授業改善奮闘記 −ITによるファカルティ・ディベロップメント−


なぜ一生懸命に情報化をするのか?
〜事前事後学習の徹底を目指して〜

中條 安芸子(文教大学情報学部助教授)



 文教大学湘南校舎にLANがひかれ、学生全員がネットワークIDを持つようになってずいぶん経ちます。キャンパスの情報化が進められていくことと、授業の進め方が改善されていくことが相互に影響しあう時代が来てしまいました。なぜ、教育の情報化が推進されるのでしょうか。それは、最近の大学生が出身高校によって何をどのように学んできたかがかなり異なるため、授業を理解する速度はまちまちで、それに対処する方策として、今もっとも有効ではないかと考えられるからです。教育効果が向上することを期待して、日々、ネットワークに接続したコンピュータの前で奮闘しています。彼らを何としても、授業時間以外で学習させなければならないのです。ここで紹介する授業では、教室での一斉授業の形態はとりながらも、事前事後学習環境をデジタルに構築することで、そうした現代的学力の問題に対応する試みを行っています。以下で紹介している授業用ホームページはhttp://www.bunkyo.ac.jp/~nakajo/です。


大人数のクラス運営:統計学

 まず紹介する授業は「統計学」です。4単位、週2回の授業で、毎セメスター開講されています。クラスの規模は最大で250名、少ない場合で150名前後です。
 いま、小学校から高等学校までの教育課程の中で確率・統計の項目を扱うのはわずかな時間でしかありません。そのためデータの見方、表現の仕方、論理的思考など基本的には統計学の入門レベルを設定しています。
 読み物形式で独学も可能な教科書を指定していますが、それをもとに事前学習をしてくるかどうかはさておいて、統計学の授業ホームページを開設し、毎回の授業の要点を授業前に掲載したところ、受講生はそれを事前に読んだりプリントアウトして教室に持参しています。重要なところに蛍光ペンでしるしがついていたりして、もくろみは大成功です。
 実際の授業時間ではその日のテーマを講義する形です。が、ペン1本で90分話し続けるほど話術に長けてはいないので、説明資料をプレゼンテーションソフトで作成することにしました。25回分では何百枚にも及んでしまいますが、このことによって、黒板を使っていた頃よりも学生はスクリーンに集中し、熱心にノートをとるようになっています。うっかり画面の切り替えのタイミングをまちがえると教室中からブーイングがあがります。わたしの説明のまずさもよく反省できて、これは予期しなかった次へのステップアップ材料と言える副産物です。
 その他ホームページに掲載している授業に関する情報は、授業中に一度解いた練習問題(解答つき)、過去の試験問題(解答つき)、成績の分布、授業アンケートの結果、中間試験の結果などです。授業やアルバイトが終わって家で勉強している学生にとっては、ホームページと電子メールを活用して復習できる環境が好評のようです。また、欠席した場合にも次の授業までに自分でその穴埋めをすることが可能となります。自分のペースで学習できる環境があればどんどん勉強する、というなら、こちらの奮闘のしがいもあるものです。


実習と講義の融合授業:経済データ分析(旧計量経済学)

 授業の中には、講義をして少し実習をし、また講義をして話を進めていくようなものがあるでしょう。この「経済データ分析」もそうした授業の一つです(4単位、週2回開講)。この授業は、講義の時間には普通にノートをとり、実習のときには机を開けてコンピュータを取り出せるような教室で実施されています。
 これにより、資料配布から課題提出まですべてがデジタル環境で行うことができるようになりました。家や研究室で作成しネットワーク上にあげておいた授業資料を提示しながら講義。次にあらかじめネットワーク上の共有領域に置いておいたデータファイルを使って、統計的な実習プロセスの理解(従来プリントでデータを配布していたものに代わる資料配布)。そのあとは、学生が各自で分析目的を設定してモデルを構築し、インターネット上からデータを収集、分析、結論をまとめます。課題は自分の学内ホームページにアップ。アップしたことを教員に電子メールで知らせて課題提出としています。
 課題作成は授業時間内では終わらないことがほとんどで、授業時間外に取り組むことになり、その時間が授業時間そのものより多いようです。課題作成の途中での質問、課題提出後の疑問点、提出後に誤りや追加の必要性を教員が指摘して提出し直したりと、学生とのコミュニケーションはかなり密です。
 事後学習時間を大いに設けるもくろみは今のところ成功しています。学生も課題をこなすということが、授業のねらいの具体化であると感じており、「体験型授業」が学習時間の増大になってもそれが「面倒なこと」とは受け取っていないようです。
 この授業の始まった頃に作成された課題と終わり頃のものを比較すると、学生の表現力がかなり進歩しました。分析結果のプレゼンテーションは繰り返し練習し、また改善点を指摘しながら進めていくことが重要であることがよくわかります。そしてこうした繰り返しができるのも、デジタルでの学習環境があってこそと、実感しています(電子メールの返事を何百通も書いた甲斐があった!)。


教員のスキルアップ努力に終わりはない?!

 一週間でわかるホームページ作成、といった具合の本と首っ引きで最低限のタグを覚え、学内で教員向けに開催されている技術講習会に参加し、やっとここまで来ました。「あと何分後に今日の練習問題がアップされるの?」と学生から言われれば必死です。即時性が求められるときはきれいに作ってはいられないので授業記録などは単に「巻紙」のようです。併せて、多様な学力に対応する教材の提供のためには、幅広く教材を開発し、学生の反応を見て柔軟に授業情報をデジタル化する必要もあります。授業担当者が教材作成者でなければなりません。まだまだスキルアップを心がけ、事前事後学習の環境を提供する努力を続けなければ、と思っている毎日です。



【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】