教育支援環境とIT

大阪学院大学における情報化と教育支援の環境
−これからの教材作成支援のかたち−



1.IT活用と教育改善について

 大阪学院大学(総長=白井善康、大阪府吹田市)は、創立以来「視野の広い実践的な人材の育成」という建学の精神のもと、社会で役立つ実学教育を一貫して実践しています。本学がこれまで培った伝統を育むとともに、変容する社会への対応にも積極的に取り組んでいます。
 高速・大容量による通信を可能にしたITの進歩は地球規模のグローバルコミュニケーションをもたらし、情報通信ネットワークの発達と国際化の中で、これまでの社会の仕組みは大きく変容しようとしています。このような潮流の中で、大学教育においても、コンピュータをはじめとするITを使いこなす能力とお互いの文化を理解しあう豊かな国際感覚は、これからの時代を生きる人にとっては欠かせない基本ツールだということが言えます。
 そこで、本学では国際化に向けて、世界の諸大学と様々な交流をはじめ、海外研修や海外インターンプログラムなど、多彩なプログラムを充実するとともに、最新の教育・研究系ネットワーク(OGUNET:Osaka Gakuin University NETwork=オグネット)を構築し、最先端の情報教育環境の充実を図り、教育の改善という観点から、教育の情報化に取り組んでいます。

 
図1 MELOP(12号館)の講習会エリア(左)と
自由利用エリア(右)


 
図2 MELOP(3号館4階)の音楽編集エリア(左)と
映像編集エリア(右)


2.学生および教員への支援体制

 大学全体のIT活用のレベル向上を図るには、学生および教員の双方を支援する体制が必要です。本学は平成9年10月から学生のITスキルアップを目的に、12号館にマルチメディア施設MELOP(MEdia Laboratory Of Phoenix)を開設しました。このMELOPには講習会エリアと自由利用エリアがあり、講習会エリアでは専門のインストラクターによるインターネット、電子メールやOffice群アプリの講習を平日3コマ実施。学生は授業の合間に講習会に参加したり、自由利用エリアでレポート作成したりしています。翌年の平成10年には、本格的なマルチメディア施設3号館を開設、Web作成エリア、DTP(Desk Top Publishing)・音楽編集エリアやビデオ編集エリアなど最新の周辺機器を揃えたマルチメディアフロアをスタートしました。ここでは主に、マルチメディア系の各種ワークショップやシスコネットワーキングアカデミー等の資格対策講座を実施しています。
 一方、教員の教材作成支援の施設として、平成10年10月にメディアラボを開設しました。PowerPointなどOffice群とCGI、Java、Flashやビデオ編集のインストラクター3名を常駐させ、教材作成の支援を行いました。メディアラボにはシリコングラフィック社のO2機、パソコン8台や高速プリンタを設置し、製本エリアも設けました。ここでは、教員対象の教材作成の研修やBloombergなどのネットワークを活用したシステム等の紹介や研修を定期的に実施しました。この時期の支援は、PowerPointの使い方やデジタルカメラで撮った画像の処理などの操作方法を紹介する技術支援をするものでした。


3.教育支援システムの導入

 平成13年度から、MIT(マサチューセッツ工科大学)知的工学システム研究所長ジョンR.ウィリアム教授が開発した「Command」システムを本学向けにバージョンアップし、教育支援システム「Caddie」として全学部での運用を開始しました(日本語版は鹿島建設株式会社がリリース)。「Caddie」システムはWebベースの非同期型で、科目ごとに教材や資料を一元的に管理し、スケジュール管理、課題の提出、グループ作業やディスカッション機能を備えています。
 バージョンアップにあたっては大教室、ゼミナールおよびパソコン実習室で平成12年10月から半年間試用した結果、その操作性を考慮して、学生画面にマイページを設け、履修しているそれぞれの科目に関するスケジュールを集約して表示することや、教員が登録した学生に一括メール送信できるようにすることなど、13項目についての機能追加を行いました。
 「Caddie」システムを運用開始した平成13年度からの利用状況を第1表に示しました。これをさらに前期・後期ごとに見ると、開始当初から利用をはじめた教員30名は、システム導入に好意的で、授業形態に応じて、システムの各機能を活用しています。他の教員にも利用を促すため、各セメスター前に、教員を対象として、事例紹介を交えた説明会を実施しました。しかし、平成13年度後期には36名、平成14年度前期では若干増えたものの利用した教員は44名と少なく、これは教員全体の2割弱に過ぎませんでした。

表1 「Caddie」の利用状況(教員)
年度(前・後期) 教員数(利用率) 講座数
13年度 36名(14%) 152講座
14年度 53名(22%) 263講座
15年度 61名(25%) 61名(25%)
注)利用教員数は前期・後期を含めた実人数。
  平成15年度には一部、後期利用者数も含む。

