英語教育における情報技術の活用

ITを活用した英語教育の学習方略
〜帝京科学大学の事例〜


山本 涼一(帝京科学大学理工学部教授)



1.はじめに

 2002年度、帝京科学大学では、外国語科目の名称を廃止してコミュニケーション科目としました。また、CALL教室を専門科目に開放してMulti-media教室として専門課程と交流しています。外国語教育は、学生のコミュニケーションに関わる様々な能力養成の一環であるという認識と、専門課程と教養課程の統合による学生への総合的教育の必要性を感じるからです。同年、英語が苦手だが英語の必要性を感じている理工系学生を対象に、コミュニケーションやプロダクトを重視しながらITを有効活用する四つの新たな英語授業をスタートさせました。2年次以降の選択科目で、半期1単位のコースです。


2.ITを活用した授業実践

(1)電子メールと実質的な相手を想定した授業:English for Emails

【授業の設計】
1) 常に相手を意識し、相手の反応を期待しながら、相手文を引用するインタラクティブな文体を構成するE-mailの言語形式は非同期・対人コミュニケーションの交信ツ―ルとして活用できます。
2) 言語学習は相手との実質的な関係によるコミュニケーションが必要です。学習方略は、タスク主体の授業形態、ア)学習者の相手を設定し、イ)自分に直接関係する文脈で、ウ)コミュニケーションのための言語使用を実践し、エ)自分の言語能力の成果を判断でき、オ)事後学習も継続可能な学習、を実践しています。

【授業の内容】
1) E-mailの手順と方法、書式・文体・論理に ついて、課題英文と補助資料、辞書エンジンを参考に英文作成と応答技術能力を学びます。
2) 学生は授業直前に課題添付の英文E-mailを受信します。授業は受信した英文と補助資料の説明後、各自ひたすらパソコンに向かって2日後の締切日に向けて返信英文を作成します。教師は、机間巡視とLANの画面共有機能で学習状況をチェック後、個々の学生の対面添削指導を行います。
3) 学生は、架空人物から届く課題メール10通を受信します。英文はパラグラフ単位で応答できるように工夫され、初期段階では、送信英文の一部変更のみで返信英文の作成が可能(パクリと呼んでいる)な文例となっており、後半では学生自身の表現を作文しなければならないスパイラルな発展形式となっています。

【授業の評価】
1) 実質的な相手(authentic audience)との身近な話題のE-mailには、学生自身の身近な内容を含む英文が多く記述されるようになります。
2) パクリからスパイラルに発展する課題のステップで、真似る・推敲する・書く英文作成の自然なプロセスが習得されています。
3) 返信英文の分量は課題英文とほぼ同量を書き、自宅学習も含めて積極的に返信してきます。


(2)自律的学習とプロダクトの成果を重視した授業:English for Publishing

【授業の設計】
1) 教師は学習者の自律的学習を支援するため指針・仲裁・足場作りを行うfacilitatorとしての役割を果たすことが大切です。学生は自分のプロダクトを作成する自立学習を行います。
2) PowerPointに組み込まれた論理性と自由創作機能などのテクノロジーは、学習者とのインタラクションによって認知的活動を活発化し、自己のメタ認知能力を高めることが可能な学習プラットフォームです。

【授業の内容】
1) 企画力・構成力と、言語・文体・様式・デザインによるパブリッシングを通じて、自分の社会・文化・思考を的確に表現する実践的自己表現能力や英語表現力を身につけます。
2) 学生は、1週目は情報収集、2週目は作品構成と和文英文表現作成、3週目はPowerPointへ移植し1課題3週間のサイクルで作品を完成させます。教師は個別作品を個人面談で指導添削します。
3) 学園生活・春夏秋冬・公共マナー・食文化・郷土自慢・日本文化・日本のことわざなど発信型の話題を課題としました。課題制作の補助教材やPowerPointテンプレートは教師がディジタルファイルで準備したものです。

