私情協ニュース3

平成15年度 大学情報化職員研修会開催される


 今年度の大学情報化職員研修会は、別途開催していた情報センター等部門研修会を吸収した形で、平成15年9月2日(火)〜4日(木)の日程で関西大学千里山キャンパスにて開催された。
 本研修会は、日常業務の情報化をはじめ意思決定支援のためのシステムの構築と活用などについて、職員一人一人の情報活用能力の向上を図り、大学改革に寄与し得ることを目的としている。また、より身近な教育支援、学生生活支援等、広範囲に亘るサービスの高度化、情報化の役割を的確に抑え、自大学では欠落している部分を認識して、具体的な方策を得られることを目指している。
 今年度は、メインテーマとして「大学評価の時代に求められる人材育成のための教育支援」を掲げ、「A)大学の事務情報統合化」、「B)教育の情報化支援」、「C)学園の戦略的情報化」、「D)インターネットと情報共有」という四つのテーマを細分化して九つのグループを置き、多様な視点から討議を行うこととした。
 グループ討議に先立ち、全体会では、まず、研修運営委員長南 雄三氏(獨協大学情報センター次長)より、「大学評価の時代に求められる人材育成のための教育支援」と題して、研修会をより有意義に進めるための各テーマの討議ポイントと方向性について、趣旨説明が行われた。近年のIT動向を踏まえ、教育支援の必要性、学生や教員側の問題点と現状認識、教育の変容、分析を基に、学生の希望に即した学習支援・学園生活支援のあり方について解説された。
 次に、斉藤 和郎氏(札幌学院大学情報処理課課長)より、「学生支援のための情報システム構築 ―電子的な学生カルテを活用した支援構想―」と題して事例発表がなされた。
 一人一人の学習履歴や職業適性等が記録された「カルテ」を電子媒体として備え、これを使って日常的に木目細かな個別指導を行うものであり、現在、整備を行っている段階である。学生が自らの興味・関心、能力・適性等に基づいて、自主的に将来の進路を見定めることを支援し、職業観や就職意識の涵養によって将来的な目標を明確化し、実現のための学習意欲の喚起と能力開発の動機付けを促すことが目的である。また、学生の個性に応じた修学指導によって幅広い分野の教育研究に触れさせ、学際的・総合的視野に立った柔軟な課題解決能力の育成をも目指している。カルテには、履修・成績情報、学生の成長履歴、職業適性・能力検査の結果等が格納され、性格の傾向や社会的強み、職業興味や進路成熟度等を引き出すことができる。学生の諸活動も学生情報データベースから逐次情報を取り入れ、学生からの相談や教職員によるアドバイスの内容は、「所見」としてカルテに記録、有効活用できる仕組みが実現されている。教職員が学生個人情報を踏まえて常時学生とコミュニケーションを図り、カルテの情報を基に履修相談や進路相談、職業観の育成などに情報システムが活用されるようになってくると、それらを支える支援部門、部署間の連携、人材の育成、教職協業体制の強化が望まれるとの説明であった。
 その後、札幌学院大学の斉藤氏、南運営委員長、本協会の井端事務局長が壇上に上がり、研修会趣旨や意義について参加者との意見交換を行った。主な質疑は、札幌学院大学の事例に照らし、セキュリティ対策、開発コスト、業務連携、学生や教員の反応、動向などについてであり、その効果と評価を含めた実情が説明され、多くの参加者から共感を得られた。
 グループ討議では、運営委員を中心に積極的な議論が行われた。詳細については次ページ以降を参照されたい。


1. 学生基本情報管理

(12大学、賛助会員5社:17名)
 本分科会では学生支援・学生サービスや教育といった人材育成をサポートするための学生情報の取り扱いについて、学生の期待や、職員による支援の基本的な考え方、学生をトータルサポートするシステムのあり方、学生基本情報のデータベース構築の手法について意見交換や討議を行った。
 学生情報の活用については、機密保持の観点から教員への開示が難しいとの意見もあったが、教員からの情報がなければ十分なデータを作れないという意見もあり、全学的に「学生カルテ」に取り組む必要性やその運用方法について議論が行われた。全体会での札幌学院大学の学生カルテの事例は大いに参考となり、分科会でも斉藤氏(札幌学院大学)に同席いただき質疑・応答を行った。
 学生基本情報のシステム化は、学生個々の資質・希望に応じたサービスや教育支援を展開していくために重要であるとの認識を得られた。今後は、学生基本情報システムの具体的な運用方法を模索する段階に入っており、運用事例の蓄積が重要になってくるであろう。


