環境学の教育における情報技術の活用

環境政策学科・統計処理演習での情報技術の活用例


小田倉 正圀(麻布大学環境保健学部助教授)



1.はじめに

 環境政策学科は平成11年4月に新設された学科で、まだ3年2ヶ月(原稿作成時)しか経過しておりません。
 環境問題は多種多様で、さらに新しい環境問題も次々に指摘されています。これらの問題を解決していくためには技術的な対処も大切ですが、根本的な解決には法律や経済など社会学的な手法と技術を組み合わせて、社会全体を環境保全型に変えていくことが必要です。このような形で、社会を変えていく方策を提案するのが環境政策です。
 まだ若い環境政策学科で情報技術をどのように活用しているか、筆者の担当科目の具体例を紹介します。
 学科新設と同時にコンピュータ・LL教室が設けられました。コンピュータの一般的な教育はコンピュータ演習(1年前期)とコンピュータ概論(1年後期)で行われ、環境政策学科は英語を重視するためLL機器も積極的に利用されていますが、これらの内容については省略します。


2.教育の内容

 筆者は情報関連科目として環境統計学(2年前期)、統計処理演習(2年後期)を担当しています。環境統計学は統計理論に限定せず、環境問題を扱う上で必要と思われる数学的処理法を幅広く教育し、一部コンピュータを活用しています。
 統計処理演習は環境統計学で学んだ知識を基礎に、コンピュータ活用の実務を行います。毎時間(100分)課題を与え時間内にレポートとして提出させています。しかし、時間内に終了しない学生も多いため、昼休み直前の時間帯か、後に授業科目のない16時以降の時間帯に時間割を設定しています。未終了の学生が多くて昼食を取れないこともあります。
 環境統計学も統計処理演習も専門基礎科目と位置付けられているため、環境政策学の専門科目に連携するように考慮し工夫しています。
 後記の「環境文章の用語による整理」は環境政策学を学び研究する上では有効な手法であり、独創性のある工夫かと自負しています。

[レポート課題例 (1)]

 表(世界各国の紙とガラスのリサイクル率)のデータにExcelあるいはExcel統計で何らかの統計処理を行い、Word文章中にExcelの表やグラフを貼り付けレポート1枚にまとめなさい。 (この課題のレポート例を図1に示します。)

統計処理演習 (6)
 紙のリサイクル率が90%になると、全体のリサイクル率も比例してあがることがわかる。しかし、ガラスのリサイクル率が上がっても全体のリサイクル率が上がらないのである。表.1を見てみると、23カ国中おおよそ50%の国が、紙よりもガラスのリサイクル率のほうが高いのである。ガラスは、紙よりもリサイクルしやすいのである。紙は、生活ごみとして燃やされてしまうが、ガラスは、ビンなど回収日が決まっており分別しやすいのである。よって、紙のリサイクル率が上がると、全体的に増加するのである。
 
図1 レポート課題例 (1)のレポート例

[レポート課題例 (2)]

 公害対策基本法と環境基本法の全条文から環境用語を選び出し、Excelで資料(省略)のような表を作成しなさい。この表を参考に公害対策基本法と環境基本法の内容の違いを各自の判断で分析し、同時に、公害対策基本法が平成5年に廃止になった背景も分析しなさい。(この課題のレポート例の一部を図2に示します。)

図2 レポート課題例 (2)
 このレポートの教育目的は、公害対策基本法と環境基本法の二つを文章論として比較するのではなく、選び出された環境用語の数や組み合わせの違いで二つの法律を比較させることで、またその手法を習得させることです。二つの法律に共通する環境用語もあれば片方の法律にしか登場しない環境用語もあり、この違いで分析させます。
 環境用語抽出による整理や分析は環境政策学のさまざまな分野で応用可能です。
 例えば、専門科目で外国と日本の環境政策を比較する必要が生じたときには、環境用語を抽出しその環境用語の差異で環境政策の違いを表現するのも有効な手法となるでしょう。
 しかし、この手法を活用するためには大きな問題点が残っています。
 図3はレポート課題例(2)で学生(101名)が選び出した(抽出した)環境用語の数です。全条文から多数の用語を環境用語と判断して選び出す学生もいれば、少数の用語しか選び出さない学生もいます。公害対策基本法は平均43.0用語、標準偏差20.2で、環境基本法は平均79.7用語、標準偏差35.1でした。公害対策基本法は全30条、環境基本法は全46条なので平均用語数に差が現れるのは当然ですが、学生個人の判断で選び出された用語のバラツキはどちらの法律も大きいです。抽出した環境用語が個人によって異なるということは、対等の比較ができないということであり、大きな問題です。
 このバラツキを小さくする、あるいはゼロにするためには同じ基準で環境用語を抽出しなければなりません。すなわち、基準となる権威ある環境用語辞典が必要だということですが、残念ながら文部省(文部科学省)学術用語集・環境学編は未刊です。
 環境学編がCDで販売されるようになれば、ある用語が環境学術用語なのか否かを判定するソフトの開発はそれほど難しくないでしょうし、用語抽出手法の活用も飛躍的に容易になると期待しています。
図3 レポート課題例 (3)


3.おわりに

 環境政策学は新しい学問分野のため、目的に合った使いやすいソフトが充分に準備されている段階には達していません。教材あるいは資料として必要なものは独自に開発しなければならず、先生方も苦労しているようです。
 その一つの例として、筆者は「現代論理学」に関するソフトの開発に着手しています。環境政策では冷静な論理的な判断が強く求められるため、現代論理学は必修科目とならざるを得ません。
 現代論理学では、論証形式(論法)のなかの文章あるいは単語を記号(文記号)に変換し、これらの記号をいくつかの論理演算子で結合して論理式とし、論理規則に従って演算を進め、その論証形式が妥当であるか否かを判定します。
 この判定のためによく使われるのが真理値表と反証図で、いずれもアルゴリズムですからコンピュータによって遂行可能ですし、このためのソフト開発もそれほど困難ではなさそうです。



【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】