巻頭言

コンピュータ・ネットワークかヒューマン・ネットワークか


河 島   進(北陸大学学長)


 北陸大学は薬学部に始まり外国語学部と法学部を持つに至っているが、ユニークな組織として国際交流センターと留学生別科を持っている。これまで中国、韓国、モンゴル、アメリカ、オーストラリア、イギリス等の大学と姉妹校提携を結び、学術・教育交流を通じて、コンピュータ・ネットワークの必要性は十分に感じてきていたが、コンピュータ利用は薬学部を中心に進行してきた感が強い。まことに残念ながら総合的な学内情報設備の整備は不十分であった。私が薬学部長のときに学内LAN整備の必要性を唱えて、準備委員会を設置し、まず薬学部にその基地を設置した。本年学長に就任して全学的に整備したという経緯である。これだけでも3年間を要した。
 薬学部に設置して1年を経た現在、教員の接続率はほぼ100%であり、学生(約1,200名)にも全員に利用可能なように配慮したが、端末機の不足が原因で不満をかこっている。救いであるのは、教員および学生の利用状況が大変良いことである。しかし、このように稼動させると、他大学で経験されているような導入時の数々のエピソードを経験する。例えば、年齢のギャップの大きさが如実に示される。学生や若手の教員はたちまち理解し、自分のメディアツールとして利用できるのだが、教授を始めとする比較的年齢の高い教員では、会議開催の通知を出しても会議に集まれない人が何人も出たりした。
 現在では教員はもちろん、学生達も直接メール交信を媒体として質問を寄せ、意見を寄せ、また、相談を受けるようになってきた。最初の頃は、これに答えることも楽しみでもあり、やりがいも感じていたが、頻繁になるとかなり苦痛の仕事となってくることも分かった。時間に制約されず、都合の良いときに作業を行え、また、内容によっては十分に調べてから答えることができるなど大変優れたツールであることはいうまでもない。おそらく、2000年にはこのような学内LANシステムは、無線システムとなるであろう。いつでも、どこでも、誰でも、誰にでも自由に連絡できるようになる。まことに便利であるが、問題はないのだろうか。言葉はあっても相手の顔は見えないのである。

 21世紀は「知的社会構造」であると同時に、「心の時代」であると言われている。教育は“face to face”であるところに大きな意味を持つ。同じ一言でも言葉に感情が入れば、相手に通じる程度も変わる。留学生を相手にメール交信をするとこのことが非常によく分かる。会って話すと簡単に通じることが、通じないのである。コンピュータ会議が意外に拡がらないのは、このような人と人との触れ合いを未だ解決できないからであろう。テレビ電話が考え出される所以である。バーチャルリアリティ教育が盛んに討論されているが、これはあくまでもバーチャルであって、医学や薬学に関係する学部教育に実務実習が欠かせない理由である。21世紀にコンピュータはどこまで発達するのだろうか。人と人とのヒューマン・ネットワークまでも実現できるようなコンピュータが開発されたとき、バーチャルリアリティという言葉はなくなる。



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