情報工学の教育における情報技術の活用

情報技術を駆使した論理回路設計教育ヘの取り組み


青木 収(日本工業大学情報工学科講師)



1.はじめに

 最近では学生のハードウェア設計に対する興味が薄れる反面、回路設計技術・デバイス製造技術がどんどん高度化し、ハードウェア記述言語教育の必要性も高まってきている。従来の論理回路設計に関する教育は、回路図設計を基本とした組み合わせ論理回路設計、順序回路設計などを行い、これらの知識を活用する実験として、テストボードと汎用ICを使って回路を組み、動作検証を行うような実験を主に行ってきた。しかしながらこのような教育内容だけでは、学生の興味を喚起することは難しい。
 そこで、平成9年度より、CADを用いた論理回路設計実験を実施してきた。また、CADを用いた教育で陥りがちな、実際のハードウェアとの関連の欠落を補うため、CADで設計した回路を実際のハードウェア上で動作可能とする実験装置[1]も開発して使用し、総合的な回路設計を深く理解させることを目的として教育を行ってきた。さらに、ネットワークを駆使した授業支援環境WELSS[2]を併用することで、学生にやる気を起こさせ、教員の負担軽減も図ってきた。


2.対象とした科目と講義内容

対象とした科目は3年次春学期の論理設計実験(週3コマ、2単位)で、この科目の履修時期までに一通りの論理回路設計およびCPUに関する基礎知識を習得した学生が対象の科目である。講義内容は、表1に示すように、CAD(Altera Corp. MAX PLUSII)を使った回路図ベースの設計、ハードウェア記述言語を使った論理回路設計、階層設計、シミュレータ、デバイスの配線等、論理回路設計CADの基本機能を各種回路の設計を行いながら教育する。最終課題として独自の機械語をCPUに実装し、実験装置上での動作検証を課している。この科目では、WELSSにより教材はすべてWebで提供し、レポートもWebで提出させる。その他、各種情報の管理が自動的に行われるため、教員1名とTA1名で十分な授業運営が可能である。
表1 実験課題一覧
第1週組合せ論理回路設計(CADの使用方法習得)
第2週順序回路の設計・回路シミュレーション
第3週階層設計(カウンタ、レジスタ等)
第4週32ビット同期型カウンタ回路の実験装置への実装
第5週HDLによる設計1(CPU機能回路設計)
第6週HDLによる設計2(ステートマシン)
第7週HDLによる設計3(シーケンサ)
第8週シーケンサからCPUへの発展
第9週8ビット独自CPUの設計
(16命令のみを実装した設計データを元にCPU動作の検証)
第10週独自CPUの改造(命令の実装方法の習得)
第11週最終課題(CPUに独自命令を追加)
第12週最終課題(CPUに独自命令を追加)
第13週最終課題(CPUに独自命令を追加)


3.今後の課題

 これまでは論理回路設計に関連する科目の大部分を多くの学生が履修してきたが、今後、学生の多様化によりかなり基礎的な内容までこの科目で取り扱う必要性が出てくると予想され、これまでの高いレベルの維持が難しい現状である。しかし、今後も情報技術を駆使して、学生のやる気を引き出し、活気ある授業を継続していきたい。


参考文献
[1] 青木, 片山:CADを使用した実践的論理設計教育の効果,
情報処理学会第58回全国大会,2X-7,pp.4-359-4-360, 1999.3.
[2] 青木:ネットワークを利用した実験・演習講義支援システム.
第12回私情協大会, D-2,pp.134-135, 1998.9


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