 一方、「Caddie」システム利用者の講座数の増加は顕著で、平成13年度前期は利用者30名で104講座、後期には利用者36名で152講座、平成14年度前期では44名で220講座と利用者一人当たり5講座と堅調な伸びを示しており、「Caddie」システムの利便性を示唆しています。したがって、利用者数の伸びが鈍いのは、「Caddie」システムに内在する問題によるものではなく、教員の教材の電子化のスキルや意識に起因するものと考えました。

 
図3 DSS(Digital Support Service)
教材のデジタル化を代行する受付(左)と
教材作成の技術支援を行うコーナー(右)


 
図4 DEC(Digital Education Center)
教材開発の専門スタッフが作業するエリア(左)
DECには録音室があります(右)。

 e-Learningによる「学生自ら学ぶ」環境の整備の有用性については、多くの教員が理解を示しながら、「Caddie」システムを利用する教員が増加しないことへの対応として、これまでの教材作成の技術支援に加え、教材の電子化を代行するサービスを平成14年10月からスタートしました。自力で教材の電子化を行うだけのスキルや時間がない教員でも、「Caddie」システムを使えるようにするためです。このことは、教員と事務職員の互いの「距離を保った」支援ではなく、「領域を越えて」教材の電子化に共同して取り組むことを意味し、次のように支援の体制づくりを行いました。
 教員の教材のデジタル化支援を受け付ける窓口をDSS(Digital Support Service)とし、これまで教材作成支援室であったメディアラボを教務課横のオープンスペースに移設しました。また、教材のデジタル化の方法を検討するだけでなく、遠隔教育や体系だった教材の開発など教育の情報化を推進する機関としてEITS(Educational Information Technology System)を設けました。そして、実際の教材開発の作業は、DEC(Digital Education Center)で行うことにしました。現在、DECではCALL教室で使用する語学教材のCD-ROMの制作プロジェクトが編成され、プログラマーやデザイナーの3名が開発に携わり、ディレクターを中心にして、その進捗管理が行われています。このような体制づくりの中で、「Caddie」システムは平成15年度前期(5月末現在)で61名の教員が利用するようになりましたが、DSSでは、さらに利用者を増やす目的で、教員を対象にした「Caddieを活用した授業事例」や「PowerPointを使った授業展開」の他、「統計ソフトSPSSを使った教材の作り方」などの各種DSSセミナーを企画し、実施しています。


4.ITを活用した学生サービス

 本学では、平成12年4月から本格稼動した学内情報サービスによって、個々の学生に応じた情報をパソコンや携帯電話を使って閲覧できるサービスを行っています(学生利用者数8,811名)。また、最近普及しているADSLやCATVなどの高速常時接続サービスによる社会のブロードバンド化に対応して、「Caddie」システム、図書検索やWeb履修などの学内LANシステムを自宅から利用できるようにVPNサービス(Virtual Private Network、呼称「Cyber Access」)を平成14年10月から開始しました。
 さらに、本年度からは全学部で講義要項、時間割の印刷を廃止して、シラバスCD-ROMを使ったWeb履修を開始しました。予備登録、クラス指定や他学部履修にも対応しており、CD-ROMの時間割作成メニューにしたがって科目を検索しながら時間割を作成し、そのデータと共にサーバに接続、登録するプログラムをフロッピーディスク(FD)に保存するようになっています。この作業は大学や自宅でもできます。そして、学内LANに接続した環境で、先述のFDで時間割データをサーバに登録します。その際、時間割データにエラーがあればサーバと接続して、時間割の修正を行います。実際にはほとんどの学生は数秒から1分以内で、時間割のサーバ登録が完了しているという結果でした。時間割作成をCD-ROMを用いてオフラインで行うことによって、サーバと学内ネットワークに可及的に負荷をかけないように独自に考案した方式です。学生にも概ね好評で、履修登録によるエラーも激減しましたが、特に、新入生については、パソコン操作の指導強化など運用面での課題があげられます。

図5
研究室のあるフロアには受付に在室状況を入力できるタッチパネル式パソコンがあり、エレベーター横にはプラズマディスプレイを設置


図6
学生用ホームページで閲覧できる教員所在状況
(伝言機能あり)

 次に、学生の利便性向上のサービスの一つである教員所在表示システムについて紹介します。研究室があるすべてのフロアの受付には教員が所在状況を入力できるようにタッチパネル式パソコンがあり、エレベーター横にはプラズマディスプレイが設置されています。もちろん、所在状況の入力は研究室のパソコンからもできます。学生は、学内のパソコンから教員の所在状況を閲覧できるようになっています。また、伝言機能や検索機能があり、号館別表示、学部別表示の他、学生は自分が履修している科目の教員を表示することもできます。また、事務職員や電話交換手用の画面もあり、活用されています。


