私情協ニュース6

平成15年度 教育の情報化推進のための理事長・学長等会議開かれる


 去る、8月2日、日本大学理工学部駿河台校舎を会場に100大学、13期大学より211名の理事長、学長、学部長等が参加して開催。
 今年度は、「『教える授業』から『学ぶ授業』への大学の取り組み」と題して、「学ぶ授業」を実現するための教育方法として、学生の学習意欲を惹起し、必要なときに学習や個人指導が得られるe-Learningをはじめとする教育システムの可能性と限界、大学としての教員職員一体となった支援体制などの課題について協議し、学生に魅力ある大学創造について探求する場とした。
 会は、戸高敏之会長(同志社大学)より、本会議開催の趣旨について説明があり、ついで瀬在幸安総長より会場校代表の挨拶の後、基調講演、事例報告、全体討議、関連情報の紹介を行った。以下に会議の概要を紹介する。


1.基調講演

「e-Learningの可能性と限界」

 清水康敬氏(国立教育政策研究所教育研究情報センター長)から、e-Learningとは、学習者が主体的に学べるように学習環境にインタラクティブ性が求められる。面接授業をそのままe-Learningにしても、授業が教員中心で学習者の動機付が配慮されていなければ該当しない。遠隔教育でも教員が一方通行で授業を行うのではなく、インターネットを通じて同時または非同時に学習者が質問や回答などの学習行動を伴うものでなければならない。このような授業を進める上で留意しなければならない点として著作権処理を適切に行っていくことが重要である。平成16年1月1日より遠隔授業における教材等の送信についてリアルタイムで行う場合には権利者への許諾が不要となる。しかし、オンデマンドでの送信は従来通り、許諾が必要。また、Webサイトに掲載のコンテンツをe-Learning用にサーバに置く場合も送信可能な状態にあるということで、許諾が必要となる。優れた教材を開発するには、教育目標、教育対象、教育方法を明確にした上で、教育内容を分析して、学習者の能力に適したe-Learningコースを設計するインストラクショナルデザイナーとしての専門家が必要となる。なお、今後の問題としてシステム上での本人の確認も課題となる。


2.事例発表

「ITを活用した学習支援システムへの取り組み」

 「e-Learningによる学習支援」の取り組みとして宮川裕之氏(文教大学湘南情報センター長)より、13年度から試行し、14年度からe-Learningを大学の授業とする学則改正を経て15年度から大学のキャンパス間で遠隔授業を始めたことの報告があった。現在作成のe-Learning教材は、「教育評価、情報と経済、英語コミュニケーション、テクニカルライティング」などで、e-Learningの教育目標は、学生の達成度を測定し、反省・改善を通じて学生一人一人の能力を向上させる。30分前後のビデオ学習の後、理解度クイズをWebサイトで回答。正解率8割に達しないと次の単元に進めないように設定。理解できない場合は繰り返しe-Learningで受講。その様子を学習進行管理システムとして視聴時間、クイズの得点など学習履歴情報を蓄積することにより、効果的な学習支援が可能となる。最初から満足できる教材は難しい。理解度クイズの平均点が低い場合には教材に不備があるとして見直することにしている。

 「授業のオープン化、学習支援システム」の取り組みとして安藏伸治氏(明治大学情報システムを利用するための教育・研究コンテンツ構築委員会委員長)より、授業参加意欲、コミュニケーション能力、基礎学力などの低下による対面授業の問題を克服するための一手段として、事前・事後学習の促進、授業への目的意識の高揚など新たな学習関係を創出するための学習支援システムを稼働させていることの報告があった。10,806の授業の内、講義科目である6,458科目を対象に35,000人の学生に13年度より実施している。オープン化の内容は、「クラス・ウェッブ」として、シラバス、学習の指針を与える授業計画、レジュメや板書を掲載する授業内容、教員からのお知らせ、教室での討議をWebサイトで行うディスカッション、授業に使用する資料(図、写真、映像も含む)、課題を提示し、回答をWebサイトで回収するレポート、関連リンクを掲載。さらに授業評価に関するアンケートを自動集計することが可能。また、居ながらにして教育・学園生活に必要な情報として、学内の組織・機関に対して意見交換可能なオンラインサポート、学生一人一人の時間割、成績照会、健康診断結果、教員の研究や業績、教育活動等に関する情報をデータベース化する専任教員DBがある。本システムの効果は、教員と学生の距離が近くなることにより、深いコミュニケーションが構築できたことと、学生が授業に出席するようになったこと。また、教員に分かりやすい、魅力のある授業を進めるための工夫がはじまったこと。課題としては、より多くの教員が効果的な授業が行えるよう、全学的なファカルティディベロップメントの推進や教育方法の検討など意識改革が必要。

