特集

情報化時代の教育(2)



物理学教育におけるデジタル教材の活用

松田 七美男(東京電機大学工学部物質工学科教授)




1.はじめに

 マルチメディア教材をネットワークを介して活用し、物理教育に役立つ教材を準備するには、作成者自身がマルチメディア教材の扱いに慣れるという意味もあって、まったく新しく教材を作成する場合も多いことと思う。しかし、本稿では「教育効果」、「過去の資産の有効活用」という二つの観点から、パソコンで作成した文章と数式主体の教材をWebで公開するための方法と問題点を簡単に整理しようと思う。


2.マルチメディア教材は有効か

 物理学を習得する上で、ハイパーリンク構造を持つ画像・音声・文章は、見た者の興味を惹きつけることはできても、内容を理解する上で(特に考える力という部分で)有効であるとは、まだ必ずしも断言できないと思う。
 しかし、現在の学生は、テレビやビデオや音楽に接する時間が文章を読む時間よりも長いと考えられ、いわばマルチメディア受容環境の中で育ってきている。このような学生にとっては、文章だけの教材は、極論すれば生理的に合わないともいえる。すなわち、好むと好まざるにかかわらず、教材はマルチメディア化しないと学生に見てもらうことすらできない時代になりつつあると考えられる。筆者の経験では、教科書を指定しているにもかかわらず、傍らに置かずに講義を受ける学生の数が増加していることは確かである。さらに、教科書の持ち込み可の試験にも持参しないところをみると、読まないというよりも読めないのではないかと判断せざるを得ない。
 以上のような、かなり独断的な推論のもとに教材は今後いかにあるべきかを結論すれば、大雑把ではあるが、形態はマルチメディアを含むハイパーテキストであること、ただし物理の思惟方法をたどらせる道筋を付けた内容を持つものと規定できよう。もちろん、後半部分が本質であり、マルチメディアはその道具にすぎない。ただし、マルチメディアであることが物理学の教育方法の本質となってしまう可能性(学生の変貌)があることは注意する必要があろう。


3.過去の資産の有効活用

 過去の資産とは、講義ノートやパソコンに電子ファイル化して置いてある、印刷して提示することを前提に作成された教材のことである。これらは、グラフ程度は含まれているが、ほとんど文章と数式だけのものである。マルチメディアには遠い存在であるが、前述した教材の規定の後半部分(本質部分)を満たすべく工夫をされたものであることは間違いない。これらを活用しない手はない。
 現在の高機能なワープロを用いれば、HTML化は比較的容易である。また、筆者のようにワープロの非互換性あるいはテキストのバイナリ化を嫌って、TeXで教材を書いている人々にはlatex2htmlというツールを推奨する。HTMLの規格がレイアウトに関して不十分であることは言うまでもないが、理系の文章においては数式を完全に取り扱うことができないことの方が、頭を悩ませる。latex2html ではTeXの美しい数式を画像に変換してHTMLに含ませることで、この問題を解決している。
 こうしてできあがったHTML文書に、見る者の理解の手助けとなるあるいは興味を持続させるマルチメディア素材をうまく散りばめるのは、たぶん手作業で十分と思う。残念ながら、ハイパーリンクに関しては最初から意識して書かれたテキストでないと、あとからリンク個所を検索してアンカーを埋め込む作業は大変である。HTML以外のフォーマットで、ハイパーリンク構造の文章を作成する方法もある。TeXであればHyperTeXやhtmlといったスタイルファイルを利用すればよい。TeXに限らず、高機能ワープロでもそのようなことは可能である。過去の資産のHTML化の前に、多少の手を加えることが必要となるということである。
 ところで、最初からじっくり読むことを前提に作成された教材に、ハイパーリンク構造を持たせることは無理があり、その文章内にリンクを張ることは、矛盾しているともいえる。しかし、リンクを活用することで、その文書をネットワーク上に分散する他の文書に結合するということは可能である。その程度の活用でも、今のところはよいのではないかと思うが、リンク先がなければ話にならない。こういう観点からも、過去の資産をマルチメディアでないからといってパソコンの片隅に眠らせておくことなく、ネットワーク上に公開する意義があると主張したい。


4.まとめ

 ネットワーク上に物理の教材公開ページがとても少ない現状を踏まえて、その打開の一方策として述べたつもりである。本来、HTML化という技術的な問題と、教育的効果という本質的な側面を同列に議論すべきではないと思う。しかしながら、技術の進歩が本質をも変えてしまう可能性を否定はできない。教育は実践であるのだから、マルチメディアという言葉に臆することなく、積極的に公開に踏み切っていくことが必要と考える。


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