被服学の教育における情報技術の活用


マルチメディアを活用したパターンメーキング実習


伊佐治 せつ子(武庫川女子大学生活環境学部助教授)
小倉 文子(女子美術大学芸術学部教授)
高橋 良子(文化女子大学短期大学部服装学科助教授)



1.目的

 従来、被服学分野における衣服製作の授業は、まず、手作業によるパターン作成から開始されていました。このような手書きのパターン作成には多くの時間が要求され、不慣れな学生の製図を修正することは指導者側にとってもかなりの負担となっていました。近年、アパレルCADシステムが普及し、パターン作成の授業の中にも取り入れられています。アパレルCADシステムを用いて効率的にパターン作成方法を学ぶことは、学生にとっても、指導者にとっても十分に有意義なものです。しかし、衣服製作におけるパターン作成は、単にその型紙を製図するのではなく、意図するデザイン、使用する素材、着用する人体のそれぞれの情報を包含して総合的に作成することが要求されます。これまでは、これら多くの情報を総合的に考慮したパターン作成の習得は上述したように、限られた時間の中では容易でなく、十分な学習効果が得られていませんでした。ここでは、アパレルCADシステムを用いたパターン作成のみでなく、マルチメディア情報機器を設置した実習室を使用して、衣服製作に必要な素材・体型・デザイン等の多くの情報データベースを活用しながら、パターン作成の基礎となる素材・体型・デザインの関係を総合的にとらえる能力を養うための実習を行います。


2.マルチメディアを活用した実習授業の内容

 スカートのパターンメーキング実習を例にその内容を紹介します。
 2台の大型マルチスクリーン等を設置した実習室環境で、インターネットや、VTR、DVDなどを介してスカートについての最新のデザイン情報データを取り込み、流行のシルエットや素材などの傾向を把握します。そこから各自の意図するデザインスカートを創造し、アパレルCADシステムを用いてそのパターン作成を行います。パターン作成においても、2台のマルチスクリーンを活用して、デザイン情報とパターン情報を対応させながら進めます。はじめに、基本的なスカートパターン(ギャザー・フレアー・プリーツなど)の展開を学習し、応用課題として、使用する実物素材を提示し、各自がデザインしたスカートパターン作成を実習します。教材としては、基本となるスカート実物標本とパターン(いずれも、ギャザー・フレアー・プリーツなど)、応用課題のための素材標本、ファッションカラーなどの流行予測紙等、コレクション情報、および、応用作品の着装・動作の着衣映像VTRなど。
 授業の流れは以下の通りです。
1 導入(20分)
インターネット情報を利用したスカートシルエットの解説
2 講義(30分)
基本スカートパターン展開と応用パターンへの解説
3 実習(100分)
基本パターン展開練習と自由作品作成
4 まとめ(30分)
自由作品の評価

(1) 導入

1) 2台のマルチスクリーンを利用して、インターネットからの各種コレクション、ファッションカラー、流行通信VTR等を取り込み、今シーズンの流行色やデザイン傾向、企業の企画ポイントの情報を紹介します。さらに、これら最新のスカートデザイン情報についてスカートシルエットから解説します。一方のスクリーンにコレクション情報を、他方のスクリーンにはそのデザイン画を同時に提示し、パターンの元になるデザイン画とファッションシルエットの関連性を認識させます。

(2) 講義

1) 基本のデザインスカートについてアパレルCADシステムを用いたパターン展開手順の実際を着用状態やデザイン画とともに示していきます。また、アパレルCADシステムの操作による展開手順は、Power PointやVTR、OHCを用いて示します。

〔基本のデザインスカートパターン展開の解説〕

2) 応用デザインに発展させるために、デザインデータベースとパターンデータベースをCD-ROMから利用する方法を解説し、個人が考案する応用デザインとパターンの取り込み方を説明します。

(3)実習

1) スクリーン上で基本デザイン画からのパターン展開方法を確認しながら、学生は各自のパソコンでアパレルCADシステムを使用してスカートのパターン展開を進めていきます。
2) 応用デザインスカートを示し、その着衣映像とデザイン画を対応させて提示します。さらに、デザイン画とマスターパターン、完成パターンを示し、学生各自の応用デザインについてのパターン作成を行わせます。

(4)まとめ

 応用デザインスカートのデザインシルエットとパターンの関係を確認します。また、学生作品をサーバー機に収集し、順次スクリーン上に提示し相互に評価します。


スクリーン1:コレクッション情報
(最新のファッション情報を映しだす。)


スクリーン2:デザイン画

【インターネット情報収集先例】
www.coromo.comwww.jafca.org/www.senken.co.jpwww.gap.comなど


基本例:ギャザースカートへの展開
スクリーン1:実物標本・デザイン画


スクリーン2:パターン


学生作品の順次提示例
スクリーン1:デザイン画と完成パターン


スクリーン2:着衣状態


3.マルチメディア活用による授業の効果

1) Webを利用して現実的で具体的な多くのデザイン情報とパターン情報を知ることができます。
2) 短時間にデザインとシルエットとの関連性、シルエットとパターンの関連性をイメージ的に把握させることができ、基 {的なパターン展開理論の修得が効率的に行えます。


4.今後の課題

 Webからの情報収集やアパレルCADの導入など、情報機器の活用によって衣服のパターン作成の効率化を図ることが可能になりました。しかし、パターンの人体への適合性評価については今だ効率的な情報機器の導入がなされていません。使用するテキスタイルやさまざまな体型データに対応のパターンを作成し、それを立体構成して人体に適合させることがコンピュータ画面上で試行できるようになれば、パターンと着衣状態との関係をより直接的に把握できるようになります。現在、パターンの適合性は手作業による立体構成に依存しています。近年、3Dシミュレーションによる方法をアパレルCADに付加することでパターンの立体構成が簡便に画面上で可能となるシステムが開発されつつありますが、その手順は未だ時間がかかり教育用に充実されたものではありません。また、人体に衣服が着用されたときの人体の動きによるシルエット変化をパターン上から把握することも重要な課題ですが、着衣状態を表現できる簡単な3Dシミュレーションも開発段階です。これらパターン作成後にテキスタイルを含めた人体への適合性を評価できるトータルなシステム環境を教育的なものに構築する必要があります。そのためにテキスタイルデータや体型データ、さらには人体の動きのデータがパターンに及ぼす影響についてのデータベースを早急に作成する必要があります。また、それらのデータベースがあらゆるCADシステムに対応し、活用できるようにすることが重要です。なお、現在、授業で利用できるファッション情報のサイトは少なく、利用料金も高価なので、今後、産学協同での人材育成の視点から教場では無料化が望まれます。



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