 「教職一体型の教材作成支援システム」の取り組みとして三浦真琴氏(中部大学教育研究センター副センター長)より、10年度から学術情報センターの中にコンテンツ作成支援環境としての「Web Factory」を設置して、Webページの作成に関して理解のない教員が職員の支援を受けて、教員、学生にとってより機能的な教材を作成するとともに、教員と学生のコミュニケーションによる授業を実現した一事例について報告があった。
 「Web Factory」は、教材をWebページへ加工し、編集する教員専用の部屋で、動画編集機器、電子化変換ソフトなどがあり、専門的に常時支援している。当初は、教養教育科目の毎回の講義内容、授業録画、資料、シラバスを掲載していたが、学生とのコミュニケーションを増やすため掲示板機能を利用して、自己紹介・履歴書、教員の日記、作文教室、授業以外での相談・助言などを通して5,410件のアクセスがあった。教職過程教育にも活用し、Webページだけで学習した学生の感想・意見も掲載することにより、授業をオープン化した。その結果、教員自らが録画を通して教授法を反省することができた。いずれにしても、情報技術に精通した専門家を置くことが重要。外部委託する場合には、学内の教育や情報環境に精通した教職員の配置が必要。教員の情報技術活用のアーカイブを通じて新しい授業方法の開発が可能となる。職員は、単なる技術的な支援の提供にとどまらず、授業改善のための支援にかかわることが可能となる。


3.全体討議

「サイバー・キャンパス実現に向けての取り組みを考える」

 討議に先立ち、サイバー・キャンパス実現に向けての本協会としての取り組みについて、井端事務局長より次のような報告があり、その上で向殿政男常務理事(明治大学理工学部長)が座長となり、全体討議が行われた。まず、本協会の取り組みについて、「大学間情報交流システム」では、自らの大学を知り、その上で他の大学と比較するための場として、インターネットで学内・学外向けの情報を区分し、戦略的な計画を立てることが可能となる。そのために、掲載情報の内容としては、教育目標、教育方法をはじめ教育体制、教育改善の取り組みなど教育政策を考えるための戦略情報など各大学の判断としている。
 「サイバー・キャンパス・コンソーシアム」では、一大学の教員では解決できないコンテンツの共同利用や共同開発、授業の共同運営を実現するために、大学の壁を越えてインターネット上で大学が連携協力する仕組みを14年度に構築した。現在、153大学25短期大学の教員1,057人が参加しており、人文、社会、自然科学の40程度のグループを構成し、そのうち20程度のグループが活動を開始している。今後は、10,000人以上を目指して参加教員の増加に努める予定。
学系グループの活動状況
 
