巻頭言

IT革命が呉れたチャンス


三浦 信行(国士舘大学学長)



 国士舘大学では本年度「21世紀アジア学部」を開設し、多くのアジアからの留学生とともに新年度が始まりました。「21世紀アジア学部」の教育課程は、総合教育科目、総合コミュニケーション科目、専門科目で構成されており、さらに総合コミュニケーション科目は外国語科目、伝統諸道関連科目、情報関連科目から成っています。
 情報関連科目の設定により基礎的な情報処理スキルを修得させることはもちろんですが、情報処理能力を狭義のスキルに限定することなく、問題探求・解決までに繋げていく点が当学部の教育課程の特色です。日本の伝統諸道関連科目、具体的には茶道、華道、書道、剣道、柔道、空手道、合気道の学習を通して、日本文化理解能力と言語以外の身体的・精神的なコミュニケーション能力を養成することを目的としています。まだ生まれたばかりの学部ですが、早く成長することを願って力を入れていきたいと思います。また、私自身は、学内にあってはIT戦略会議の議長も兼ねていますので、新学部を含めた学園全体の更なる情報化推進に尽くしていきたいと考えています。
 ところで、基礎的な情報処理能力修得教育という点では、ワープロソフトを利用した文書作成があります。ある事柄をワープロソフトで文書にした場合と手書きで文書にした場合を比べてみると、書かれている内容としては、二つの文書は同じ情報を提供してくれるのです。しかし、ワープロが普及する以前の頃の誘拐事件においては、脅迫状などが公開されると、新聞には筆跡から推定される犯人像なるものが載ったりしたものです。
 手書き文書の筆跡には、文書内容で表現される情報以外の何か自分を表す情報が、付随している訳です。ワープロには日々お世話になっており、これが無くなってしまった場合などということは考える余地もありません。IT革命が推進されることにより、ワープロソフトも更に便利にして欲しい訳ですが、一方では、「21世紀アジア学部」で設置した伝統諸道関連科目には、書道が含まれているのです。今や、機械の仕事と化した感のある文書を作る・字を書くことを、我々の先人達は究極的に「道」として捉えていたのでしょう。だから、文書を作る・字を書くという行為は、実は人間の奥深い部分と関わっている事柄と認識すべきではないでしょうか。
 また、昨今遠隔授業への取り組みが盛んになりつつあり、IT革命の推進に伴いその実施形態は、全体として面接授業と同等な教育効果があると判断されれば、必ずしも双方向性・同時性は確保されていなくても良いというところまで条件が緩和されてきました。ここで注目すべきは、最新の遠隔授業を定義するに当たって従来の面接・対面授業をベースにして考えているところです。遠隔授業実施により、従来に比べて教育を受けることができる人が増え、また時間も自分の好きな時間に授業を受けることができるようになるでしょう。
 しかし、ここで忘れてはいけないのは、教師という人間が教育において果たしている役割の再検討です。このようにIT革命が推進されてきたことにより、従来当たり前過ぎて考えなくなっていた人間に関わる様々なことを改めて考えるようになったことはむしろ良いことです。これをチャンス到来と考え、今後、コンピュータと人間社会との関わりを一段と重視した情報科学の研究を推進していくことにより、コンピュータが真に人間社会に溶け込み、人類の幸福に寄与してくれることを願う次第です。


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