【授業の評価】
1) PowerPointで作成される作品は、学生の企画力・構成力が生かされるため、その手段としての英語は簡潔でまとまりのある内容となります。
2) 提出作品は、学生の目に見えるプロダクトなので、自己評価・他人評価を含めて達成感と満足感が得られたようです。
3) 主として作品の完成度と企画・構成力と効果的な英語表現能力が総合評価されることが学習意欲の動機付けになっています。


(3)発信能力・自己表現能力を重視した授業:English for Presentation

【授業の設計】
1) Authenticity(真生性)は、学習者の意欲向上や動機付けの効果的な授業を実践するのに有効です。また、audienceは、意図の伝達を主たる目的とする言語学習においての基本構成要素です。
2) プレゼンテーション能力は、個別の言語スキルズ能力を統合した知的スキルズの活用により、現実のコミュニケーションを図る効果的な授業が可能です(Write/Speak =>Presentation skills)。

【授業の内容】
1) 国際共通言語としての英語運用能力と、自己の文化・社会・思想を伝達する発信・表現能力を身につけるため、スピーチ・コミュニケーションとしてのプレゼンテーションの手法と、ロジカルな思考方法・英語表現法を学びます。
2) 半期を3分割(4コマ)、自己表現と論理構成法(マインドマッピング手法とアウトライニング)、商品企画と論理構成法(KJ法とアウトライニング)、意見論述と論理構成法(ディベーティング手法とアウトライニング)を演習し、その後、英和文作成、PowerPoint作成と発表会を行います。
3) 課題の導入や発表会は、企業から人材を招待して実施します。また、発表会での評価は企業人と教師、及び学生からの評価も採点対象にします。

【授業の評価】
1) 自己表現・商品企画・意見陳述などに対応した論理構成法を導入することによって、借り物ではない自分自身の内容を英文とともに考えるようになりました。
2) 人前で口頭発表することにより、自己表現と準備、口頭発表とPowerPoint作りのバランスと発信の大切さを理解するようになりました。
3) 伝達可能な英文の構成と英文の作成を心がけるようになりました。


(4)多文化・多言語に対応した異文化授業:English for Communications

【授業の設計】
1) 異文化間コミュニケーションは、文化の差異と平等性を理解して、文化の優劣や格差に対する文化的偏狭さを克服するとともに、母語と外国語の比較で個別言語のメタ言語能力を身に付けます。
2) 異文化背景を持つ外国人留学生たちとの直接体験の導入は、ものの見方を常に再検討・再構築しながら、到達すべき能力と内化すべき異文化理解を目標に積極的な発信と受信する行為が可能となります。

【授業の内容】
1) 国内で日本語の学ぶ外国人留学生と異文化交流を通じて英語と日本語によるコミュニケーションの方法と異文化理解を体験します。
2) 日本人教師との連携で電子掲示板を活用、グループ間でのワークショップ的な協働的活動を通じて議論します。同時に英語・日本語の演習と文章構成法を学びます。
3) 衣食住など身近で根深い課題やジェンダーなどを統一課題として取り上げ、課題ごとの授業連携とグループワークを活用して日英文・静止画・ビデオリップを投稿します。

【授業の評価】
1) 様々な国から来た留学生との交流で、多文化・多言語社会での異文化理解とコミュニケーションの方法が身に付きました。
2) 外国語学習の本質がコミュニケーションであることに気づき、言語使用の重要性と外国語学習の方法を理解しました。
3) 第二言語習得を共通目的にする学生同士の交流で、母語の重要性・英語と日本語の違いなどを理解するようになりました。


3.今後の課題

 授業事例は、学期ごと事前事後アンケート、学習履歴、形成的評価などによる授業評価と授業改善を検証しています。その過程でテクノロジーの活用と外国語学習に欠かせない重要な学習環境の設定要素(authentic audience, inter-cultural settings)、および学習方略(autonomous learning, collaborative learning)が浮き彫りにされつつあります。本学ではこれらを外国語授業の基本パラダイムと捉え、授業設計と改善に生かしていくべきであると考えています。


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