教育ミッションとIT化(2)

アカデミックインターンシップの全学的展開〜中央大学〜

小口 好昭(中央大学経済学部長、インターンシップ担当学部長)



1.はじめに

 中央大学は、1885年7月の建学以来、合理的実証精神に基づく実学重視の学風と、質実剛健と家族的情味(カンパニー精神)という校風の下で、法曹界をはじめとする各界に多くの優れた人材を輩出することで、時代の要請に応えてきました。
 他方、社会が急激な変化を繰り返す時代には、精選した素材を用いた基礎教育の徹底が重要な課題になります。そのため、カリキュラム改革を継続的に行い、基礎教育の充実を図っています。同時に少人数教育を拡大し、下級年次で演習形式による基礎的なリテラシーを身につけ、上級年次では専門演習や実地教育といった授業科目を通じて応用力を涵養できるよう、時代に即した対応を積み重ねています。
 この取り組みの一つが、他大学に先駆けて始めた正規の専門科目としての「アカデミックインターンシップ」と、学生の就業意識を高めるための「キャリアデザインインターンシップ」を融合した、総合大学の新たなキャリア教育です。


2.アカデミックインターンシップ

 本学におけるアカデミックインターンシップは、経済学部の改革からスタートしました。本学経済学部は、都市問題や環境、医療など市場原理だけでは解決できない問題に公共経済学・公共政策の視点から取り組むことによって、公共部門で活躍できる人材を育てることが社会的使命であると考え、1993年に公共経済学科を新設しました。また、学科設立の目的を効果的に達成するため、自治体および民間企業での実習を伴うインターンシップを導入しました。これは、3年次を履修対象としたもので、1995年度から科目名を「ビジネスインターンシップ」として開講しました。1998年度、同科目の履修者枠を経済学部全体へ広げたことに伴い、科目名を「インターンシップ」に変更し、派遣先も、情報系民間企業、シンクタンク、新聞社などのマスコミ関連へと拡大しました。
 このように広がったアカデミックインターンシップですが、この間、一貫して重視してきたのが、政策課題を多く抱える地方自治体でのインターンシップ(自治体インターンシップ)です。このプログラムには、
 1) 区や市で、廃棄物処理や街づくりの手法を学ぶ「自治体 I コース」
 2) 都庁の関係機関で環境対策や高齢者福祉、行政経営、都市計画などを学ぶ「自治体 II コース」
の二つがあり、学生は、自らの関心に応じていずれかのコースを選択することになります。また、プログラムは事前準備(説明会の実施など)、事前指導(導入基礎講義など)、研修本番、事後指導(総括会の実施など)の四つで成り立っています。現在、「自治体 I コース」では板橋区、葛飾区、稲城市、多摩市、八王子市など2区7市に、「自治体 II コース」では都庁の関連部局に、それぞれ学生を派遣して大きな成果を上げています。
 この経済学部の実績と、全学的組織であるインターンシップ連絡会議を1999年に設置したことを契機に、各学部はそれぞれの学問的特徴を生かしたアカデミックインターンシップを開始しました。
 まず、2001年度に文学部は「学校インターンシップ」(科目名「心理学特殊研究」)を導入しました。その特徴は、八王子市内の小中学校と連携しながら発達心理学と臨床心理学の専門分野に関するインターンシップを行う点にあります。またこれと同時に、従来から公共図書館で実施していた「図書館情報学実習」を小中学校図書室まで拡大し、「図書館インターンシップ」として位置づけました。2002年度に理工学部は民間企業を対象にしたインターンシップを開講しました。総合政策学部は「国際インターンシップ」に加え、2003年度より3カ国を対象にした「フィールドスタディーズ」を開講しました。同年度には法学部が国際、行政、NPO・NGO、法務のインターンシップを目的とした「総合講座1・2」を開講しました。そして、商学部が2004年度から営利企業、非営利企業を対象としたインターンシップを導入したことにより、アカデミックインターンシップの全学的な展開をみました。2003年度の参加学生数は202名です(図1参照)。
図1 中央大学におけるインターンシップ参加者の推移(2004年3月現在)
 アカデミックインターンシップの成果を上げるためには、学生を動機づけ、実質的な準備作業を行う科目群(サポート科目群)を用意しなければなりません。また、新しいプログラムを誕生させるための「苗床的」機能を果たす科目群(体験型科目群)も必要であり、各学部はこれらの科目をカリキュラムの中に設置しています。各学部は、これらの科目群の意味づけや有効性を毎年点検し、そこでの議論から新たなプログラムの構築を模索しています。同時に、キャリア講演会やキャリアガイダンスなど独自の課外活動を展開し、アカデミックインターンシップへの誘導を図っています。
 大学院においては、2000年度から日本貿易振興会(JETRO)との学術交流協定に基づき、国内外事務所でのインターンシップを実施しています。


