特集−IT活用によるファカルティディベロップメントへの取り組み

学習院大学におけるファカルティディベロップメントへの取り組み
〜ITを用いた授業展開の改善と支援体制〜

入澤 寿美(学習院大学計算機センター教授)



1. はじめに

 近年大学におけるファカルティディベロップメント(FD)の重要性が言われ、それに取り組む大学が増えてきています。本学では、まだ本格的な動きはないようですが、マルチメディア機器や情報処理的手段(IT)を用いた授業展開の重要性は認識されてきています。当初FDを意識して組織化したのではありませんが、平成11年度に「学習院コンピュータシステム支援組織」を計算機センター内に組織し、教職員への情報処理技術の向上のための支援と、マルチメディアが設置されている教室の安定稼動をさせるための支援を目的に設立させました。また、情報処理システムおいても[1]、ITを用いた授業展開が行いやすいような独自の工夫をしています。このような計算機センターの取り組み方は、マルチメディアとITを用いた授業展開の改善につながることになり、一つのFDへの取り組み方として本稿にて紹介します。


2. 情報環境とマルチメディア教室

(1)学習院大学のサーバ・クライアントシステム

 本学では、教員や学生が使うPCクライアントならびにサーバシステムを今年度4月から一新しました。ファイルサーバとして5TBのユーザー使用空間を用意しました。ファイルサーバ上には、個人用(Z)、Web発信用(M)、教材用(S)、レポート提出用(R)があり、それぞれドライブの形でPCクライアントからマウントし、授業や研究に利用できるようになっています。なお、カッコ内はドライブ名です。Web発信用(www-cc.gakushuin.ac.jpというWebサーバから情報は発信される)や教材用(教師は書き込めるが、学生は読めるだけ)は、ITを活用した授業展開を行う上で不可欠であると思います。また、教師が電子的資料提供やWeb教材を作成するにしても、PCのドライブとして見えているので、簡単な操作で行うことができます。さらに、教材用は学内からのみ参照できますが、すべての教員・学生から見ることができるので、提供する教員は責任のある資料等をそこに置くことになります。

(2)ネットワーク

 計算機センター内にあるVOD(Video On Demand)サーバに著作権に抵触しない教材用ビデオコンテンツを置き、学生が学内のPCから見ることができることも教育上効果のあることです。そのために、ネットワークの基幹のほとんどはギガビットイーサで計算機センターと接続され、マルチメディア装置が設置してある教室(以後マルチメディア教室と呼ぶ)でもストレスなしに提示できるようになっています。

(3)マルチメディア教室とマルチメディア編集ラボ

 教師がどのように凝った教材を作成しようとも、それを掲示できる教室が整っていなくてはなりません。特に、200人以上収容するような大教室では、旧来の板書形態では受講する学生にとって板書された情報を読み取れず、授業に飽きて居眠りをする者も出てきます。それを回避するためには、大スクリーンに教室内の電灯を消す必要のないくらい高照度なプロジェクタで教材を投影できる必要があります。本学では平成10年度から多くの教室をマルチメディア教室に改修しています。現在授業で使用している大教室は、16教室あり、そのうち12教室はマルチメディア教室に改修済みであり、今年度さらに2教室増やす予定です。また、外国語教育においてもマルチメディア教材の活用は重要であり、ほとんどすべての教室(西1号館)が対応しています。ちなみに、ゼミ室を除く教室としては、90室弱ありその内の50教室(55%強、内CAI対応教室は6教室)がマルチメディア教室となっています。それらの教室には、VTR、LD/DVD/CD・カセットテープレコーダ・書画カメラ等マルチメディア機器があり、コンパクトな操作卓に納まっています。また、大教室には電子白板を用意し、板書に対応しています。
 マルチメディア編集ラボには、ノンリニア編集機、アナログ編集機、AVダビングシステム、カセットテープ高速ダビングシステム、音声ダビングシステム、World Videoデッキ、DVカメラ、ビデオCD作成システムがあり、また、ケーブルテレビによる地上波の受信はもとより、BBC、CNNといった外国メディアも受信できるようになっています。BBCとCNNの映像に関しては、編集を行っても良いという契約を行っていて、外国語教育に役立たせようとのねらいです。ダビングシステムは、使い方も簡単で多くの教師が利用しています。しかしながら、各種編集機や作成機の利用は、使い方の難しさもあり、また、完成までの時間がかなり必要なことから、ほとんど使われていないのが現状です。


