特集−IT活用によるファカルティディベロップメントへの取り組み(3)
本特集は、前号(Vol.12 No.2)に引き続き掲載しています。

中部大学におけるファカルティディベロップメントへのIT活用の取り組み
〜授業作りへのIT活用と支援体制〜


水島 章次(中部大学学術情報センター長)
坪井 和男(中部大学教育研究センター長)



1.はじめに

 中部大学は、昭和39年に中部工業大学として創設され、昭和59年に文系学部の設置に伴い、今日の中部大学と改称しました。創設から今年で40年となり、その間常に「“不言実行”“あてになる人間”」の育成を目指し、今日に至っています。
 設立当初は工学部のみでしたが、今日では5学部17学科を有する総合大学となっています。キャンパスは、名古屋市郊外の春日井キャンパスを中心として、社会人大学院のある名古屋市内鶴舞キャンパス、そして合宿による集中セミナー等が行われる恵那キャンパスの3キャンパスがあります。学生数は、学部学生8,152名、大学院学生232名が在籍しています。専任の職員は、教育系293名、事務系197名です。


2.ファカルティディベロップメント(FD)への取り組み

(1)大学としての方針

 本学においては、副学長を委員長とし、各学部、学科、教室などに所属する教員、教育支援に関連する事務部門の職員で構成するFD推進委員会を組織し、積極的にFD活動を推進していますが、企画、実施などの主管部署は「大学教育研究センター」です。このセンターは、2000年4月に設置されて以来、教員の教育活動を支援するために、各種講演会開催や授業評価の分析と教員へのフィードバックなど、幅広い活動を行っています。これらの活動のうち、当初から「授業作り」の一方法として、ITの活用を取り上げています。

(2)講演会等啓蒙活動

 2002年から、FD活動の主テーマの一つとして取り上げ、本学における幅広い「ITの活用」を目指した活動を進めています。この活動では、「大学改革とIT活用」、「大学教育における情報技術の有効利用」の視点から、教員に対して講演会を開催し、理解の促進に努めています。また、教育へのIT活用を精力的に進めている教員を事例とした「FDフォーラム:Webの教育への活用と教材の電子化支援」を開催してきました。
 夏季には合宿による各学科・教室、および事務のFD推進委員が参加したFD研修会を実施しています。この研修会では、プレゼンテーションソフトを活用した授業進行のためのノウハウ、そしてWebページを授業に活用したときの授業担当者としての作業負担、教育効果、そして注意点などの視点から報告と討議を行い、その結果を各学科・教室そして事務部門に持ち帰り、紹介することにしています。

(3)PC所有の義務化

 平成16年度入学生からPCの所有を義務化することになっています。これにより、その教育を充実させるために初期教育の改定、そしてその後の継続的教育科目の新設、一般科目における活用、さらに情報倫理とセキュリティ教育のあり方等が検討されています。また、学生から多様な質問や相談が寄せられることが予想できるので、専門の部署を新設して対応することにしています。
 在学生の多くはすでにPCを所有していますが、全学生が所有するまでには至っていません。しかし、授業以外の学生生活でPCを使用する環境が整えば、全学生の情報環境が整備できるものと考えています。これらを背景として、今後ますます教育活動へのIT活用の重要性が増してくるものと思われます。

(4)教室のIT化


 学生のPC所有に伴う初期教育を行うために、マルチメディア装置の整備された講義室を4室開設しました。この講義室内の学生用机には、電源とともにネットワークコンセントが用意されています。このマルチメディア装置は、黒板の左右にスクリーンが各1面あり、それぞれ別の教材を提示できます。講義室には撮影カメラもあり、教員自身の操作により、DVDに記録することができます。これを活用することにより、教員自身が自分の授業を再確認したり、なんらかの理由で欠席した学生の補習に使うことができます。教員のニーズを事前に調査し、大学で設計したため操作が簡単で、この設備を使用した教員からは大変好評を得ています。