5.キャンパスのIT化(2号館)

 学内のIT化を推進するとともに、ハード面の整備・充実を図ったのが、2号館です。高度情報社会の先端的な教育・研究をめざす拠点として、2号館は平成13年3月に完成しました。 
 1階のオープンラボ(Open Lab)は授業や研究会、会議など研究・調査を目的に使用する施設です。8面マルチプロジェクションや可動式デジタルボードがあり、目的に合わせたレイアウトが可能です。地下1階には、情報社会に対応する四つの特色ある階段教室があります。これらの教室では、あらゆるメディアの教材の提示ができます。また、教室の全席に情報コンセントと電源コンセントがあり、ノート型パソコンをOGUNETに接続できます。たとえば02-B1-02教室は、200インチのリア型スクリーンが3面あり、遠隔講義を行う設備がある他、サラウンド方式を採用しており、映画上映、講演会や学会にも使えます。

図7 マルチメディア大教室
(02-B1-02)

図8 パソコン実習室
(2号館3階)
 LinuxとWindowsのデュアル
ブート方式(60台)

 3階には、プログラム言語や画像編集など充実したソフトの他、Linuxを搭載したデュアルブートのパソコン実習室や自習室があります。また、可動式のデジタルボードなど、教育効果を高めるテクノロジーが用意されています。
 4階、5階には情報学部と企業情報学部の研究室と合同研究室があります。卒業研究等を行う合同研究室を取り囲むように教員の研究室が配置され、機能性を重視したレイアウトになっています。
 このような建物(ハード)を活用する授業として、平成15年度からスタートしたホスピタリティコースにおいてNetMeetingを使ってハワイ大学との遠隔教育を行っている講義について紹介します。ホスピタリティコースはホテル業(リーガロイヤル、ハイアットリージェンシーオーサカ)・旅行業(JTB)・航空業(JAL)・外食産業など企業と連携して、将来ホスピタリティ・サービス産業を目指す学生向けのインターンシップを含む講座で、その業界において必要とされる実務を学び、即戦力に結びつく実力を養うものです。こうしたインターネットを活用した遠隔教育は、教育の国際化とあいまって本学でも増えています。

図9 NetMeetingを使った遠隔講義
「ホスピタリティコミュニケーションIII」ではKCC(カピオラニ・コミュニティ・カレッジ、ハワイ州)と遠隔教育を実施。


6.セキュリティネットワーク

 これまで教育・研究系ネットワークであるOGUNETについて述べてきましたが、キャンパスにおける危機管理・安全確保といった視点からIT活用の事例を紹介します。キャンパスにあるパソコン教室および2号館の3階以上の教室や合同研究室にはカードゲートが設置されており、履修情報によって入室できる学生を判別しています。これは、OGUNETとは異なるセキュリティネットワークで一元管理されています。また、パソコン教室は授業時間以外は全学生に開放していますので、その間は開放モードになるなど細かな運用管理を行っています。
 また、キャンパス内のエレベーターにはセキュリティカメラを設置しており、エレベーター内の映像を基内のディスプレイに映し出しています。安全管理に加えて、さらに、このディスプレイはインフォメーションボードとしても活用しています。

 
図10
パソコン教室にはカードリーダーが設置されています(左)。各カードゲートへの入室は学生の履修情報によってサーバで一元管理されています(右)。


図11
エレベーター内のインフォメーションボード


7.今後の方向性と課題

 平成9年10月から運用開始した学内LANであるOGUNETは、現在は動画配信にもストレスを感じさせないギガビット(1Gbps)のバックボーンを持つネットワークに整備されました。このOGUNETを活用したキャンパスのIT化、教育のIT化に積極的に取り組んできましたが、さらに、教育のIT化を推進するには、教材の電子化を効率よく行うためのツールや手順のスタンダード化が必要であると同時に、専門領域ごとに科目の情報化のニーズや特徴についても研究する必要があります。
 今後も新しいテクノロジーの登場によって、これまで困難であったことが実施できるようになるでしょう。たとえば、可動式無線LANによって、一般教室でも、学生はノートパソコンを持ち込んで、ネットワークに接続できるようになりました。また、遠隔教育において、NetMeetingを使う場合、ファイアウォールが障壁でしたが、最近は、互いにファイアウォール越しに、遠隔講義を行える製品が登場しています。このようなITの進展はネットワーク活用の利用機会を拡大することにつながるでしょう。しかし、ITを活用した教育は、新たな著作権や個人情報に関する問題も生み出しています。今後とも慎重に教育の情報化に取り組んでいきたいと思います。


参考文献
[1] 高橋 誠 : 電子化教材作成のための支援環境.
平成14年度教育の情報化フォーラム,
pp.54-57,私情協.

文責:大阪学院大学 庶務課メディア係
 課長代理 高橋  誠


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