2. 履修登録と成績管理、シラバス

(44大学、賛助会員3社:58名)
 シラバスデータベースやWeb履修登録について、情報技術を活用した新たな学習支援としてその可能性を模索するとともに、先行事例の紹介を通じて問題点や課題を討議した。Web履修登録については、わかりやすく、間違いを少なくし、履修チェックや判定処理まで履修登録のプロセスを一貫してサポートするという方向性が明確になった。一方で、学外からのアクセスが増加し、ネットワーク等のインフラやセキュリティ、情報のバリアフリーという障害者への配慮等新たな課題も提起された。シラバスや授業評価、フォーラムなどの授業支援といった統合的な教育・学習支援システムへの展開と認証システムの一元化による学生ポータルを指向する傾向も見られた。同時に学生の学習を支援していくためには、部課室の壁を超えて学生情報を有化していくことが不可欠であることを認識した。
 参加者の多くが教務系の者であったこともあり、ITに信をおき過ぎることには一定の躊躇も見られたが、WebをはじめとするITを活用した支援の可能性について共通の理解が得られた。


3. キャリア支援

(18大学、賛助会員1社:22名)
 就職活動の早期化に伴い、情報技術を活用し、的確な相談・助言、効果的な進路指導を行う支援体制の整備が急務となってきている。討議では、就職活動のモチベーションをあげ、対面相談に学生を呼び戻す工夫としてITを活用する方向性が大きく論じられた。事例紹介で取り上げられた、Webによる学生情報、企業情報、求人情報、OB・OGの在社情報、就職活動体験談などの様々な情報を収集・整理、Webから利用する仕組みなどは、参加者の注目を集めた。また、学内外で実施されている就職対策講座・セミナーの類について、内容が広範囲に渡り、重複するものもあるため、内容を吟味し、学生の必要や希望に応じて、講座を統廃合や新規講座の開講を進めてはどうかとの意見もあった。このようなサービスの拡充について、インターネットを利用して積極的に学生に案内し、大学に呼び戻すよう取り組むことが重要であるとの意見があった。学生の積極性を促すための具体的な方策については、多くの発言があり、参加者の積極的な姿勢を窺うことができた。


4. 奨学金コース

(16大学、賛助会員1社:17名)
 奨学金は、経済的困窮者に対する支援のほか、競争環境にある大学の中で、優秀な学生の確保や人材の育成として重要な位置を占める。同時に不安定な経済情勢の中、財源の確保や有効利用は切実な課題となっている。本分科会では、今後奨学金はどうあるべきかを考えるとともに、多様な視点に基づく奨学金制度、人材育成のための経済支援の仕組みを構築するための情報システムの見直し・構築といった点についても意見交換を行った。その結果、独自の奨学金システムを持っている大学でも、学内情報の共有化と連携、学生情報のトータルな把握となるとまだ満足できる状態には程遠いということがわかった。学園全体の情報化の方向・あり方と密接に関連しており、今後とも学内での幅広く活発な議論が必要であることを認識した。奨学金管理業務や奨学金システムは、特に個人情報やプライバシーと密接に関連しており、担当者のモラルやシステムのセキュリティ面も十分配慮が必要であるとの指摘があった。
 メインテーマである人材確保・育成についても、どういう人材をイメージし、どのように奨学金を使うかについては、確固とした方向が見えず、今後の大きな課題となった。


5. 管財・施設管理コース

(12大学、賛助会員1社:13名)
 メインテーマは「教育を支援する管財・施設管理とは」であった。教育に使用する設備・施設の維持管理は、教員個々の授業の進め方に照らして適切な環境を提供するものでなければならない、という視点に立ち、これまでの施設・設備業務から脱却して、教育支援としての管財・施設管理の新しい役割について討議を行った。何らかのデーターベースを作ると、さらに合理的するための構築手法ばかりが話題の中心になるが、重要なのは、そこに格納する資源の収集と引き出された資源を活用する能力である。さらに、スムーズに適用していくための組織的に働きかける能力も必要となる。つまり、教職員や学生のニーズを引き出し、的確に判断して満足度を向上させることが最優先されなければならい。
 管財・施設管理から教育支援、人材の育成というテーマへのアプローチは、かけ離れているようにも思われるが、討議を通じて、大学の目的を常に掘り下げて考えるという姿勢を継続的に持ち続けることが重要であるとの認識を得た。


