情報教育と環境

明治薬科大学総合マルチメディア教育システム



1.はじめに

 明治薬科大学は東京薬学専門学校として1902年に創立して以来100周年を迎えようとしている。薬学部に衛生薬学科、製薬学科、薬剤学科を有し、1,773名の学生が在籍している。また、大学院薬学研究科に薬学専攻と臨床薬学専攻があり、91名の院生が在籍している。1998年8月まで世田谷と田無に分散していたキャンパスを現在の清瀬キャンパスに統合移転した。この移転を機に情報化社会に対応すべく最新の情報基盤を構築した。本学の学内LANはマルチメディアを利用した質の高い教育を推進し、学外の最新情報を収集するとともに独自につくる情報を発信することによって社会に貢献することを目指して整備された。その趣旨に因んでMYEDEN(Meiji Yakka daigaku Educational Environmental Network=明治薬科大学教育環境ネットワークまたは総合情報マルチメディア教育システム)と命名されている。このシステムを管理し、学内全体の情報リテラシー向上のためにIT情報を提供することと情報機器を利用した教育方法の研究開発を進めることを目的として、情報教育研究センターが1998年6月に移転に先駆けて設置された。


2.薬学部における情報教育

 薬学部は言うまでもなく薬剤師養成が目的である。そして薬剤師に課せられた使命は医療法や薬剤師法に定められているが、要約すると「医薬品に関する情報を医療従事者と患者に提供することで国民の健康と衛生に寄与すること」となる。そこで薬学部での教育は医薬品に関する基礎知識とそれを医療や衛生に活用する能力を養成するものである。そのためには医薬品に関する高度な情報処理能力を育成することも重要である。
 IT革命と言われる近年、情報機器は情報処理のための便利な道具として認識し、学部教育全体を通して情報機器の扱いに精通することを目指している。 まず本学に入学するとオリエンテーションの一環として情報セキュリティーと情報モラルの教育を行い、学内コンピュータ利用のためのアカウントとメールアドレスを交付する。1学年前期では情報処理演習として1単位の選択科目があり、約3分の2が受講する。ここではアプリケーションを利用する姿勢を養うことを目的にコンピュータの簡単な仕組み、ワープロと表計算ソフトの利用方法を学ぶ。後期には情報処理演習IIとして1単位の選択科目があり、ここではHTML、JAVA、C言語などの高級言語とデータベースに触れ、プログラミングの概念とネットワークやデータベースの仕組の大凡を学ぶ。
 グローバル化した今日では外国語による情報収集能力は薬剤師にとっても欠かせない資質である。そこで、CALL英語と称して前期と後期にそれぞれ1単位の選択科目があり、LL(Language Laboratory)を使ったリスニング能力の向上を目指している。また、インターネットを通して世界の実況的なWebページから話題性の高い現場の言語を授業に取り入れることで、質の高い語学教育を実現している。さらに、授業で使用された音声テープは学生にダビングさせ、ビデオ教材はVODサーバーに蓄積している。これらは学生が自分のペースで自分に必要な箇所を繰り返し学習することができるメディアであり、自習する意欲を促している。
 薬剤師は治験業務の協力者としても位置づけられ、治験データの統計処理の能力が要求される。統計学の知識はもちろんであるが、現実の業務はほとんどがコンピュータソフトを利用して行われる。そこで4学年において選択1単位の医療統計学があり、医療統計処理ソフトに触れながら情報処理能力を育成している。


3.明治薬科大学教育環境ネットワーク(MYEDEN)

 本学のIT環境は学内のどこからでも共通の情報を利用できるようすべての部屋に情報コンセントを配置している。マルチメディアに対応するためにマルチプロトコルを通す高速のLANシステムになっている。155MbpsのATMスイッチと建物や機能毎に配置した7台の高速スイッチングHUBをバックボーンとしたLANである。
 情報センターには教職員用メールサーバー、プロキシーサーバー、WEBサーバー、キャッシュサーバー、ドメインネームサーバー等を兼ねたUNIX機1台、学生用メールサーバー、WEBサーバー、プロキシーサーバー用のUNIX機1台、WindowsNTドメインのPDC(Primary Domain Controller)とBDC(Backup Domain Controller)それぞれ1台、ニュースサーバー用ワークステーション1台、学術情報データべースサーバー2台、データベース検索サーバー1台、アプリケーションサーバー1台、VOD(Video On Demand)サーバー1セット、教材編集用機器などがおかれている。これらはすべてLANに接続されているが、必要に応じてバーチャルLANを構成している。
 また、MYEDENはファイアウォールを通して国立情報学研究所提供のSINETに接続している。

