英語教育における情報技術の活用

中部大学の英語教育におけるIT活用:最近の試み


淡路 佳昌(中部大学国際関係学部助教授)



1.はじめに

 中部大学語学センターと外国語教室はインターネットが脚光を浴びはじめた90年代初頭からいち早くCALLを導入し、英語教育界でもコンピュータやインターネットを利用した実践の草分け的存在であります。ITを活用した授業の中核的存在である「情報英語」という授業の実践では、1999年に大学英語教育学会からJACET賞実践賞を受賞しました。
 英語の授業だけでなく、その他の科目や教員間の連絡あるいはファカルティ・ディベロップメントなどにも積極的にオンラインでのコラボレーションの工夫が取り入れられ、早い段階からメールやメーリングリスト、オンライン掲示板、自作CGIなどを活用してきました。
 この背景には、語学センターに所属する教員や教育技術員による献身的なサポートがありました。常に先進的な工夫にチャレンジし、授業での実践に結びつけようとする教員たちと、それを技術的な面で日夜献身的にサポートしてくれる技術スタッフのチームワークは、他ではあまり類を見ない恵まれた環境であると言えます。
 90年初頭から2000年までの実践の様子は尾関教授・小栗助教授[1]に詳しくまとめられております。本稿では、それ以後の比較的最近の実践と試みについて紹介したいと思います。


2.Webコラボレーションの試み:WikiWikiWeb

 WikiWikiWeb(http://c2.com/cgi/wiki?Wiki WikiWeb)とは、簡単に言えば「誰もが好きな場所を好きなように編集できるようになっているWebサイト」です。WikiWikiとはハワイ語でQuick!という意味で、いとも簡単にWebページを作ることができることから命名されました。Wikiは95年頃に誕生し、2000年頃までにはかなり成熟したものになっていました。現在ではいろいろなプロジェクトに利用されており、大規模な例としてはWikiを利用してオンライン上の利用者が共同で作り上げた百科事典WikiPedia(http://wikipedia.org/)があります。
 WikiWebの特性にいち早く着目し、オンラインでの添削指導に応用した実践を行いました[2]。このサイトでは、受講学生はそれぞれにWiki空間内に自分たちの作文を公開し、教師は学生たちが作成したページを訪問して添削したりコメントを残していきました。学生たちはそれを見てさらに書き直しをするというプロセスが何度も続けられました。
 これらすべての編集作業は、WikiWebのシステムが自動的にその履歴を管理してくれており、いつ誰がどこを編集したかを示すログとともに、いつでも過去の状態を参照することができます。リンクを張ったり画像をアップロードして表示することも可能であるので、インターネット上で見つけた記事についての要約を書いてリンクとともにレポートしたり、絵日記のような活動を簡単に行うことができます。その他、WikiWebにはサイト内をキーワード検索したり、どのページが最近更新されているかを一覧する機能などが標準で用意されているため、単に学生の作業報告場所というだけではなく、オンラインポートフォリオのような役目を果たすことができました。
 このWikiWebという概念に慣れるまでにはやや時間がかかったため、学生相互のpeer reviewまでは至りませんでした。今後はpeerだけでなく、外部からのaudienceも参加して協働作文していく実践も行いたいと思います。
 複数の教師がオンラインで共同して授業を進める試みも行いました。2003年度に尾関修治教授と淡路で担当した「コンピュータスキル」という授業では、すべての教材をWikiWeb環境で提供し、共同して教材を執筆しました(http://compskill.intl.chubu.ac.jp/)。残念ながらこの授業は教務上の都合で共同担当するのはこの年度のみとなってしまい、継続して実践することはできませんでしたが、WikiWebが教材の共同作成だけでなく、授業ポータルとしての機能も十分果たせることがわかりました。


3.CMSの活用:XOOPS

 これまでの実践で掲示板やその他のCGIを積極的に活用してくる中で、それぞれの仕組みを統合するような認証システムや、コンテンツの流用をいかに行うかが一つの悩みの種でした。そのような問題を解決するため、Content Management System(CMS)に着目しました。
 現在では様々なCMSがGPLなど無料で提供されています。汎用CMSではXOOPS(http://www.xoops.org/)と呼ばれるものが高く評価されており、オンラインでコミュニティーを構築するための機能が充実しています。教育分野のCMSは授業運営に機能が特化され、Course Management Systemとして発展しつつあります。中でも高機能なのはMoodle(http://moodle.org/)で、市販のWebCTやBlackboard.comにも引けを取らない機能を持っています。
 2001年から2年間にわたり、情報英語という授業の中で、schMOOze University (http://schmooze.hunter.cuny.edu/)というテキストベースの仮想学習空間を利用したプロジェクト学習型授業を展開し、BBSやニュース掲示板などのCGIや電子メールやメーリングリストなどの機能を組み合わせて授業環境を構築してきました。2003年度より、その授業を汎用CMSであるXOOPSを用いて再構築しました。XOOPSを選択した理由としては、当時はまだMoodleの日本語化が万全ではなかったことや、この授業では問題に解答するという活動より、掲示板でのやりとりによる学習が主体であったことが上げられます。
 以前の授業コンテンツをXOOPS環境に移行したことにより、それまで必要に応じて個別に認証をかけていたものが、すべてXOOPS標準のユーザ認証でまかなえるようになりました。掲示板もプライベートと公開フォーラムを区別して設置でき、学生の課題報告はプライベートフォーラムに、全体の討論などは公開掲示板にという棲み分けが可能になりました。
 授業だけでなく、語学センターで行っている小学生の親子対象の「きっずせみなあ」や、「高校生セミナー」などでもCMSを活用しています。公開講座のように一時的な催し物の場合、一時的にアカウントを発行して作業をするのが現実的ではないので、XOOPSのようにその場で管理者の手を煩わすことなくユーザ登録が完了し、認証で制限をかけたエリアを作成できるのは大きな強みでした。また、イベント終了後も家庭からアクセスし、交流を継続できる利点もあります。現在は、語学センターのホームページもCMSを使って再構築する準備を進めています。


4.今後の課題

 コンテンツを含めてすべてパッケージや業者任せというのは論外ですが、コンピュータやネットワーク上の仕掛けが便利になって教師の負担が軽減した分、コンテンツの充実に教師の力が注がれるべきです。さらに、ネットワーク上の協働作業によって授業形態にも変化が生じるため、教師に求められる学生との関わり方にも変化が生じ、これまで以上に時間が割かれるという皮肉な結果になる場合もあります。IT化した授業における教師の役割を今一度見直してみる必要がありそうです。
 学習環境の整備でも変化が予想されます。これまでは語学センターなどが端末室を用意して、学生はそこからネットワークにアクセスして学習するという形態が中心でした。今後は学内のあちこちに設置された端末や家庭のコンピュータからでも学習が成立するようになりつつありますし、ラップトップを持ち込んで接続するケースも増えてくるでしょう。それに対応して、近い将来予想される学習環境のユビキタス化にどのように対応していくか検討せねばならないでしょう。

参考文献および関連URL
[1] 尾関修治・小栗成子:インターネット利用語学教育に必要なものと得られるもの. 大学英語教育学会全国大会, 2000. http://www.intl.chubu.ac.jp/~ozeki/academic/jacet2000/index.html
[2] 淡路佳昌:Write Ora Ora: A collaborative space for writing using Wiki Wiki Web system. 中部大学国際関係学部紀要27号, pp.79-89, 2001.


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