(5)学生総合情報システム

 「Webを利用し、学生・教員との情報の双方向化を目指した情報・サービスの拡大」を目的としたシステム開発が教務部により進められています。その一環としてWebを利用したシラバスの公開、履修申告を平成16年度から実施することになっています。このシステムでは、教員に対して学生指導のための情報提供が行われ、学生と教員との間で双方向のコミュニケーションが活発化することが期待できます。また、日々発生する休講・補講・教室変更等の授業情報も場所を問わず入手できるため、日常の学生生活の中で、学生はもとより教員もIT環境になじむことが期待できます。

(6)授業内容のWeb化

 プレゼンテーションツールを使った授業へのIT活用はすでに一般的になってきています。Webは、科目の内容から適・不適がありますが、今後はさらに多くの教員が活用するようになると思われます。
 本学では、1998年夏季から共用のサーバとともに教材開発のツールを整備し、これらを活用するための講習会を開催してきました。また、教員が所有するサーバで公開しているWeb教材もポータルサイトに一元的に集約し、学生に公開しています。
 学期中多忙な教員にとって、Web教材のアップデートは、春季・夏季の休業中の作業となります。このことから、教員のITスキルの再確認や最新の開発ツールの紹介などのために、人的支援の環境整備が必要です。

(7)支援環境

 ITを教育活動に活用するためには、教員もそれなりのスキルの習得が必要です。また習得したスキルも、これらを表現するソフトウェアは多種多様なため、常に使用していなければスキルが低下するのが普通です。このような状況を解消するためには、教材を開発する教員への人的な支援が欠かせません。

1)支援システム
 これまでに開発された教材は、専用のWebサーバで学生に公開しています。また、e-Learningのためのシステムとして(株)富士通製の「Internet Navigware」を2003年夏に導入し、試用を始めています。教材開発のための講習会を開催し、教員へ紹介していく予定にしています。その間、学生や教員のITスキル向上のために、市販教材(富士通製:Word、Excel、PowerPoint)を導入し活用を始めています。この教材を使って学習を進めている人は、現在のところ教員約50名、学生約80名です。

2)支援要員と位置づけ
 人的支援は、学術情報センターの一業務として位置づけています。支援のための専用の部屋(WebFactory)と専任の技術職員1名を配置しています。この1名では不足と見えますが、実際にはスキルを習得した教員は、自立を始め自分のオフィスから作業を進めるようになってきます。
 教員がごく自然に教育活動にITを活用できるようになるためには、その教員のIT環境およびITスキルの向上と維持が欠かせません。このためには、教材の開発支援だけでなく、さらに一歩進めて教員からの一般的なITに関する相談に対して適切に助言したり、PCのトラブル等の問題解決のための支援体制が必要です。このことから、中部大学では教員への支援のあり方について検討を始めることにしています。また、教員と支援職員で構成する「e-Learning」委員会があります。
 この委員会では、各教員が自身の授業に関する Webページを作成することには、とても大きな意味があると考えています。ページを立ち上げるに際して、必ず、自身の授業を振り返り、半期の授業の流れや学生に教授すべき内容について、もう一度考え、あるいは、授業風景を動画に録画した場合には、さらに自分の授業の様子を観察することができるわけですから 、これはFD活動そのものにほかなりません。この視点から、委員会では教材のWeb化への手引きを作成しており、近々公開される運びとなっています。


3.おわりに

 以上、中部大学におけるFDへのIT活用の取り組みについて紹介しました。「教育の情報化」「大学の情報化」は、一部門で実施できるものではなく、大学全体が一元的に対応していかなくてはなりません。現状は、その一歩として関係部署が実施の支援をしているに過ぎません。中部大学では、学生の相談窓口(コンピュータコンサルテーションセンター)の新設や教員への一般的ITスキルの向上を支援する方策の検討が始められることになり、ようやくテイクオフを感じるこの頃となりました。



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