特集 教育ミッションとIT化

 大学の学部学科の新設や改組などが容易になったことに伴い、各大学が有する教育理念や建学の理念をどのように教育で実現しようとしているか明らかにすることが求められています。また、大学での学習プロセスでは、「実感を通じての理解」という初期プロセスが重要です。しかし、近年の大学教育、とりわけITを活用した教育においては、単なる「内容の伝達」という形式的なプロセスのみが達成され、もっとも基本となる「板書を写す」などで達成される「実感」プロセスをどのように実現すべきかさえ見落とされる場合があります。
 このような点を踏まえ、各大学の持つ教育目的を実現するために、学生のQC(Quality Control:品質管理)の観点からどのように教育へITを活用していくべきか、そのヒントとして本特集を企画しました。



教育目標を反映させたカリキュラム作りと教育の実践



本田 修也(中部学院大学教務部長)



1.建学の精神・理念、教育目標

 本学は、建学の理念をキリスト教主義に置いています。本学の建学の精神「神を畏れることは、知識のはじめである」(旧約聖書「箴言」第1章第7節)は、「神を畏れる」とは愛と義と公平を求める神の意志を尊重することであり、そこよりはじまる「知識」は、技術的知性だけではなく、それを真に生かす叡智をさします。またそれは、隣人愛に生きることを促し、正義、自由、平和を祈り求める「知識」のことです。
 本学は、キリスト教を教育の基盤として広く知識を授けるとともに、深く専門の学術・技能を教授研究し、もって真理と正義を愛し、世界平和と人類の福祉に貢献する有為な人材を養成することを教育の目標としています。


2.中部学院大学の概要

 本学は、1967年に開学した岐阜済美学院短期大学(1970年に中部女子短期大学、1999年に中部学院大学短期大学部に改称)を母体として、1997年に岐阜県で最初の社会福祉系4年制大学として中部学院大学人間福祉学部人間福祉学科を開学し、2001年に人間福祉学部健康福祉学科、大学院人間福祉学研究科、2003年に大学院人間福祉学研究科博士課程(後期)と人間福祉学部人間福祉学科通信教育課程、2004年より音楽療法コース(3年次編入)を設置しました。
 本学は人間福祉学部人間福祉学科・健康福祉学科・通信教育部、短期大学部は幼児教育学科・社会福祉学科・経営学科・専攻科福祉専攻で構成し、教員は専任89名、非常勤204名、職員66名、学生は1,973名です。


3.カリキュラム

 カリキュラムについては、以下の考え方に基づいて編成されています。
1) 学部の目標を「人間理解」に置き、人間存在そのものに対するより深い洞察と多面的理解に結びつく総合的な研究と教育を可能とする。
2) 社会福祉の大きな転換期にあって、従来の社会福祉の枠を超えた新しい福祉制度の構築と援助技術の開発を図り、時代の求める人材の養成と供給への期待に応える。
3) 時代的・社会的養成に応えうる人材養成を可能にするための教育課程を開拓する。
4) 内外の専門教育機関、福祉サービス機関、行政との交流により新しい時代にふさわしい開かれた大学の実現を図る。  以上の考え方をもとに、カリキュラムの編成にあたっては次のような特色を持たせています(図1)。
図1 人間福祉学部構成図
ア) 豊かな人間性を育み、人と社会の多面的な理解を目的とする科目を「人間理解基礎科目」、「自己実現・自己表現関連科目」及び「専門基礎科学科目」等の科目群に配置し、また、専門的知識・技術の習得と応用力を身につけることを目的とする科目を「専門基幹科目」、「専門科目」及び「実践・統合科目」等の科目群に配置しました。
イ) 入学時から卒業時までの4年間を通して、 主体性と判断力を養い基本的な学習能力を身につける演習科目と、理論学習に基づく実践体験とフィードバックによる学習を可能にする配属実習と実習指導の科目をそれぞれの段階に対応させて配置しました。
ウ) 今後の福祉領域の拡大を視野に入れ「人間福祉」の実現を目指して人間福祉学科と健康福祉学科に各3コースを設けました。
<人間福祉学科>
対人援助コース:ヒューマン・サービスの視点に立った福祉実践の研究と人材養成
福祉政策コース:総合政策の視点に立った生活支援の研究と人材養成
福祉教育コース:住民参加の視点に立った福祉教育の研究と人材養成

