特集

情報化時代の教育(2)



薬学教育におけるデジタル教材の活用

梶原 正宏(明治薬科大学薬品化学教室教授)




1.高齢化社会、情報化社会に対応した薬学デジタル教材

 高齢化社会、福祉社会、国際情報社会の中で、薬学の進歩は短時間に広範に拡大し、薬学教育は従来の教科書等の印刷物を主とする教育方法では極めて困難になってきており、大きなターニングポイントを迎えている。このため、医療現場での体験学習を主とする病院実習、実験を主とする卒論研究を支援するための電子化した情報教材による教育演習、病院実習等に用いるデジタル教材を発展させ、疑似体験等を通じて薬学教育を深く学ぶことが求めらている。


2.デジタル教材活用の経緯と理由

 薬学教育研究の一翼を担う本学は、一昨年、長年の夢であった都内世田谷・田無両キャンパスを清瀬市に統合移転した。移転に伴い学内LAN環境下、CALL (Computer Assisted Learning Laboratories)教室を始め、全教室にマルチメディア教育支援システムの導入を実現した。学生が理解を深め、興味を抱く教育実現のため、電子化した情報を共有化、双方向化すべく、マルチメディアを活用した授業改善が求められている。


3.デジタル教材の活用例

 学生一人一人がデジタル教材によって分子の化学構造式を表示したり、検索して理解することや、物理定数による化学構造の確認、三次元表示による立体化学構造をデジタル教材から学ぶ。また、医薬品の化学構造確認や医薬品の化学構造と薬効活性部位等々を学ぶことが求められる。このため原料、中間体、医薬品の化学構造式から各化合物のスペクトルを、学生が自ら学べるようにしたいと考え、デジタル教材の充実を図っている。


4.デジタル教材を利用したことによるメリット

 マルチメディア教材の活用例として薬品合成化学実習について述べたい。学生は実習の講義説明として板書やプリント等から解説された情報を聞き、実習書に添ってただ実習することが従来行われてきた。現在、実習開始前に学生に対して、これから開始される実習はどのような合成戦略の下、標的医薬品の合成を目指したか等の逆合成の考え方、どのような出発原料からどのような中間体を経て合成するかなどの合成論、実験操作方法等を映像、音声、文字、動画等のデジタル教材で全体の実習の流れを掌握させ、いかに学生が使用する試薬が準備されいるか等を理解させている。医薬品の化学構造式をパソコン上に描き、その化学構造はどのようなスペクトルから化学構造が確認できるか、データベースから同定を行い、自ら繰り返し学習し、知識を共有化する。インターネット等によって国内外での薬効、用途、用量、安全性、医薬品の相互作用、副作用等を学習し、医薬情報検索ができる薬剤師教育を行っている。


5.現在抱えている問題

 学生との双方向授業を活発にしていきたいが、学生用データを保管・管理するサーバシステムの容量や、学外や無線LANからのアクセスに対しての教材や情報の安全性・信頼性について問題を抱えている。学生と教員、教員と教員間の使用しているソフトが共通でないことが、大学全体のデータベース構築に大きな問題として存在している。薬学の化学系学生は分子化学構造式を描写できるソフトがぜひとも必要である。これについては、市販のソフトが高価なため、インターネット上で提供されるフリーソフトの利用を視野に入れ、CALL教室等での使用に際して、動作上の問題がないか現在メーカーに依頼して調査中である。学生にCALL教室の60台をはじめ、自主的に勉学するために自習室・図書館等の26台のコンピュータを開放しており、授業時間外の学生用プリンター管理も難しく、より自由なプリントシステムを検討中である。
 また、既存の映像や音声情報を編集・デジタル化する作業は、大変難しく専門知識と時間が必要なので、専門的にサポートを用意することがデータベース作成上重要な要素になっており、今後の解決が待たれる。
図1 局所麻酔薬リドカインの13C-NMRスペクトル


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