語学教育における情報技術の活用


コンピュータによる中国語学習支援


村上 公一(早稲田大学教育学部助教授)



1.はじめに

 1996年にMacintoshのHyperCardを使い、初めて中国語のコンピュータ教材を作成しました。文字に音声を貼り付けただけの単純なものでしたが、それでも当時の学生には新鮮だったようです。その後、映像を加えた発音学習教材、Web上で学習できる対話学習教材を作成してきました。その際常に意識していたのが、授業で使うと同時に自習でも使えるものをということです。週1、2回の授業時間だけで外国語のコミュニケーション能力を獲得することは不可能であり、自習、それも音声中心の自習が必要不可欠です。しかし学生にこれがなかなかできない。そこで授業での学習をそのまま自習につなげられるようなコンピュータ教材を、と考えたわけです。1998年度に作成した発音学習教材はCALL教室のサーバ上に置き、空き時間に使用できるようにすると同時にCD-ROM媒体のものを希望者に貸し出す形にしました。また1999年度に作成した対話学習教材については、あらかじめWeb上で学習できるものを作成し、授業学習から自習にスムーズに移行できるようにしました。インターネット経由で自宅からでも学習できるわけです。またインターネットはそれを通して直接中国語で書かれたものに触れることができること、さらには中国の人々と直接中国語でコミュニケーションできるという新たな学習の可能性を運んできました。そこで、2000年度からは、インターネット環境を利用して、生の中国語素材をそのまま学ばせること、海外提携校の中国人学生や中国語を学んでいる学生と日本人学生との間で実際に中国語によるコミュニケーション活動を行うこと、を試みています。
 以下、2001年度も使用している発音学習教材、対話学習教材及びインターネット環境を利用した新しい学習について具体的な内容や方法を紹介していきます。授業はCALL教室(WindowsNT4.0、42端末、中国語入力ソフトcWnn98 R4.5)で行っています。


2.発音学習教材

 ピンインの習得は中国語学習者にとっての最初の関門であり、この段階で挫折してしまう者も少なくありません。少しでも効率的にしかも楽しくピンインを習得するため作成したのが発音学習用のコンピュータ教材(『中国語発音講座(CD-ROM)』早美出版社)です。これはMacromedia社のDirectorにより作成したもので、中国語の発音を文字による解説に加え、アニメによる唇・舌の動き(横面)とビデオによる口の動き(正面)を表示したものです。アニメとビデオはQuick Timeで取り込んであります。声調、単母音・子音、複母音、鼻音を伴う母音といった学習項目ごとに文字解説、アニメ、ビデオを通した学習をし、更に自分の発音を録音して確認するというのが一連の授業学習になります。自習用に4択の聞き取り問題形式の練習問題を付けました。各学習項目ごとに初級50題、上級50題をそれぞれランダムに出題するものです。このことにより、授業で学んだものを練習問題による復習(自習)で定着させ、さらに、次回授業冒頭で再確認をするという学習サイクルができあがりました。(図1)
図1 『中国語発音講座』発音解説画面


3.対話学習教材

 早稲田大学教育学部では専任教員と非常勤教員の協力で作成された学部共通教科書(『実用中国語八百句』同学社)を使用していますが、対話学習教材はこの学部共通教科書をDirectorを用いてShockWave形式のWeb教材にしたものです。各課は[対話][文法][作成]の3画面からなっています。[対話]は一般教室でテレビ画面やプロジェクタで提示して利用できるように文字を大きくし、1画面1対話(上/下)としました。これらの文字は中国語フォントがインストールされてないコンピュータでも表示可能なようにすべて画像化してあります。ボタンを押すことにより、再生、一字停止、日本語表示、中国語表示、ピンイン表示、ロールプレイ等の切り替えができるようになっています。(図2)
 授業はまず[文法]を使い文法学習をした後で、[作成]で学習した文法事項を使いながら対話を作成し、最後に[対話]で対話練習をするという形で進めています。[作成]は[対話]と同じように1画面1対話になっていて、日本語訳を参考に、画面下部の単語をドラッグして空欄に入れることにより対話を作成するものです。単語キャスト(Directorでの画面を構成する要素の名称)を作り、それを可動性つまりドラッグ可能にしただけの簡単なものです。対話作成を終えた学生は発音を聞き自分で正誤を確認し、間違っていたら訂正します。コンピュータ教材の単語を並べて文を作る練習は、単語をクリックするだけでそのまま順番に文が組み立てられていくのが普通です。当然Directorでもそのような形にすることは簡単でしたが、あえて手の動きで移動させる形をとりました。自分自身の手で単語キャストを動かすことにより、文の構造が視覚的にも肉体的にも刻み込まれていくと考えたからです。(図3)
図2『実用中国語八百句』対話画面
 
