授業改善奮闘記−ITによるファカルティ・ディベロップメント−

学生に支えられてのIT授業


佐々木 明男(芝浦工業大学工学部教授)



 研究室に初めてパソコンが入ったのが、たしか1970年後半であったと思います。その当時は、ワープロがあるのにパソコンなど必要ないのではないかと思われていた時代です。その頃は、授業でパソコンを使用してのプレゼンテーションなどは全く行われていなくて、せいぜいOHPやVTRが使われていたにすぎなかったと思います。


パソコンを小道具とした学生参画型授業

 本学では、1993年にカリキュラムの再編が実施され、少人数制によるゼミ形式の新しい科目をたくさん開設しました。この科目の特徴は、教員が担当する科目を独自に開設するというものであり、主として従来の一般教養系の教員が担当しています。工科系の大学ではありますが、「ヨーロッパ学」「カタカナから正しい英語」「読むことと生きること」「ドイツ文学散歩」などといったユニークな科目が並んでいます。私も学生参画型の科目として、「体力評価T」と「体力評価U」を新設しました。授業のやり方としては、パソコンを小道具として活用するワークショップを基本として、「KJ法」の仕法なども参考にしながら進めています。
 やはり、最も苦労したのはいかにしてたくさんのパソコンを集めるかということでした。その頃の風潮として、パソコンは研究室に1台もあればよいことで、教室などには置く必要がないといわれていましたし、とても新品を購入するなどということは不可能でした。やむなく、計算センターから授業のある日だけ2、3台借りてきたり、他の研究室からも都合をつけてもらったりしていました。それでも学生が30名に対して数台のパソコンではどうにもならず、市内の中古店に何度も出かけて、自分の必要とする機能だけがあればよいからということで、できる限り安くしてもらい少しずつ増やしていきました。


大教室でのパソコン活用

 従来型の多人数授業ではプレゼンテーション用のパソコンを教室に持ち込んでいましたが、最初の頃はデスクトップ型のものであったため、これがなかなかの苦労でした。
 研究室に近い講義棟では、プレゼンテーションのできる教室はたった一つしかなくて、その教室も月曜の1時限しか空いていないということで、ともかく、月曜の1時限目に講義をすることにしました。同一時間帯に開講する科目が少ないということは、たまたま開講している科目に学生が殺到するもので、当初は廊下にまで学生が溢れているといった状況でした。人数が多いと遅刻者も多くなるもので、遅刻者を出さないために毎時間出席をとることにしました。最初にやったことは、バーコードを使って出席をとることでした。
 これは、教室の入り口にパソコンと読み取り器を置いておいて学生個人が操作をするようにしたものですが、バーコードを忘れてきたり無くしてしまったりするので、1年後には「学生証」を読み取らせる方法に変えました。毎回プリントアウトした一覧表はそのまま出席簿として使えるようになるので大変便利です。この方式を採用してから、出席率は格段によくなりましたが、中には出席だけして満足している者も見受けられます。このことは、出席率と試験の成績とが必ずしも相関がないことからも断言できそうです。
 朝の1時限目に授業をやるということは、十分に準備の時間がとれるため、パソコンを持ち込んだり、VTRのセッテングなどが余裕を持ってできるので、今となっては、1時限目の授業を他の教員にも薦めたりしています。
 学生の中には授業の始まるかなり前から教室に入っている者もあり、何人かは私の準備を手伝ってくれたりしてくれました。結果的には始業前から学生とのコミュニケーションが持てるようになった気がします。
 最も大変なのは、インターネットの画面をスクリーンで見せるということです。教室にケーブルがきているわけではなく、今もって自分の研究室から教室まで延々とケーブルを運んでいきます。たしかに学生は興味を示してくれますが、毎時間の作業となるとかなり大変です。各授業間の休憩時間が本年度から10分間になりましたが、廊下をまたいでケーブルをはったりする準備にかなりの時間がかかりますので、これは1時限目の授業でないと不可能ですし、廊下を歩く学生達が怪我でもしたら大変ですので、今では授業の途中で何度かやる程度にしています。


ホームページの活用

 授業の内容はホームページで公開をし、学内であればどこからも見られるようにしています。大学としてもシラバスの公開だけではなく、授業内容も全教員が公開すればよいと考えていますが、著作権の問題などがからんでくると困難になるのかもしれません。毎時間の授業内容を確実に見てくれればいいのですが、試験が始まる頃になってあわててプリントしようとすると、1回の授業がA4版で3〜4枚になるのであきらめてしまう学生もいるようです。
 宿題は授業中に出しておいて、回答は電子メールで受け取るようにしています。少し難しい問題を出すと、回答も少なく受講者が100人を越しても仕事が煩雑になることはあまりありません。
 私個人では随分と長いことパソコンを使ってはいますが、まだまだ学生に教えられることが多々ありますし、今でも学生とのコミュニケーションを更に密にするための小道具としてなくてはならないものになっています。もっと学生たちは教員に対して電子メールなどで言いたいことを遠慮しないで言えばよいと思いますが、教員側にその雰囲気がなければうまくいかないかもしれません。
 本学でも、FDの一貫として「学生による授業評価」を実施していますが、回数も少なくあまり有効に活用されているとは言い切れません。現状では、各学期の終わる頃に一斉に実施していますが、もう少しいつでも自由に授業アンケートとして、学生の様子が汲み取れるようになる必要があります。
 「学生参画型の授業の開発」というのが私の研究テーマですので、これからもITをうまく活用して特色ある授業を目指していきたいと考えています。学内において、特色ある授業をしている教員や、学生からも評判のよい教員の公開授業をするとか、学外においてもネットワークを使ってお互いの授業内容を紹介するようなことができればよいと考えています。  できるところからというならば、私と同じような苦労をされている先生たちと、現状報告会のようなものができれば大変よろしいのではと思います。

URL http://www.sic.shibaura-it.ac.jp/~sasaki
E-mail sasaki@sic.sibaura-it.ac.jp



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