英語学 基礎学力強化のためのマルチメディア語彙教材を開発中
法律学 法学入門用の教材共同使用を企画・検討中
経済学 経済学入門用の教材・素材を共同使用するためポータルサイトを構築
会計学 教材・素材を共同開発、共同使用に向けて授業事例を踏まえたIT技術の勉強会を企画中
物理学 ポータルサイトを介した教材の共同使用、基礎学力の補完を目的とする教材の共同開発を企画中
化学 基礎学力の充実を図るための狭材共同使用および不足する教材の共同開発を企画中
数学 基礎数学分野の教材共同使用、共同開発を検討中
機械工学 学生の授業参加意欲を高めるため、教材の共同使用、共同開発を企画中
電気通信工学 教材の共同使用を図るため小グループを構成して企画中
土木工学 練習問題・試験問題のデータベース構築を企画中
経営工学 動機付け教育を目的とする共同授業を企画中
医学 臨床コミュニケーションや実技能力に関する補助教材の共同使用、共同開発を中心にテーマを検討中
歯学 コア・カリキュラム等を視野に入れながら教材の共同使用、共同開発を検討中
薬学 教材の共同使用を図るため、授業テーマの整理等、進め方を検討中
被服学 画像や図面等の素材情報を共同使用するためのポータルサイト構築を企画中
美術・デザイン学 授業でのIT活用手法を研鑚するため参加教員相互の授業紹介を実施中
 「電子著作物権利処理事業」では、インターネット上で電子著作物の利用許諾を行えるようにするために、本協会の権利処理システム(文化庁登録)を介して大学間で実施するもので、煩わしさがなく迅速に利用許諾が行える他、コンテンツの利用実績の基礎資料提示を通じて、教育業績として活用できる、大学としての知的財産をマネージメントできるなどのメリットがある。なお、大学の外部機関との権利処理は、企業に教育支援のための協力を呼び掛け、企業等がWebサイトに掲載の情報やそれ以外の情報提供について、本協会のポータルサイトを通じて個別対応いただけるよう働きかける予定としている。現在、大学間でのシステム作りを優先して準備を進めており、11月の実験を目標に、大学へ参加を公募中。
オンラインによる大学間電子著作物権利処理システムの流れ
 次いで、座長から協会の以上の取り組みについての意向を問いかけたところ、出席のほとんど全員から賛成を得た。その上で著作権問題について質疑したところ、概ね次のような意見交換があった。
1) 教科書は書いた教員に著作権があるが、電子的になると著作権の帰属が問われるのは何故か。
:電子化された教材の作成が大学の施設・設備、大学組織、予算などの支援を受けている場合は、教員本人以外の権利者を明確にしておくことが重要。権利者に許諾を得ないで、著作物をネットワークで公開すると、権利侵害が不特定に波及する虞れがある。
2) 米国大学のMITが行っている教材等の著作権放棄について、日本ではどのような対応があるか。
:14年度から文化庁の取り決めにより、著作物についての自由利用を明示するために、コンテンツに文化庁が指定する自由利用マークを張り付けることになった。
3) 教員と大学との間で権利に対する考え方が異なる場合の対応は、どのように考えるのか。また、教員が他大学に移籍した場合の権利関係はどうなるのか。
:権利の帰属について共通理解が得られるよう、本協会のモデルを参考に学内での取り扱い規程を設けることが急がれる。他大学に移籍しても、権利が教員に全て帰属しない場合は移籍前の権利関係に拘束されることになる。
:教員が学外に教材を公開する場合には、学内のしかるべき組織に届け出るとか、授業の録画を外部に送信する場合は、事前に組織にて協議を行うなどの規定が必要。
4) 教員が大学を辞めた後、大学が録画した授業を行う場合は権利侵害にならないか。
:権利の持ち分について、大学内で事前に協議しておくべき問題。教員の授業を録画する時点で教員と大学との間で、肖像権、著作権などの権利の帰属について共通理解を得ることが必要。

 次いで、今回の議論を踏まえて次のような決議を行った。
 一、我々はネットワークによる大学連携、企業等との連携を通して、社会、世界に通用する授業の実現に努力する。
 二、我々は教育の情報化を保護するため、教員、職員一体の教育支援の構築に努力する。
 三、我々は、大学として知的著作物に関する権利処理の取り扱いについて、早急に検討を始めるように努力する。
 四、我々は、教育コンテンツの充実を期すため、教育に必要な情報の提供について、企業、関係機関、専門家等の協力の実現に努める。


4.関連情報提供

「情報化投資額の実態と補助金の活用」

 14年度における加盟大学の教育研究用の情報化投資額は、メディアンで1校当たり1億5,694万円で8.3%増、管理部門は2,549万円で2.8%減。短期大学は、教育研究2,690万円で3.1%の減、管理324万円で6.1%の減となっている。学生1人当たりでは、大学で教育研究用5.1万円と昨年度とほぼ横這い、短期大学で4.7万円と若干増加となっている。

大学規模別 教育研究部門の情報投資額
(単位:万円)
  1大学当り
中央値
学生1人当り
中央値
【大学】
A(入学定員3千人以上)
165.118
7.5
B(2千人以上3千人未満)
63.911
4.6
C(2千人未満自然科学含)
35.362
7.0
D(2千人未満人文科学含)
12.215
4.1
E(自然科学単科大学)
25.074
8.3
F(社会科学単科大学)
6.081
5.0
G(人文科学単科大学)
9.280
4.0
H(医歯薬単科大学)
9.333
8.1
I(その他単科大学)
7.838
5.2
大学平均
15.694
5.1
【短期大学】
大学併設短大
4.228
4.3
短期大学法人
2.362
8.0
短大平均
2.690
4.7
 補助金の活用では、情報機器の導入は極力、借入れにする方が得策。教室のマルチメディア化工事、学内LAN工事などは一括払いによる情報通信施設、情報通信装置の補助金を活用。学内LANの補助期間9年以内に工事や機器装置の機能改善をする場合には、9年までの残余期間の補助額を国に返還して、新たに補助申請することが得策。
 ソフトウエアの購入や情報機器の購入を教員の個人研究費で処理している場合でも、大学でまとめることができれば補助の対象となるので、工夫が必要。授業用コンテンツの作成が組織的に促進されるよう、大学として教員の希望を集中的に取り扱い、補助金で作成することが得策。e−ジャーナル、データベースの購入にも、補助金が適用されるようになったので、大学間のコンソーシアに入り、スケールを活かした安価な契約ができるように工夫することが望まれる。



【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】