(1)CALL教室

 CALLとはComputer Assisted Learning Laboratoryの略であり、語学教育用のLL(Language Laboratory)システムをコンピュータに連動させた授業支援システムである。学生用のパソコンとLLブースのセットが60人分、2セット毎に一つのモニターディスプレイが設置されている。教壇側にはLLのコントロールテーブルと教師用のパソコン1台がある。ここで導入している授業支援システムはサーバー&クライアント型のアプリケーションでStudyWaveと呼ばれている。StudyWaveは教師用パソコンから出席管理、課題の配布と回収、一対一会話、一対多会話、グループ分けなどの制御が可能である。学生用のモニター画面には教師用パソコンの画面、参照した学生の画面、書画カメラの画面、ビデオやレーザーディスクの画面が切り替えて表示される。
 ここではCALL英語、情報処理演習、医療統計学などの授業が行われる。教室内のパソコンはすべてCATSと名付けたWindowsNTのドメインに参加し、ユーザー管理している。すべてのパソコンにワープロ、表計算、データベース、統計処理、描画、化学構造式描画、タイピング、メール、ブラウザー、ビデオプレイヤー、FTP、TELNETなどのアプリケーションが備えられており、必要に応じて利用される。また、授業で使用されていない時間帯には学生に開放している。

(2)自習室・視聴覚教室

 自習室には20台、視聴覚教室には6台のパソコンが置かれ、CATSドメインでユーザー管理し、学生は常時自由に使用できる。StudyWaveを除いてCALL教室と同様のアプリケーションが備えられている。

(3)講義室・実習室

 すべての講義室にはプロジェクターを接続したWindowsNTのワークステーションが1台ずつ設置され、CATSドメインに属している。したがって、授業や講演ではドメインの共有フォルダーや個人のフォルダーに準備された教材や資料をどの講義室からでも何時でも利用することができる。また、インターネット上の資源も授業の教材として常時利用できる。


4.薬学教育研究ナビゲーションデータベース

 医薬品の情報収集と提供を使命としている薬剤師は常に最新の医薬品情報をあらゆるメディアから収集する努力をしなければならない。そのメディアの一つであるWeb上に載せられたものが急速に増えている。このような地球規模の情報を効率よく収集し利用する能力を育成する必要がある。そこで、本学では学生に有用のデータベースを独自に作成し、学生が自主的に情報収集する態度を喚起している。また、これらのデータベースは学内の関係者が自分に関係するデータをブラウザーから何時でも何処でも更新できる仕組になっている。

(1)学術情報データベース

 本学は3万冊の図書を有し、すべてデータベース化されており随時更新している。この情報は公開されており、インターネットの何処からでも検索可能である。他に電子ジャーナルの提供や薬学関連サイトのリンク系統的に紹介をしている。

(2)シラバスデータベース

 学部のシラバスに関連して、カリキュラム、時間割、講義、国家試験出題基準、教員という5種類のデータベースから成り、約400件収納されている。時間割のテーブルからカリキュラムを見て科目の講義内容を検索する。講義内容から講義ノートや国家試験の出題基準の項目を検索して、学習内容の位置付けを認識するように配慮している。また、教員は講義ノートや自分のホームページを手元のパソコンからブラウザー上で作る仕組になっている。

(3)薬学資料館データベース

 本学は明薬資料館を有し、本学創立者や校史を集めた大学関係資料、江戸時代からの薬問屋に関わる史料を集めた大原薬業資料、薬学教育に利用されてきた教材に関連する薬学資料、漢方に関わる生薬資料などが展示されている。その中の一部がデジタル化され、現在約400件がデータベースとして公開されている。現在、内容の充実を図りながら逐次追加している。


5.終わりに

 教育現場は情報の収集、整理、蓄積、提供といった作業を人類の後進のために行うことを使命と認識している。情報社会と言われる今日、大学に於いても情報伝達作業にITを利用するというのは自然な成り行きである。然しながら、これまで築き上げてきた教育のノウハウをIT機器のコンテンツとして取り入れるにはまだ技術的なハードルが高く、外注するにしても費用負担が大きい。
 現在のITは個人の情報が世界を対象にできることにあるが、これは個人の情報発信の責任が重いことを意味する。いろいろな可能性のある学生にとっては情報収集・情報発信を伴う行為に情報セキュリティーや情報モラルに反する事態も否定できない。このような事態を避けるには学生自身がネットワークの仕組を理解し、自らの強い責任感を意識することにあると思う。そこで本学では学生自治会の申し出によるWebサーバーのLAN接続を許可している。このサーバーのシステム構築から始めてシステム管理、自治会員へのサービスをこなすことで、情報セキュリティーや情報モラルへの意識向上を促している。


文責:明治薬科大学
情報教育研究センター 和田 義親


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