<健康福祉学科>
健康心理コース:健康心理学的知見と精神保健福祉実習のあり方に関する研究と人材養成
介護支援コース:生活の質を高めるための介護支援の開発と介護予防に関する研究と人材養成
福祉健康マネジメントコース:健康福祉情報のシステム化と福祉経営に関する研究と人材養成
エ) 福祉先進国における専門職養成校や放送大学との単位互換制度の導入、公開講座の開催、福祉現場職員との交流や学習・情報交換の場の設定により、教育研究の促進を図っています。


4.ITを使った教育

 本学は、福祉系単科大学であり、ITを活用して、最新の福祉情報の流通拠点になること、学生の福祉情報に関する処理・加工能力を養成することを目指しています。
 1998年度に、旧・通商産業省の「地域総合情報化支援システム整備事業、家族及び地域参加型在宅高齢者統合ケアマネジメントシステム」(学内呼称:あんしん・なっとくプロジェクト)が採択後も、産官学の協同事業を推進し、岐阜県と「ITふるさと福祉村」プロジェクトを行い、電子コミュニティづくりの支援、ITコンテンツ・サービスの活用支援を、IT立県・福祉先進県を標榜する岐阜県及び地域産業界と連携して、ITを駆使した21世紀の「あるべき福祉社会」を模索しています。
 また、他大学との連携も積極的に行っておりコンソーシアムへの参加と、学内におけるデジタルコンテンツ作成例について次に述べます。

(1)他大学との連携

 岐阜県では、各大学間や県内主要施設が、光ファイバー網で結ばれた「岐阜情報スーパーハイウェイ」(2〜4Gbps)の整備により、国内外の大学等との連携・提携が本格的に行われようとしています。本学は、2003年よりスーパーハイウェイに100Mbpsで接続をしており、大学間等のネットワークを介した教育・学習環境が整備されました。
 「国際ネットワーク大学コンソーシアム」は、岐阜県と県内18大学等からなる大学連合です。
 コンソーシアムは、参加大学等の学生が共通の単位が取得できる「共同授業」を、通常の対面授業、IP接続による遠隔ライブ授業に加え、インターネットオンデマンド授業(e-Learning)で提供しています。この共同授業は社会人にも開放し、大学の単位が取得できるほか、最先端のテーマを取り上げていることや国内外の講師によるリレー方式により、生涯学習の一助に なっています。本学は開講科目3科目のうち「人間福祉学」を15名の講師によるオムニバス方式で担当しています。
 また、コンソーシアム参加大学間の「包括的単位互換制度」により、参加大学の学生であれば、各大学が開講している授業科目を履修して所属大学の単位として認定されます。2004年度の公開科目は69科目あり、そのうち11科目はインターネットで受講可能なe-Learning授業科目です。本学は「人間福祉学」「死生学」「福祉臨床心理学」を提供するとともに、講義コンテンツをデジタル化しています(図2)。
 e-Learning授業に対応した授業技術の向上が、今後の課題となっています。
図2 e-Learning授業コンテンツ例
(2)国家試験対策講座

 本学は、社会福祉士、精神保健福祉士の国家試験を目指す学生に対し、対策講座を開講しています。資格取得は福祉に携わろうとする学生にとっては出発点であり、到達点ではありませんが、人間理解教育と共に資格取得を目指す学生の全員合格を目標に支援を行っています。開講講座は、e-Learningシステムによりデジタルコンテンツ化をしており、学生の事後学習のため、該当時間に必修科目のある編入生のために提供しています。また、設置後2年目になる通信教育学部生の学習支援のためにも提供する予定です。



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