巻頭言

IT時代の高等教育のあり方


麻生 隆史(九州情報大学副学長)



 情報化や経済のグローバル化が一段と進むことが予想される21世紀を目前にして、「IT革命」という言葉が急に飛び交うようになった。ITとは情報技術という意味だが、果たして情報技術の革命として私は捉えるべきなのか、いささか疑問を感じている。日々の生活の中で、携帯電話をはじめ、モバイル情報端末を情報ツールとして利用し、インターネットに簡単にアクセスしてネットサーフィンすることができる。昨今、コンビニエンスストアや駅が情報拠点として、いつでも、どこでも、誰でもがユニバーサルな情報環境として拡大しつつある中、「IT革命」という言葉が私にとっては馴染まないような気がする。
 私は、ITを革命として捉えずに、ごく最近に起ってきたインターネットを中心とする「ITの革新」が社会のシステムや人の意識や価値観にまで大きく変化を及ぼす現象として、むしろ捉えたいと思う。
 とりわけ小中高等学校の情報教育については、欧米に比べてインフラ整備と活用の遅れが目立つと指摘され、政府も重点的に整備を急いでいる。インターネットに接続したパソコンを2005年までにすべての教室にと計画しているが、アメリカでは本年度までにすべての教室に普及する予定である。昨年の時点で操作可能な教員は半数、指導可能な教員は4人に1人という状況も利活用の点から早急に改善されなければならない。学校教育のみならず、一般社会における情報リテラシーの養成と情報技術者の育成も不可欠である。このため、本学では、ITをコアとして次の三つのキーワードを重点とした教育に取り組んでいる。
 第一に、起業家精神を有し、高度な技術と創造性を身につけ、それを事業化できる有能な人材の育成を図るため、ベンチャービジネスに必要な授業科目を開設し、社会人を教員に積極的に採用している。また、建学の精神に基づき、チャレンジ精神や創造性の育成を重視した4年間を通した少人数のゼミ教育を実施している。
 第二に、英語を実際的に使用するインターネットや英会話を念頭に置いた実践的コミュニケーション能力の育成を推進し、外国の文化や多元的な価値観を尊重する国際理解教育をネイティブ・スピーカーにより実践的に行っている。
 第三に、20世紀後半に急激に発展した技術が人間社会に及ぼした新しい諸問題に規制の社会的諸規範が即応していないため、情報倫理やコンピュータ倫理は未だ胞芽の段階であるが、特にコンピュータの不正使用、プライバシー管理、ネットワークにおける著作権や責任の問題等の解決を目指している。
 最後に、20世紀末の情報化社会は、ドックイヤー(犬年齢は人年齢の7倍)と表されるように、急速な変化を起し、e−コマース(電子商取引)、インターネット、携帯電話等が大きなビジネストレンドとなることは誰も予想できなかった。しかしながら、現在の産業社会等の情報化動向から、21世紀はさらにデジタル化、モバイル化、ネットワーク化が進み、高等教育における情報化は、社会システムの高度化や雇用の流動化が進む中で、ネットワークを活用した大学が今後ますます注目されるであろう。一方、少子高齢社会に対応した新たな教育システムを創る原動力としての役割が問われることになるであろう。


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