特集 IT活用によるファカルティディベロップメントへの取り組み(4)

創価大学のファカルティディベロップメント活動とIT活用


山中 馨(創価大学経営学部長)



1.はじめに

 創価大学は1971年に創立され、建学の理念として「人間教育の最高学府たれ」、「新しき大文化建設の揺籃たれ」、「人類の平和を守るフォートレス(要塞)たれ」の3点を掲げています。現在は経済学部、法学部、文学部、経営学部、教育学部、工学部の6学部13学科と4研究科8専攻から成り、学生数は大学院生を含めて8,241名、教員数は296名です。本年4月からはこれに法科大学院が加わります。
 本学は開学以来「学生のための大学」、「教育重視」という大学の姿勢を堅持してきました。「学生が主役の大学」であることを教育ビジョンとして表明しています。
 本学のLAN設備や教室・研究室で使用されるハードおよびソフトは「総合情報センター」が管理運営にあたっています。このセンターは教職員による運営委員会の下に教育学習支援、遠隔教育、情報倫理管理などの5専門委員会が組織されています。センターをサポートする事務組織は事務開発担当5名、運用担当3名など計10名で構成されています。学内には1Gbpsの基幹LANが構築され学外とは10Mbps(100Mbpsに増速予定)の専用回線で結ばれています。学生の利用施設は計49室に1,068台のコンピュータが配置されています。また、近年無線LANも充実され、80箇所を超える教室やカフェテリアから自由にアクセスすることができます。さらに学内にある学生寮には光ケーブルが敷設され、学外の寮に対してはADSL回線を用いてVPN網が構築されています。


2.本学のファカルティディベロップメントの考え方

 本学のファカルティディベロップメント活動は「平成15年度特色ある大学教育支援プログラム」に選定されました。昨今の学生とそれを取り巻く学習環境の大きな変化は教育の本質に関して多くの問題を提起しています。そのような中で、本学は「どうしたら学生諸君が自由にのびのびと学問に挑戦できるか」との課題に対する答えとしてFDに早期に取り組むこととなりました。教員の教育能力の向上などの問題は、個々の教員の努力に任せるのみでなく、大学全体の問題であると捉え、FDを組織的に行うことが肝要であるとの認識です。これにより2000年に「教育・学習活動支援センター(CETL)」を開設しました。CETLは学長直属の機関として学部選出委員等をメンバーとする運営委員会と教員(兼任)10名のセンター員、専任事務職員1名で構成されています。このセンターは「学生の学習活動」と「教員の教育活動」の相互関連を重視しているところに特徴があります。学生のニーズを把握・分析し、それを速やかに教育制度改革や教授法の改善に結び付けていく活動を行っています。


3.ファカルティディベロップメントの主な活動

 授業方法の改善としてCETLでは新しい教育技法に関する講習会や大学教育問題に関する講演会を開催し、3年間で計14回、延べ400名の教員が参加しました。さらに、授業見学会を昨年までに計10回開き、見学の後に「教育サロン」を設けてビデオ収録した授業についての意見交換を行いました。現在ではこれが拡大され、複数の学部で常時自由に他教員の授業見学ができるような措置を講じています。また、教育方法改善に取り組む教員のサポートのために、教員の個別相談に対応できる体制作りが進められています。
 学生に対するリメディアル教育としては「数学講座」、「レポートの書き方講座」などを開講し、3年間で3,000名を超える学生が参加しています。学習相談も行われており、相談件数は年々増加し、2003年度は前期のみで113件に上りました。相談内容は「特定教科の学習方法について」、「ノートの取り方について」、「留学・進学について」など様々です。CETLではこれらの相談内容を分析して学生の学習に関するニーズの把握に努めています。また、学習相談の一環として、本年よりWeb上でのレポートの添削・指導を開始いたします。FDをより効果的にするためにはITの積極的活用が欠かせません。次に本学でのIT活用による主なFD活動を紹介します。


