特集 e-Learningの実践〜魅力ある教育を目指して〜

法政大学におけるe-Learningの取り組み
−リアルタイム型遠隔授業の事例−


林 公美(法政大学情報技術(IT)研究センター事務室)



1.はじめに

 法政大学は、1997年10月高度情報ネットワークシステム(法政大学教育学術情報ネットワーク)を構築しました。2000年10月には、ATM方式を採用した動画や音声情報の送配信、ギガビット化によるSINET、IIJマルチホーム接続、3キャンパス間や海外との遠隔教育を実現する「リアルタイム型遠隔教育」、ネットワークでの講義の配信を可能にした「オンデマンド型遠隔教育」、「ISDN回線を利用した遠隔教育」システムを搭載した更なる高機能なネットワークシステムを再構築しました。SCS(スペース・コラボレーション・システム:衛星通信による映像交換を中心とした大学間ネットワークシステム:1996年導入)等、多様な遠隔授業のインフラを整備しました。あわせて、2002年度にはオープン・リサーチ・センター整備事業として「インターネットを活用したボーダレス教育・研究システムデザインと実践に関する総合的研究」が採択されたこと等、本年度は様々な形で遠隔授業を実践しました。本稿では、特に「リアルタイム型遠隔授業」システムの事例を中心に報告します。


2.リアルタイム型遠隔授業の事例1

 プレMBA講座(日米間の大学院レベル授業)
 経済活動のグローバル化に伴って、海外の経営手法の学習が重要になってきています。ビジネス教育においても、グローバル・スタンダードが形成されつつあり、経営学修士(MBA)の取得を目指す学生・社会人が増えています。法政大学では、こうした社会的要請に応えるため、カリフォルニア州立大学ヘイワード校(以下ヘイワード校)との協定によって、通常2年間の現地留学を必要とするMBA取得を最短1年間の現地留学で取得できる「MBA4+1」プログラムを実施しています。
 このプログラムは、英語力(TOEFL550点以上、GMAT450点以上)と法政大学経営学部、経済学部、工学部経営工学科で開講しているヘイワード校のMBA認定科目(同校のMBAコース基礎科目)10科目を在学中に取得することが前提条件となっています。
 プレMBA講座は、この「MBA4+1」プログラムの補完講座として2002年4月に開講しました。同講座運営にあたっては、法政大学情報技術(IT)研究センター(以下IT研究センター)と2000年8月、米国カリフォルニア州シリコンバレーに設立した現地NPO法人「法政大学アメリカ研究所(以下アメリカ研究所)」が、ヘイワード校と連携して行っています。

(1)プレMBA講座の内容

 授業科目は、英語力スコアアップ2科目(TOEFL TestスコアアップおよびGMATスコアアップ)と経営基礎科目3科目(Financial Accounting, Managing Marketing, Business and Society)で構成され、履修期間は6ヶ月。春季講座(4月1日〜9月30日)と秋季講座(10月1日〜3月31日)の年2回開講。都心の立地を生かし、ビジネスマン・学生を対象に、火曜と木曜の夜間(19時〜22時)および土曜(9時〜13時)というカリキュラムです。
 「MBA4+1」を補完する講座であるため、基礎科目10科目の残りの科目については、法政大学の科目等履修生として認定科目を履修し、進学要件を充当することになります。
 本年度の受講生総数は、35名(社会人25名、学生10名)。社会人受講者のために、厚生労働省の教育訓練給付金指定講座の認定を受けています。