図3『実用中国語八百句』作成画面


4.インターネット環境を利用した新しい学習

 2年次の中国語講読では、学生たちが自分自身の興味や必要性に応じてテーマを決め、半年間ないし1年間継続して中国語Webページを調べるという形の授業をしています。90分すべてをWeb探索にあてると学生の緊張が持続しないので、前半3分の1は、サーバ上にある中国語の文章と質問の音声ファイル(WAVファイル)を聞き、答えをMS-Word上に中国語で書く作業をしてもらっています。この作業はヒアリングの学習であると同時に中国語の入力、cWnn付属の日中・中日辞典の引き方の練習にもなっています。授業の最後にはその時間の調査内容についてMS-Wordでまとめたものを毎回提出してもらい、翌週までに報告すべてに目を通し、コメント(翻訳にチャレンジしている学生の場合は訳のチェック)を加えた上で返却しています。学生たちはそのコメントを参考に引き続きWeb探索を始めます。インターネットを介した情報の発信やコミュニケーションの占める割合が増えつつある現在、このような新しい形の講読授業も当然必要となってきます。
 上級クラスの学生には、インターネットを介して中国の学生や海外で中国語を学んでいる人たちと直接中国語によるコミュニケーションをとる、という授業も試みています。これは早稲田大学CCDL(Cross-Cultural Distance Learning)プロジェクトの中国語部会として行っているもので、2001年度は高麗大学(ソウル)、台湾師範大学(台北)、首都師範大学(北京)の学生や院生と中国語による交流学習を行なっています。(図4)
 具体的には 1)ホームページ上の[自由談](電子掲示板)への書きこみ 2)対面型チャットソフトCU-SeeMeによるチャット 3)テレビ会議システムTeleMeet(またはFalcon IP)によるテレビ会議 4)TeleMeetによる小人数会話学習 5)ホームページ上の[我的筆記本]への学習内容の整理記録の5種類の学習からなっていますが、現時点では1)2)3)を中心とした交流学習に止まっています。(図5)
 これだけ大規模の学習プログラムになると、外国語教員だけで運営することはできませんので、システムの構築、運営等はすべて(株)早稲田大学インターナショナル(早稲田大学と松下電器産業(株)との合弁)のサポートによるものです。
図4 CCDL中国語ホームページ
 
図5 CCDL中国語(学習メニュー)


5.おわりに

 発音学習教材と対話学習教材によってもたらされたのは、学生の個別学習の時間が増え、それぞれの学生が発音を聞き自ら発音する時間が圧倒的に増えたことです。このことにより学生の到達度は間違いなく以前と較べて高くなっています。しかし授業自体をこれらの教材を用いてCALL教室で行っているため、学生−教員間の直接的なコミュニケーション学習が不足してしまっています。やはり授業学習を小人数のコミュニケーション学習とし、コンピュータ支援の個別学習を自習(宿題)と位置付けるべきだと考えています。
 インターネット環境を利用した新たな学習については、学生は新鮮な驚きと意欲を感じています。よくたとえられるドラえもんの「どこでもドア」ではありませんが、インターネットを介して学習言語の使用空間に入りこめるという環境は、外国語教育・学習者に無限の可能性を与えてくれます。ただ、「ドア」の先にあるのは日常的な言語空間であり、生身の人々であるので、水先案内人であり仲介者である我々教員にはこれまでとは全く異なる役割が求められることになります。


関連URL
http://www.project.mnc.waseda.ac.jp/ccdl/zh/index.html
(CCDL中国語)
http://www.waseda.ac.jp/projects/chinese/kimikazu/hanyu/shifm.html
(実用中国語八百句)


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