情報教育と環境

日本女子大学における情報教育と環境



1.はじめに

 日本女子大学は、1901年に設立、2001年に創立100周年を迎える。現在東京文京区の目白キャンパスに家政学部(5学科)、文学部(3学科)、理学部(2学科)、川崎市の西生田キャンパスに人間社会学部(5学科)があり、学部学生約5,000名が在籍する。大学院は、家政学研究科、文学研究科、人間生活学研究科、人間社会研究科、理学研究科がある。なお、家政学部には通信教育課程も設置されている。
 研究、教育における情報化への対応は早く、1968年に計算研究所を設立、汎用コンピュータを設置し、家政学部の教育、研究利用を開始した。その後、全学的なコンピュータリテラシー教育や、ネットワーク・情報機器を利用した専門教育の整備が進み、これに合わせて計算研究所はコンピュータセンターと名称を改めて情報教育関連設備の充実に努めてきた。さらに、一部の学部・学科で独自に情報機器を導入・運用している。

 本稿では、まず各学部における情報教育の内容について紹介し、情報教育関連設備整備の経過と現状、今後について述べる。


2.情報処理教育

(1)家政学部・文学部

  1. リテラシー教育
     1980年代半ばにTSS端末等を使って一般教育の「情報科学」、情報リテラシー教育の「コンピュータ」が開講された。その後1996年度より家政学部、文学部のすべての学生が、情報処理の基礎を理解するとともに、パソコン、インターネットを知的活動のツールとして使うことができるよう、1年次必修の基礎科目「情報処理」を開講した。通信教育課程のスクーリングにも対応する科目が置かれている。この科目は、初心者を前提とし、以下の3コースからなっている。
    [アプリケーションコース]
     主としてワープロによるドキュメント作成、表計算によるデータ処理を通してコンピュータの利用法の基礎を学ぶ。 [プログラミングコース]
     Visual Basicを用い、プログラミングを通してコンピュータの基礎を理解する。
    [画像処理コース]
     ドローソフトを利用した図形データ処理を中心とする。
     これら3コース共通に、情報処理の基礎、情報の表現、ソフトウェアとハードウェアなど、情報科学の初歩に関する講義も行っている。なお2000年度からは、コンピュータ利用経験者を対象とするクラスも設けている。
  2. 専門科目における情報処理教育
     家政学部、文学部各学科の専門科目では、食物学科の「栄養指導論」「給食管理実習」、家政経済学科の「会計学」「経済学・生活論演習」、住居学科の「調査分析法」、被服学科の「衣料科学演習」「衣環境学実験」、教職課程、司書課程の「教育工学」「情報検索演習」がコンピュータセンター実習室を使用して行われている。また住居学科は、CAD実習室を持ち、「コンピュータデザイン」、「設計製図」の実習、課題製作に利用している。

(2)人間社会学部

 人間社会学部には、現代社会、社会福祉、教育、心理、文化の5学科があり、大学院・人間社会研究科を伴っている。  情報教育の取り組みは、開学当初より積極的に行われ、社会科学系の専門教育や卒業研究に必須である調査・実験データの統計解析手法と、文化学科におけるコンピュータによる芸術的表現・画像処理手法の教育が主眼となっている。また、それら専門教育の基礎となり、さらに社会生活を営む上で適切な人材を育てることを目的として、リテラシー教育とネットワーク活用を中心とした基礎科目が設置されている。
 1998年度より情報教育カリキュラムの充実が図られ、単なる操作習得だけでなく、情報科学の基本概念の理解、情報機器やネットワーク環境を有効に利用した総合的な情報活用能力養成を目指す科目体系の検討がなされた。
 その結果、1999年度、既存の情報関連科目のうち、学科共通の展開科目A(無印)に置かれた基礎的科目だけでなく、学科専門科目(下記の*印)についても全学科に開放し、学生の希望に沿って効率よく履修できるように改編した。
 こうして、学科の特色に合わせつつも広く情報化社会に適応すべく、より多彩で時代のニーズに即した情報教育の新カリキュラム構築が実現した。
 現在、演習科目としては、コンピュータ操作初心者を対象とした「情報処理基礎」を初め、「情報処理応用I(実用プレゼンテーション技法)」「*情報処理応用II(芸術表現)」「*情報処理応用III(プログラミング技法)」「*情報処理応用IV(統計技法-小標本分析)」「*社会情報処理I、II」「*教育社会情報処理」「*教育心理情報処理」が開講されている。
 また講義科目として「情報科学基礎論」「コンピュータと社会」「情報と倫理」「*ドキュメンテーション論」「*シミュレーション論」といった、学部独自のユニークな科目が開講されている。

(3)理学部

  1. 理学部共通科目
     理学部2学科(数物科学科、物質生物科学科)の1年次を対象とし、情報科学の基礎を内容とする講義科目「情報科学I」と、コンピュータセンター実習室を使った「情報科学演習I」、およびVisualC++を使ったプログラミングの初歩を内容とする「情報科学演習II」を開講している。これらの科目は各専門分野での学習に必要なコンピュータスキルを身につけることを目的としている。また理学部提供の目白地区3学部学生(家政、文、理)対象の総合科目に「UNIXの世界」があり、JAVAを使ったホームページ作成を実習課題としている。