3.支援組織とマルチメディア教材作成支援

 2.で述べたように、本学ではマルチメディアを用いた授業展開を行うためのハードウェアは整っていると思います。しかしながら、これらの装置や機能を使いこなし教育内容・方法の改善と教育効果の向上を図るためには、教師へのなんらかの支援を行う必要があります。それを担っているのが「学習院コンピュータシステム支援組織[2]」です。設立した目的は、

1) マルチメディア教室の各設備の故障時間を極力短くし、安定稼動させる。
2) マルチメディア教材作成、マルチメディア装置や情報システムを用いた授業方法への助言を行い、間接的にではあるが学生への教育効果の向上を図る。
3) 情報処理に伴うトラブル(PCへのソフトのインストールや各種設定方法も含む)の解決法の指導により、各教師が独自でトラブルを解消できるようにし、PCを用いた情報処理技術のスキルアップを図る。
 支援組織は、これらを実現するために、助手3名(3年任期)と10名程度のアルバイト(学部修了生)で組織化されています。
 1)に関しては、授業に穴を開けるということは授業方法の改善への教師の熱意をそぐ結果になりかねません。現状そのような事態にはなっていないようです。
 2)に関しては、「講習会」という形式をとらず、「勉強会」という形で決めた日時に助手とアルバイトがCAI対応の教室に常駐し、情報処理方法に関するよろず相談を受けています。勉強会形式にしている理由は、教員が能動的に知識・技能を修得するほうが効果的であると考えたからです。しかしながら、終日開講しているわけにもいかず、出席できないとの声も多いことから、必要ならば研究室へ出向くこともあります。
 3)は、教師が教材等を開発する際に外注するにせよ、アルバイトの学生に頼むにせよ、教師が作りたいものを的確に相手に説明しなければなりません。一番良いのは自身で作成することですが、時間的制約もあり外注せざるを得ない場合もあります。昨年Web上に公開(とりあえず学内のみ)する目的で教材作成のプロジェクトを行いました。その効果については今年度中に評価が必要ですが、その改定等も必要であろうということで、来年度はマルチメディア教材作成のプロジェクトを実験的に行います。その支援方法に関し、一昨年ホームページを全学的に作り直した経験が大きく役立つと思います。それは、作成したい発注者(ホームページの特性をあまり理解していない者)と外注先の担当者の間に「通訳」が必要であったことを痛感したことです。教材作成においてもこの「通訳」的役割を支援組織の助手が担うことになると思います。これは、すべての教員のスキルがある一定基準になるまで必要不可欠と考えます。
 最後に支援組織を維持するための経費ですが、人件費も含めて約4千万円かけています。この中には、支援組織では対応できない修理や、メンテナンスも含めた費用です。ある業者によると、標準的なメンテナンスを行って、一教室あたり100万円くらいかかるとのことでした。この金額では1)にはとても対応できないことは明白であり、2)、3)を外注するにはその数倍はかかると見込まれます。


4.さいごに

 発足当初、支援組織は「正式な組織ではない」として、認知されていませんでした。しかしながら、「認知しました」というお墨付きはいただいていませんが、雰囲気的にはなくてはならない存在になっています。また、FDに対しては必要不可欠の組織になるものと確信しています。なお、支援組織発足にあたっては、関係各所の事務職員の方々に感謝いたします。さらに、発足時の初代の助手であった市川収氏と松本喜以子氏(発足以前はセンター副手)には、数々のルール作りやアイデアを出していただき、たいへん感謝しております。


参考文献
[1] 入澤寿美, 窪田誠 : NFSによる大規模分散システムの集中管理.
私情協ジャーナルVol.3 No.2, pp.8-10, 1994.
[2] 入澤寿美, 市川収, 松本喜以子, 水上悦雄 : マルチチメディア
機器が文房具として使いこなせる日を目指して. 大学教育と情報
Vol.10 No.2, pp.29-32, 2001.



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