6. 教育・研究支援コース

(39大学、2賛助会員:46名)
 本研修会ではここ数年、ITを活用した教育支援のあり方や課題について討議を重ねてきた。支援について、既に教育支援室というかたちで組織的にも教育支援への取り組みを始めている大学がある一方で、支援の必要性は理解しつつも、まだ展望が描けない大学があるというのが現状である。
 教育で利用するIT関連の機器が整備・充実される中で、これからは教育支援という「サービス」の中身と質が問われるようになってくる。そこで、これからの授業支援に求められるサービスの内容、スキル、要員体制、学内組織間の連携や運営など、学生の自立学習を実現するための支援や効果的な支援の方策などについて討議を行った。
 事例紹介として、獨協大学の清水絹代氏より利用する教員の立場から紹介いただき、質疑等も含めて、活発な意見交換が行われた。参加者はその中で教育支援を行うための人、組織が、セクショナリズムにとらわれず、大きな視野にたって、ITを活用した教育支援について役割を担う必要性を認識した。


7. 学園情報基盤

(28大学、賛助会員3社:32名)
 多種多様なサービスを実現するためにセンター部門の役割と業務はここ数年で大きく変化し、センター部門はこれまで以上に大学の教育・研究に対する貢献が期待されている。これからのセンター部門の組織・運営および情報基盤整備といった側面から検討を加え、今後の方向性を見出すことをねらいとした。本分科会は「組織・運用」グループと「情報基盤整備」グループの二つに分け、さらに討議を進めやすくするため、全部で五つの小グループに分割して討議を進めた。討議では、情報基盤を用いた教育・研究への貢献について提言・支援・策定を行っていくことが、今後のセンター部門の役割であることを共通課題とし、グループ討議を通じて確認された。各大学の事情によって、解決へのアプローチは一様とはなり得ないが、有効な手段とされているアウトソーシングを行う際の注意点や適用範囲について有用な提言がなされた。また、今後、全体会で提示されたような全学的な統合による支援システム構築では、システム間のゆるい結びつきによる弾力的な運用方法が有効であることが論じられた。一方、セキュリティーポリシー策定、ユーザのライセンス管理等については未発達な部分も多く、今後解決すべき課題として認識された。


8. ITを利用した協業体制(文書管理を含む)

(24大学、賛助会員1社:26名)
 学生に対する教育支援や様々な指導を行う上で、教職員が建学の精神・教学理念や学生情報などを共有化することは、多様化した学生ニーズへの対応や学生サービス向上につながる有効な手段である。また、大学組織の中で事務情報を共有化することは、課を超えた協業体制や業務改善といった面で有効であり、事務経費の節約や合理化の面から展開すべき方策の一つと言える。そのため、ITを利用したコミュニケーションシステムの活用は、必要不可欠なものとなりつつある。しかし、こうしたシステムを導入しても、展開する規模や運用方法によって、効果の成否が分かれているのも事実である。そこで、本分科会ではITを活用したコミュニケーションシステムの導入時に留意しなくてはならない問題点について、様々な角度から討議を行った。各問題点に対する指針を作成するまでには至らなかったが、大学の全体を対象としたコミュニケーションシステムから、一部を対象としたグループウェア、文書管理までの幅広い討議を行うことができた。


9. インターネットを利用した戦略的学園広報

(26大学、1短大:27名)
 本分科会では、学外向けは以外に広義の教育支援も含めた学内向けのホームページの実現に向け、留意すべき問題点を整理し討議を通じて、戦略的なホームページの姿を模索した。
 専修大学、東洋大学、明治大学、武庫川女子大学からのミニ事例発表と、委員によるマーケティング戦略を視野においた問題提起を行い、質疑・討論の後、三つの小グループに分かれて討議を行った。テーマは各グループ同一の「大学における広報の役割」、「インターネット広報の可能性と限界」、「ホームページ運営管理組織のあるべき姿」であった。討議を通じて、学生や社会からどのように自学が認識・理解され、期待されているかを正しく捉えることがホームページの広報にとって重要であるとの共通認識が得られた。情報技術を活用して、マーケティングや評価など外側からの視点を持つことにより、自学の方向性や存在価値を見出すことが可能となる。戦略的広報の役割を担う者は、その動きの中で単にディレクターとしてのみではなく、プロデューサーであろうとする意識が求められており、さらに情報発信を続けてゆくための運用体制や組織、活力の維持等、各大学教職員が取り組むべき課題は大きいとの結論を得た。
(文責:研修運営委員会)


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