  2. 専門科目
     「情報科学II」、「情報処理I、II」「情報処理演習I、II」「計算数学I、II」「離散数学」、「離散数学演習」がある。内容はUNIX環境でのプログラミング、数式処理、数値計算、物理現象のシミュレーション手法など数学、物理学を学ぶ上で必要な情報処理教育を主体としている。
     なお数物科学科では2001年度以降、より深く情報科学、情報処理技術について学ぶ機会を設けることによって、数理・物理情報分野で指導的役割を担える人材を育成することをめざし、情報関係のカリキュラムを大幅に拡充する計画である。このため「情報数学」、「情報物理」、「情報物理実験」、「データ構造とアルゴリズム」、「数値解析」、「計算アルゴリズム」、「論理回路論」、「光情報処理」、「確率統計と情報処理」、「計算機システム概論」、「情報検索とデータベース」、「情報ネットワーク」、「マルチメディアの基礎」、「図形と画像処理」など情報関係の約30科目を順次開講していく予定である。

(4)コンピュータセンターの情報教育活動

 コンピュータセンタースタッフは、教員として上述の科目の一部を担当しているが、その他、教員・学生への質問対応、センター独自の講習会を企画・実施している。講習会は、授業履修以前あるいは履修していない希望者の学生を対象に、初歩のリテラシーおよびPhotoshopやG.CREWによる画像処理、SAS, SPSSによる統計処理、ホームページ作成、Visual Basic, C, C++, JAVA言語によるプログラミングなど、授業であまり触れられていない内容も含めて随時開講している。
 この他、西生田コンピュータセンターでは、女子大学特有の問題も配慮し情報倫理教育に力を注ぎ、メールアカウント交付条件として「メール認定チェック」(30問の○×テスト)を実施している。さらに、コンピュータセンターの利用方法、講習会のスケジュール、各種申請方法、技術情報の閲覧、メールサーバやWWWサーバのパスワード変更などとともにWWWページ上で利用できるようにしている。
(http://www.ikuta.jwu.ac.jp/ を参照)


3.情報教育関連設備

 現在までの情報教育関連設備の変遷を簡単に述べる。1968年に計算研究所が創立し、TOSBAC3400を導入してコンピュータ教育を開始した。その後、1990年に実習室に128台のPC9801を導入し、1991年には西生田計算研究所が発足した。1994年に理学部教育用のUNIXシステムを導入し、同時に学内基幹LANを構築、計算研究所にインターネットサーバ機を設置してインターネットに接続した(JOINに加盟)。1995年計算研究所をコンピュータセンターと改名し、この年、学内基幹LANを全学に拡張した。
 現在目白、西生田にそれぞれ10台のインターネットサーバ機を設置し、実習室環境に100Mbpsの回線で接続されている。実習室のパソコンは目白160台(うちノート型28台)、西生田118台(うちノート型42台)で、OSは、西生田の11台のMacintoshを除き、主としてWindowsNTを採用している。実習室管理NTサーバは、目白に6台、西生田に4台設置され、各Windows実習機は、設定環境復旧システム(Self Maintenance System)により、定期的にリモートで個々のコンピュータ環境を初期設定環境に復旧し、自動的に電源が切れるようになっている。これにより、学生による設定の変更やウィルスの侵入から簡単に復旧でき、実習室の管理を容易にしている。また、2000年度には、西生田キャンパスで、利用者激増に対応するため、既存教室にネットワーク工事などを施し、ノートパソコン42台設置の演習室が増設された。
 コンピュータセンター以外では、理学部実習室に2000年10月より、UNIXとWindowsの両方を利用できる環境の運用を開始する。具体的な構成の一つは、28台のWindowsパソコンにX端末ソフトを搭載し、UNIXサーバに接続する方式であり、別室の構成は19台のパソコンをWindowsとLinuxのdual bootにする方式である。この他、家政学部住居学科にはCAD実習室があり、52台のノートパソコンを設置している。また人間社会学部現代社会学科は研究業績データベース用にWWWサーバを構築している。
 学内LANの現状については「私情協ジャーナル」Vol.7 No.2に述べたので、ここでは簡単に紹介すると、キャンパス内基幹LANは10Mbpsの10Base-5であり、768kbpsの専用線で東京理科大学(JOIN)経由でインターネットに接続している。目白と西生田の間の回線の帯域は384kbpsである。このように現状のネットワーク環境は十分なものとは言い難い。2001年の創立100周年に合わせ、建設中の新棟にはギガビットイーサネットを敷設して、インターネットサーバー群はそちらに移すとともに、インフォメーション端末の設置や証明書自動発行などのサービスの実施を事務部門が主体となって進めている。この他ネットワークを使った生涯学習のための情報発信も計画されている。第2期工事が完成する2003年には、目白コンピュータセンターも新棟に移転し、情報教育環境が一新される予定である。また西生田キャンパスも目白と同等のネットワーク環境が整備されることになっている。これらについてはまた別の機会にご紹介することとしたい。


4.おわりに

 以上述べたように情報教育とその環境の整備については学内の関心も高く、それなりに進展を見つつあるが、整備した環境を利用して学生が自ら学ぶような仕組みを作る、教育方法改善の取り組みについては、まだ遅れていると言わざるを得ない。これからは私情協の事例発表などを参考にしながら、コンピュータセンターが中心となって実績を積み重ねて、学内にその機運を盛り上げていかなければならないと考えている。


文責: 日本女子大学コンピュータセンター長
上川井良太郎

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