(2)プレMBA講座遠隔授業について

 遠隔授業は、経営基礎科目3科目のうちの2科目(Managing MarketingとBusiness and Society)。選択科目として、「基礎数学」および「基礎統計学」の計4科目。春季講座では、合計約80時間(計20回)、現在開講中の秋季講座も同時間を予定しています。
 日米間の時差の関係および社会人の受講可能日時を考慮して、日本時間毎週土曜の9時から13時までの4時間を基本とし、IT研究センター1階の遠隔講義室とアメリカ研究所を専用回線で結び、インターネットを介して、双方向リアルタイム方式で、ヘイワード校の担当教授が、アメリカ研究所から英語で講義を配信しています。受講生は、ヘイワード校のWebをベースとした教育支援システムBlackboardにアクセスし、レポート提出等を行います。マーケティングの授業では、各チームで作成したプロジェクト企画書に基づくプレゼンテーションを、アメリカ研究所にいる担当教授に向け配信するなど活発なコラボレーションが展開されています。春季講座の修了生から、数名、ヘイワード校への進学予定者(9月入学)がいます。

(3)システムの特徴

 システムの概略図を図1に示します。システムの特徴は以下の通りです。

1) コンテンツの自動生成機能搭載:授業終了時に、デジタルコンテンツ化されるので、CD-ROMを受講者に貸与。PowerPoint資料、音声、動画が同期しているので、事前・事後学習支援教材として、受講生に好評です。
2) 専用ペンで、デジタルボードやPower Point資料への書き込み、消去が双方で自由に行なえます。
3) 講師のコメント、受講生とのコラボレーションがリアルタイムで行えるので、受講生が英語に慣れ、米国の大学院と同レベルの内容を日本に居ながらにして学ぶことができます。

図1 システム概略図

(4)システム運用上の改善点

 システム運用上の改善点としては、以下のことが挙げられます。

1) 現在、機器オペレーション等の運用支援を委託しています。経費の問題もあり、無人で稼動する(システム支援要員が不要)システム構築を検討中。
2) コンテンツ自動生成機能の高機能化を実施予定。
3) 音質の改善。現在使っているH323規格は、インターネットやLANでの映像・音質の規格ですが、音質は電話レベル。英語の授業のため、音質の改善は重要問題である。当面、FMラジオレベルの音質までの改善を実施予定。
4) 高品位な動画、音声で講義により臨場感を出すこと。現在コンテンツは高速回線(T1回線、768Kbps)を使って配信していますが、臨場感を一層高めるために広帯域化を実施予定。

3.リアルタイム型遠隔授業の事例2

確率論(日米間の学部教育レベル授業)
 遠隔授業を工学部専門科目授業に導入した事例について報告します。工学部2年生および3年生の受講者約200名を対象とした「確率論」を、小金井キャンパスとアメリカ研究所を結んで行いました。週2コマ(毎週月曜日の1時限(約130名)および2時限(約70名)前期開講2単位科目)の通常授業ですが、本年度は担当者がアメリカ研究所駐在であるため、遠隔での実施となりました。遠隔講義システムは、小金井キャンパスで導入しているISDN接続タイプと、アメリカ研究所のネットワーク接続タイプのものを、市ヶ谷キャンパスにある多地点接続装置で結び実施しました。会場となった小金井マルチメディアホールは、3面の大型スクリーンを備え、板書代わりとなるPowerPointスライド画面を、講師画面とは独立して表示させ、スライド表示用のPCは、アメリカ研究所内講師卓に設置のタブレット付きPCからインターネット経由で操作し、スライドの切り替えとペンによる書き込みを同期させました。これらの装置とアプリケーションは多人数用に特別用意したものではありませんが、マルチメディアホールのAV機器と組み合わせることで大規模講義でも十分に機能することが実証されました。運用支援には、TAを配置しました。

IT研究センター
遠隔講義室(受信側)
アメリカ研究所(講師側)

4.今後どのように発展させるか

 第一に、現在SAなどで提携しているUniversity of California, Davis校やドイツのベルリン自由大学との交換授業等を検討しています。
 第二に、法政大学の市ヶ谷キャンパスにある多地点接続装置(MCU)に各地域の大学からインターネットを介してアクセスしてもらうと、多地点からリアルタイム双方向のコミュニケーションができます。ビデオシステムを導入している大学は多いので、こうしたインフラを有機的に結びつければ、効果的な講義や情報共有ができます。インターネット上のリアルタイム国際シンポジウムや国際遠隔セミナーを積極的に展開したいと思っています。



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