巻頭言

小さい企業組織の方がいい


佐野 陽子(嘉悦大学学長)



 「スモール・イズ・ビューティフル」、小さいことはいいことだ、と言ったのは、英ヴァージン・グループのR. ブランソン会長です。航空会社をはじめ数々の事業で成功を収め、気球で世界一周に挑戦する冒険野郎です。この小さいというのは、企業組織のことであり、100人くらいが掌握できる最大の人数だと言われます。なるほど、100人くらいならフェースツーフェースの関係が築けそうです。これを越えたら、別の組織にすべきというのが彼の持論で、ヒエラルキー型の大企業や官庁の組織と対照的です。
 大量生産の時代には企業は、職階別の軍隊のような組織が効率的であるとされました。しかし、少量個別生産の時代には、スピードとフレキシビィティが求められるようになりました。これらを達成するには、フラットな小さい組織がベターであろうことは誰にでもわかります。
 日本の代表的な大企業は、すでに組織リストラを行っており、会社の中に会社を作ったり、権限を下部に委譲したり、社内でベンチャーの募集をするなど、新しい取り組みをしているところが多くなっています。
 このスリム化・フラット化に欠かせないのが、IT技術です。ITは既に、組織の中間管理層を縮小して、組織をフラット化するのに有用です。例えばトップマネジメントと現場が電子メールで連絡を取り合えば、中間は不要です。また、小さい方がフレキシビリティに富むことも明らかですが、小企業でも情報を十分に駆使すれば、大企業に負けないくらい能率を上げることができます。さらにまた、大量生産やマニュアル化時代とは違って、顧客や従業員に個別に対応するのも、情報化によって可能です。つまりIT化は、事務効率を上げるだけではなく、サービスの質をも向上させるのです。
 私ども嘉悦(かえつ)大学では、2001年4月から履修案内・履修届を電子化し、ペーパーレスになりました。教職員が全員、Webを使う故に、学生個人別にWeb上で連絡や履修の指導を行うことができます。また、教員に対しても、個人別にスケジュールが掲示されます。これは、小さい大学だからできる面があります。
 大学でいえば、IT化はいろいろなインパクトを与えます。例えば、大学図書館は、今や蔵書の数を誇る時代ではありません。IT化によって、現物がなくとも必要な情報や論文を取り寄せることができます。社会科学系の図書は寿命が短いから、貴重なスペースに無用の長物を置いておくことは大きな無駄になります。むしろ、情報の検索やWeb上での処理こそ、経費の節減ばかりでなくサービスの向上につながります。
 これからの組織は、企業であれ公的機関であれ、「スピード」と「グローバル化」と「多様化」に対応するために、「小さい」ことがキーワードです。そして、「小さい」巨人をつくるためにはITが欠かせません。それは、コストを節約するだけでなく、サービスの向上、付加価値の増加につながるからです。


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