3.キャリアデザインインターンシップ

 他方で、全学的な学生への進路・就職支援機関であるキャリアセンターも、学生の職業観の育成など社会的要請に対応するため、独自に開発したキャリアデザインインターンシッププログラムを1999年6月から開始しました。このプログラムは、学習への動機づけと学習成果の実証が主たる目的であるアカデミックインターンシップに対して、幅広い分野で実習する機会を提供して職業に対する関心を高めることを目的としたものです。2003年度のキャリアデザインインターンシップには121名の学生が参加(図1参照)し、文部科学省や東京都庁などの公共機関や民間企業で実習を行うなど、大きな成果を上げています。
 現時点におけるキャリア教育とインターンシップの実施概況は、表1のとおりです。
 本学は、1993年4月、新たな大学改革の目標を定めるため、理事長の諮問機関として「総合企画委員会」を設置し、1998年3月、同委員会の答申に基づき、本学の理念・目的に添った目標を設定しました。その目標の一つに「学部教育において知的基礎体力を涵養する」ことを掲げ、社会が急激な変化を繰り返す時代には最新の専門知識もすぐに陳腐化するため、精選した素材を用いた基礎教育を徹底する、また、目的意識の希薄な学生を自主的かつ自覚的な学習の主体として導くことに力を注ぎました。インターンシップの充実は、この目標を実現するための一つの取り組みです。
表1 中央大学におけるキャリア教育とインターンシップの実施状況
タイプ\学部 経済学部 文学部 理工学部 総合政策学部 法学部 商学部








サポート
科目群
入門演習、
経済入門など
研究基礎、
基礎演習など
情報処理など 基礎演習、
特殊講義など
基礎演習など 1年次演習、
総合講座など
体験型
科目群
専門演習など 専門演習など 卒業研究など 事例研究
(演習)など
専門演習、
司法演習など
専門演習など
アカデミック
インターンシップ
インターン
シップ(自治
体、民間企業、
シンクタンク、
マスコミ)/
1995年度開始
学校インター
ンシップ/
2001年度開始、
図書館インター
ンシップ/
2001年度開始
インターン
シップ/
2002年度開始
国際インター
ンシップ/
2002年度開始、
フィールド
スタディーズ/
2003年度開始
インターンシップ
(国際、行政、
NPO・NGO、
法務)/
2003年度開始
インターンシップ
入門、インターン
シップ実習、
ボランティア実習/
2004年度開始





課外活動 進路・就職ガ
イダンスなど
進路・就職ガ
イダンスなど
キャリア講演会
の実施など
キャリア
ガイダンスの
実施など
キャリア
ガイダンス、
就活支援
合宿など
自己発見レポート、
企業説明会など
ンキ
タャ
|リ
主ア
体セ
キャリアデザインインターンシップ/1999年度開始
 体験報告書とインターンシップ・ハンドブックの配布 
 ワークショップ、ガイダンス、インターンシップ、体験報告会の実施など
その他の進路・就職支援活動(キャリアデザイン支援)
 キャリアデザインノートの配布、低学年向けキャリアサポートプログラムの実施など

4.支援体制

 学内の支援体制・実施体制として、アカデミックインターンシップについては、各学部の教員をキャリアセンターとインターンシップ連絡会議が支援し、また、キャリアデザインインターンシップについては、キャリアセンターが実施と支援の双方を担うとともに、連絡会議が支援する体制になっています。
 2004年度には新たに「キャリア教育委員会」を設置しました。これは、学部・大学院を含め、全学が一体となり、正課と正課外をも含めて学生一人ひとりへのきめ細やかなキャリア教育の実現を目指す組織づくりです。この委員会を中心として、学部間および部署間の連携を強化するためのキャリア教育ネットワークを形成し、アカデミックインターンシップとキャリアデザインインターンシップのさらなる融合を図っていくつもりです。特にアカデミックインターンシップについては、多方面からの実務家講師による講義をさらに充実していきたいと考えています。


5.おわりに

 今後はこうした体制を発展させ、キャリア教育ネットワークの充実を図っていくことによって、企画・実施・支援・評価体制をできる限り一本化し、インターンシップの一層の充実を図ることにしています。



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