特集

情報化時代の教育(2)



物理学教育におけるデジタル教材の活用

鈴木 恒則(東海大学理学部物理学科助教授)




1.経緯

 高等学校から大学へ進学する生徒の割合が約50%になり、高等教育のユニバーサル化が進行している。つまり、高等教育の大衆化である。その中で、理工系学部の基礎物理学教育は、高校物理の未履修である学生から興味を持って履修した学生までが入学するため、基礎学力幅を考慮した教育方法が必要である。
 東海大学では、1993年より理工系学生のためにコンピュータを利用した科目、CAI物理学を開講している。また、2000年には、CAI物理数学を、2001年度にはCAI現代物理学を、同様に開講する予定である。これらの科目は、学習する学生にとって興味を抱く情報機器と視覚に訴える教育方法を用いている。それについて本稿で紹介する。


2.実践内容

 コンピュータを利用したCAI物理学は大学初年度に開講され、学生自らがコンピュータを操作し、授業を進行させる能動的な学習方法を用いている。そのため、講義ではデジタル教材の展開や運用方法も指導している。この操作方法に関する教育は重要で、科学教育に共通の実験や観察に似た実践教育で、その後の学習に自ら考え操作するきっかけを与えている。これは、物理学教育だけではなく、情報教育や行動力等の付加価値をも教育の範疇に入れて実施している。
 活用しているデジタル教材は、CAIシステムを利用した物理現象と数式の解説と展開、演習問題の出題と採点、静止画と動画の提示および物理シミュレーションである。これらの教材は学内のLAN環境でサーバにアクセスして利用を行っている。実際には、CAIシステムのコースウェアが教科内容で、学生が基礎学力に合わせてコースのレベルの選択を行う方法で基礎学力幅の問題に対応している。また、他の教材としては、アプリケーション・ソフトを利用した数式の可視化、インターネットを利用した情報検索および物理シミュレーションを用いている。
 講義は、教員と複数のTAによってコンピュータ室で行われている。教員は最初にその時間の講義内容を、アナログ教材を用いながら簡潔に解説し、その後は、実験操作の指導やTAを指揮しての質疑応答で講義を進行させている。学生は、それぞれのコンピュータを操って授業を展開していく。また、学生は講義に従って適時に、教室内に用意されている慣性の法則やバンデ・グラーフ等の簡単な実験装置を用いて、実験を体験している。教育スタッフは物理現象の個別解説、学生の質問およびシミュレーションや実験の補助操作を行うことを任務としている。また、学内LANに接続しているため、学生は時間外に講義室以外からシステムにアクセスし、自己学習を行っている。
 学生はこのような情報機器や実験装置を自ら操作するため、講義に参加している意識が生じ、なおかつ疑問点が質問できるので、学生には大変に好評である。この講義では、大学院生であるTAは年齢が近く、学習における経験を学生に伝えることができるため重要な役割を果たしている。


3.今後の展開と問題点

 今後の展開としては、専門に属する分野をWeb上で、場所と時間を意識しないで教育を行う方向がある。このためには、教育内容の吟味された教材の作成が重要である。すなわち、コースウェアは数種類の教材を適時に組み合わせて作成されるが、教育目的にあった最適化されたコースの組み立てが必要である。また、質問等のアナログ的情報の処理は、電子メールのみではなく、時間帯を決め、Web会議で用いられている会議システムを支える双方向通信の確立が必要である。そのために現実には、画像の配信を行う上で、通信速度と回線の太さの問題がある。特に、講義形式の場合、100台のパーソナルコンピュータが一斉に外からデータを取得すると、大学の回線を混雑させてしまう。この回線の太さとアクセス量の関係は、情報社会が定常状態になるまでは、イタチごっこである。
 いずれにしろ、大学のユニバーサル化と情報化社会を迎えた現在、基礎物理学教育は、原点を見据えながら、科学に興味を持ち、積極的に取り組む学生を育てる必要がある。


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