栄養学の教育における情報技術の活用


全学IT化をめざして


武藤 志真子 女子栄養大学栄養学部教授
山内 喜昭 女子栄養大学栄養学部講師
藤倉 純子 女子栄養大学栄養学部助手



1.教育用情報環境

 女子栄養大学は全学のIT化をめざしており、昨年10月からはコンピュータ教室も2教室が新システムで稼動しています。図1のようにLANの回線とマルチメディアネットワーク回線が別個に配線され、コミュニケーション端末が教室の講師卓の他、階の異なる研究室にも置かれ、遠隔でコンピュータ室と画像と音声の双方でコミュニケーションがとれます。学生は1人1台のPC(FMV-6866TX5、メインメモリ128MB、HDD28GB、CD-ROM最大40倍速)とCCDカメラ、ヘッドホンおよび2人で1台のサブモニターを用いて実習しています。他にネットワークプリンタ、スキャナ、書画カメラやプロジェクターも設置されています。1室80台の学生用PCはすべてインターネットの利用が可能です。コンピュータ室への入退出は学生証カードを用いた入退出管理システムを導入し、サーバはPRIMERGY MS610、64GB を2台教育用に設置しました。なお本年4月から全学生に電子メールアドレスを配布します。
図1 LANとマルチメディアネットワーク


2.教育面での運用

 学生用PCにはすべてセルフメンテナンスプログラムがインストールされており、常に同じ状態から実習を開始できます。サーバ内の切り分けは、曜日別時限別PCの台別に階層化されており、各台には食品名の8文字以内のニックネームがついています。このニックネームは、本学の香川式四群点数法に沿って乳のmilkから始まり油脂のoilまで配列されています。学生は曜日、時限とニックネームをIDとして入力してログインし、サーバのログイン名のディレクトリに課題を提出します。教員は提出された課題を集めて新しいデータを作成したり、採点したりします。また、学生のPC画面を全員に見せる機能を使い、課題の発表をさせます。筆者は各自が調べたり、考えたり、工夫して課題をこなすことにより情報活用能力を高める教育方針なので、かなり多くの課題を出しています。したがって、放課後かなり遅い時刻までコンピュータ室で課題に取り組んでいる学生も相当数います。また、放課後も質問にくる学生も多いです。そのため、遠隔用のコミュニケーション端末の設置を考えたわけです。実習は教員1名、助手または実験実習助手1名に筆者の場合は大学院博士課程のTAが1名つき3名で行っています。教卓のコミュニケーション端末からも各PCを見ることができますが、教室内ではなるべく質問にはface to face で答えるようにしています。実習を受講している学生は数百人いますが、こちらは少数なので放課後の質問攻めはかなり負担になります。今後は掲示板などを活用して、同じ質問には1度の答えで済むようにしたいと考えています。経費については、導入やメンテナンスの費用は補助金を受けながら大学側が管理しています。我々は学生1人1コマ当たりの決められた実習費をプールして、学生用のソフトウェアやハードウェアの充実や消耗品費に使用しています。日本は米国やオーストラリアに比較してソフトの価格が高く、アカデミック用の価格を設定していないソフトもあるため、1本1万円でも162台分で162万円ということになり思ったように導入できないことも多いです。筆者は自分でソフトを作成しているため、絶対に違法なコピーはさせないようにしていますが、自分のパソコンを持っていても収入のない学生は高いソフトは買えないため、悪循環になっている面もあります。


3.情報技術を活用した教育の例

 本学の管理栄養士コースでは、3学年までに学習した教科目を礎として、進みたい栄養専門職の方向と関連づけて、各学生がさらに深く学びたいと望む科目を選択し、実力を強化することを目的として実践栄養学実習(管理栄養士必須1単位)が開講されています。科目の内容としては、食コーディネート、調理技術をプロより学ぶ、食生活情報、生活運動実践方法があり、筆者は食生活情報を担当しています。2年次に情報科学実習(必須1単位)として、コンピュータの操作等については教育を終えているので、そのスキルを駆使して、各ソフトを関連付けて使いこなし、総合課題に挑戦させています。具体的には、調査・集計・解析をしてレポートを作成したり、魅力的な栄養教育媒体を作成することを目的にしています。課題はHTMLファイルで教卓から配布しています。この課題はサブモニタでは常に見えており、学生のPCでも見ることができます。本年度の例をあげると、1)教卓からアンケートをHTML形式で作成して学生に送信し、学生はこれに各PCで回答して返信します。教員は各学生のフォルダをまとめて再び学生に送信します。学生は各フォルダを開けてデータをまとめアンケート集計ソフトで集計し、統計解析ソフトで解析します。さらにこの結果を読み取り、グラフや表つきでワープロにまとめ、1人1分で発表します。2)高脂血症について、出身地の郷土食について、座っている台の食品を用いた3)食の献立など複数の課題を出し各自に選択させます。インターネットにより関連情報を収集したり、画像を取り込みます(出典明記)。このほか、CCDカメラやデジタルカメラで画像を取り込んでも良いことにしています。パワーポイントにより図2のような教育媒体を作り、1人1分で発表します。
 最後に、本学において昨年末にIT環境について全学生に調査した結果と比較して教育の効果をみます。情報教育のない1年生では、インターネットをかなり使用する学生は33%、情報リテラシー教育を終えた3年生は55%、情報活用教育を受講した学生は100%近くになります。パワーポイントは、3%から18%、そして情報活用教育を受けて100%になり、プレゼンテーション能力も高まったと考えます。課題を電子メールで送ってくる学生も増えました。
図2 高脂血症について学生が作成したPowerPointの1画面



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