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ダンス研究におけるDVD映像資料の作成
――タンザニアとマラウィの素材から――


栗田 和明(立教大学文学部教授)



1.研究・教育での映像活用

 報告者は次項で示すような研究活動に従事し、授業では担当する地理学特講(文学部、学部生対象)で多数の映像資料を学生に見せている。画像の利用は研究・教育活動において不可欠である。授業ではアフリカ地域の話題を取り扱っているが、キャッサバ、マンゴー、タバコ、カシューナッツといっても、イメージがわく学生はごく少数であり、映像を示すことの効果は大きい。ちなみに、立教大学では1000コマの授業内容を学内のイントラネット上で公開すべくシステムが稼動中であり、報告者が授業中に扱った画像の一部は閲覧できるようになっている。
 授業での必要と、報告者自身の研究活動上の必要から、静止画だけでなく動画を加工してDVDへの保存を試みたので、ここで報告する。


2.研究対象と研究の経緯

 タンザニアの南西部に居住するニャキュウサ(Nyakyusa)人と、マラウィ北部に居住するンコンデ(Nkonde)人は言語、居住形式、で共通する点が多い。両者は歴史的にも密接な関係を保ってきており、現在も国境をはさんでの活発な交流を続けている。この地域ではタンザニア側で7種類、マラウィ側で4種類のダンスが観察され、一部は共通した種類で、ダンスティームも両国を行き来して、相手国の広場で踊ることも普通だ。この地域で、現在もっとも活発に踊られているダンスは、儀礼的な要素が少なく、レクリエーションとしての役割を担っている。これらのダンスの性格やティームの交流については、すでに発表している。[1、2]
 報告者は上記の二民族集団の関係性を民族学、人文地理学の観点から調査しているが、1995〜1996年にはダンスのビデオ撮影をおこなった。近年のノンリニア編集技術の普及により、映像記録を専門としない調査者でも映像記録に携わることができるようになった。


http://www.rikkyo.ne.jp/~z5000002/dance/dance-index.htm


3.ダンス研究における映像と音声の利用

 ダンスの重要な要素として、踊り手の振りと音楽があるが、これらの文章表現には困難がある。振りについて、動作をスクリプトで記述できる種類の舞踊もある。この場合は、特定の動作とそれをあらわすテクニカルタームが結びついており、同一のタームを他種の舞踊に適用することは難しい。これらのテクニカルタームが想定している以外の動作や強調点が出てくるためである。
 音声、音楽の記述には楽譜を用いることもあったが、これも楽譜が想定したのとは異質の音を記載していくことには制約がある。
 テクニカルタームによるスクリプト記述と楽譜の利用については、それを駆使するための技術的訓練が必須である。これは、該当分野を専門としない調査者には大きな障害になる。
 これらの表現上の困難を乗り越えるべく写真、音楽テープの利用もおこなわれた。しかし、技術的、経済的な制約から広範な利用とはならなかった。


4.近年のビデオ利用の可能性

 ダンス研究において、現在ではビデオを用いる動画と音声の同時記録方法が効果的である。ビデオによる記録は、振りと音楽、そして、周辺のさまざまな情報(楽器の奏法、観客の表情、舞台のセッティングなど)も伝える点で有効である。
 技術上のビデオを配布する最終的な媒体として、テープではなく、DVDの使用も可能になり、保管、配布、作成コスト、などの面でビデオテープやフィルムより好便である。


5.記録の実際

 報告者は、家庭用のHi-8ビデオ(アナログ)を使用して、ニャキュウサ人、ンコンデ人のダンスを記録した。現在でははじめからデジタルビデオカメラを使用するほうが、編集作業の面で便利である。
 録画にあたっては、三脚の利用、全体像を示すための遠景での撮影が必須である。条件によってはワイドコンバージョンレンズ(×0.5)を使用した。外付けのマイクロフォン、マニュアルのホワイトバランスは利用しない。


