いたリアルタイム授業評価システムを運用し、授業改善に有効であることを示してきた。しかし、このシステムは、インターネットやWeb環境を必要とするため、コンピュータネットワーク環境下でしか利用できなかった。 近年、学生のほとんどがWebブラウジング機能つきの携帯電話を所有するようになり、いつでも、どこでもインターネットが利用できるようになっている。そこで、この携帯電話を利用したリアルタイム授業評価システムを開発・実験運用した。携帯電話を利用した授業評価システムも従来のシステムと同様に授業評価システムとして機能することが明らかとなった。 |