4.教員のためのIT活用による教育活動支援

 ITを活用して教員がFD活動に携わるには、まず教員のITスキルの底上げ、デジタルデバイドの解消が課題です。本学では全教員に対して会議通知その他の事務連絡を電子メールに一本化することになりました。さらに、FD支援のための統合ソフトウェアを導入し、このシステムにより講義要綱のWeb化を図りました。これは第一義的には学生に対して、より効果的な最新の講義要綱を提示することですが、教員のITスキルアップにも繋がります。
 総合情報センターでは、教員向けに教育活動上の種々の利便を図っています。センターのホームページからは教材のアップロード・ダウンロードや電子レポート提出が可能です。また、著作権問題や大学教育の情報化問題など情報に関する講演会を開催しています。さらに教員用のヘルプデスクを設け、常時対応可能な体制をとっています。これには本学システムを担当したSIより常駐のSE2名があたっています。多いときで一日20件を超える問い合わせがあります。
 教務課は教室のマルチメディア化を進めています。これはここ数年映像・音響設備を求める教員が増加しているためで、教材もMDやDVDへと高度化してきています。マルチメディアに非対応の教室の稼働率がマルチメディア化されると倍に跳ね上がります。このように教室のインフラ整備も重要な課題です。
 遠隔教育としては、文部科学省のエルネットにより通信教育部が授業を行う一方、多摩地域の大学が集まって映像配信による単位互換授業が行われ、本学もこれに参加しています。独自な取り組みとしてはCETLの教員が在外研究の際に、創価大学とハーバード大学の間で毎週1回遠隔授業を行いました。e-Learningによる教育支援ではこの他に、授業見学会と平行して、優れた授業をコンテンツ化して配信し、教員の授業技法のスキルアップを図ることが提案されています。


5.学生のためのIT活用による学習活動支援

 本学では学生の履修登録を2003年度よりWebによるシステムに切り替えました。従来の紙ベースの登録システムでは、学生はセメスター初めの短期間に自分の履修科目を決めなければならないため、教員が提供する教育内容と学生が望む講義についてミスマッチが起きていました。これをWeb履修登録にすることにより、速やかな登録変更ができるようになりました。履修登録のWeb化はこのミスマッチの解消に相当な程度寄与し、学生の正しい履修意思を確保するという大きなメリットを生みました。
 また、本学では履修単位の制限を2001年度に導入しましたが、これにより学生の日中の空コマ数が増え、図書館の入館者数が顕著に増加しています。学生の自学自習の環境整備がハード・ソフト両面から求められています。図書館のデータベース検索はWeb上で可能で、文献系、辞典系、法律系、新聞系などが揃っています。オンラインジャーナルは約4,600タイトルが全文までアクセス可能です。蔵書検索では国会図書館をはじめ国内の大学図書館、電子ジャーナルなども検索対象であり、携帯電話からもアクセスできます。他大学への複写依頼等の諸手続きもオンラインで可能になっています。このように豊富な電子媒体ですが、学生が自由に使いこなせるかどうかが課題です。このため本年からは全学部の新入生を対象に図書館講習会が予定されています。
 総合情報センターでは学生からのFAQを蓄積し、マニュアル化を図っています。また、学生向けサービスとして個人ホームページの作成支援やメーリングリストの作成・管理ツールがWeb上で利用可能です。個人ホームページは約1,500人、メーリングリストは500近い利用があります。
 今まで学生への諸情報の周知は、どこの大学でも主に掲示板によっていたと思いますが、本学では休講情報、履修・成績情報、就職情報の通知はWeb上でも閲覧できます。携帯電話からもアクセス可能です。さらに、これらの情報を学生へ個別に通知することが検討されています。これは時間的なロスの削減と同時に、誰もが見られる掲示板ではなくプライバシー保護の観点からも必要な措置と考えられます。

 以上、本学の教育・学習支援活動の主なものをまとめてみました。IT活用によるFD活動とは、大学内に散在する知的資産を統合する体制作りであり、教員一人一人を巻き込んだ連携プレーが要です。組織的な枠、大学の枠、国の枠を越えていく発想と実行力が求められる、大学の総合力を試される課題であることを痛感いたします。



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