6.編集から焼きつけまで

(1)編集

 アナログのデータ→aviファイルに変換→aviファイルの編集→mpeg2ファイルに変換→オーサリング→焼き付け、の手順を踏む。Hi-8のアナログデータ→aviファイルの変換は専用ボードで行う(CanopusのDV-Storm RT使用)。aviファイルの形式、およびOSの形式(実際にはHDDのファイルシステム形式)によって扱えるファイルサイズに1〜4ギガの制限ができる。これは実時間で5〜20分に相当し、すぐに制限に抵触する。これらの制限、および回避方法の詳細については、本報告の論点から離れるので、適当な解説を参照してほしい。
 編集方針として、ダンスティームの入場から退場まで連続した記録を志向する。資料記録を目的とするので、冗長になっても編集段階でのトリミングは最小限にする。トリミングを行った場合でも、時間的な順序を前後させる編集は行わない。また、背景の情報を生かし、画質低下を押さえるためにクロッピングは行わない。カラーコレクション、ガンマ値・コントラスト調整などの画質調整は適宜おこなう。
 上記の画質調整効果をaviファイルにかける場合、ソフトとしてはDV-Edit(DV-Strom RT付属)、AdobeのプレミアとAfter Effect、その他、を試用した。クロッピングや一部の効果についてはプレミアやAfter Effectでしかできないものもあったが、このソフトでのでき上がりはかならずしも美麗ではなかった。DV-Editで最小限の効果をかけたものが画質はいいようである。
 プレミアを基本の編集ソフトとして、適宜After Effectの効果とDV-Storm RTのリアルタイム編集機能を利用することを計画していた。しかし、それぞれのコーデックの違いからか、この三者を同時に使用することはできなかった。コーデックの違いなどで、ソフトが機能しない、あるいは画質が低下する事態は、次項のオーサリングの場合でも認められた。各圧縮技術、ファイル定義などの規格が変動している時期であり、さまざまな試行錯誤を強いられる。また、クロッピングはCPUの負担が大きく、10分程度のaviファイルについて実行するのに10時間以上かかることがある。ちなみに、使用したPCのスペックは、OS: Windows XP、CPU: PenW 2G Memory: RDRAM 768M Video Memory 64Mである。aviファイルはDV-Editによってmpeg2ファイルに変換し、オーサリングにまわす。固定ビットレート5.5Mを使用した。

(2)オーサリング、および焼き付け

 DVDは現在多くの規格がある。器材の汎用性、利便性を勘案して、DVD+RWを選択した。
 記録から焼き付けまでNTSC 720×480ピクセル 29.97f/s、音声はステレオ48kでのサンプリング、の規格で統一した。DVDのリージョンコードはフリーに設定。
 オーサリングソフトも、現在各社で開発中であり、変化が激しい。DVD+RWに対応したソフトは現時点では、それほど多くない。長短を表1にまとめた。
 結果としては、メニュー画面作成の自由度が大きな影響を持った。プロ用のオーサリングソフトではなく、研究者個人が使用する場合、適切な自由度を持ったソフトは少数である。簡便さをうたうオーサリングソフトでは、家庭での行事をDVDに記録することを念頭にウィザードが作られており、今回の意図に沿わない。

表1 オーサリングソフトの特徴
製 品 名 長 所 短 所 備 考
DVDit SE版 メニュー画面の柔軟性が高く、仕事用のDVD作成にも適する。 音声はPCM規格になっているので、ファイルサイズが元のmpeg2ファイルより20パーセント以上大きくなる。同ソフトのPE版はドルビー音声が扱えるので、この心配はない。 最終的にこれを使用。Ver2.5からDVD+RWに対応。使用mpeg2ファイルにはGOPごとにヘッダーを要求。
My DVD   メニュー画面の作成は過度に単純化されており、仕事用のメニューには向かない。DV-Editで作成したmpeg2ファイルと相性が悪く、画質が低下。 家庭用、あるいはDVDに直接焼きこむことを意図したソフトである。
Spruce UP メニュー画面は一般的な使用に耐える。 Windows XPに未対応。メニューボタン数の制限は10程度で少ない。 Win98でイメージを作ってDVD+RWに焼くことは可能。
DVD Movie Writer 用意したmpeg2ファイルには一番美麗な画面ができる。 メニュー画面の選択肢が少ない。メニューの文字、画面について家庭用に特化したウィザードに導かれて仕事用には適さない。  


7.おわりに

 使用したハード、ソフトの機材もさらに改善されていくと思われるが、本報告では現時点(2002年4月)での長短、操作性などを示した。
 今回作成したDVDは一部をテキスト素材とあわせて刊行の予定である。また、解像度を落とし、リアルプレイヤー形式で立教大学のサーバからストリーミング配信中である(http://www.rikkyo.ne.jp/~z5000002/dance/dance-index.htm)。こちらはインターネット上なので、関心がある方はご訪問いただきたい。
 立教大学メディアセンターの担当諸氏にはさまざまな助力をいただき、感謝の意を呈する。


参考文献
[1]栗田和明:イゴマ――タンザニアとマラウィを結ぶダンス――.
『季刊民族学』79号, pp.56-63,千里文化財団 ,1997.
[1] KURITA, K. :Igoma dance of the Nyakyusa in Tanzania and
the Nkonde in Malawi: From Viewpoint of movement of
people. in K. Kurita(ed.) Ethnological studies in southern Africa:
The Nyakyusa(Tanzania),Shona(Zimbabwe), Ndebele (South Africa),
and Tswana(South Africa). Occasional Papers No.7 pp.7-45.
Centre for Asian Area Studies, Rikkyo University,1998.
 
E-mail:kurita@rikkyo.ac.jp


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