教育支援環境とIT

文京学院大学における情報教育環境
〜授業の情報化とオンライン化〜



1.はじめに

 本学は、関東大震災に被災し苦しむ女性たちに自立の力を与えたいと、創立者島田依史子が1924年文京区本郷の地で始めた本郷女学院を基礎に、文京女子短期大学を経て、1991年に文京女子大学として開学しました。2002年に文京学院大学と校名変更し、現在、経営学部、人間学部、外国語学部の3学部6学科、大学院2研究科が設置されています。キャンパスは本郷キャンパス(外国語学部、経営学部1年、短期大学)と埼玉県にあるふじみ野キャンパス(経営学部2〜4年、人間学部)からなり、総学生数3,386名、専任教員数99名、職員数99名です。2005年度からは、男女共学に移行し、全経営学部が本郷キャンパスに移転します。また、外国語学部の大学院も開設される予定です。共学化を迎え、教育理念も「女性の自立」から「人間としての自立と共生」へと視野を広げ、精神的・経済的に自立するとともに、国境・人種・性別・年齢などの様々な相違を超越して共に生きることのできるスキルと専門性を備えた人材の育成を目指しています。


2.IT環境の概略

 本学LANの構築は1996年に開始され、まず、本郷キャンパス(当時は短期大学のみ)から東京大学経由で SINET へのT1接続を行うと同時に、本郷−ふじみ野キャンパス間にも T1 専用回線を確保しました。ふじみ野キャンパスでは、経営学部と人間学部のネットワーク敷設と教育用システムの構築を行って、専門性の高いデザイン教育や高度な学術統計処理の演習と実験を行えるように整備してきました。一方、本郷キャンパスでも1996年にネットワークの敷設を行い、短期大学での利用とともに、2001年の本学外国語学部の開設に伴い、英語を中心とした語学教育およびコミュニケーション能力の育成を支援する教育環境として活用してきました。そして、2004年9月には、2005年度の経営学部移転をにらんだ新校舎の大増設に伴い、「シンプル・セキュア・シームレス」をコンセプトにネットワーク全体を再構築しました。
 本稿では、新本郷キャンパスネットワークと外国語学部における活用状況を中心として紹介します。


3.本郷キャンパスネットワーク

 基幹ネットワークはギガビットイーサーネットで構成し、全フロアまでギガ帯域を提供しました。そして、シンプルなリング型トポロジーを採用することで、耐障害性の向上や用途別トラフィックの効率良いルーティングを実現しています。現在、6コンピュータ実習室、1コンピュータ自習室、3CALL教室(一部構築中)をはじめとして、すべての教室・研究室から学生のクラブ室まで、有線・無線でLAN接続されています。
 また、ポートVLANやタグVLANによって混在する教育研究ネットと事務局ネットを分けました。特に、各校舎に点在する事務室を統一して一つのサブネット内に収められたことはセキュリティの観点からも非常に良かったと考えています。認証VLANの利用による柔軟な運用も候補に挙がりましたが、今回は見送ることにしました。
 ネットワーク上に流れるデータとしては、語学教育での映画や音楽の利用、CGなどのコンテンツ作品の配信などが想定されるため、マルチキャスト機能やQos/Cos機能も備えたネットワーク機器を、教室ネットワークを中心にバランス良く配置している点も大きな特長になっています。今後、さらなる授業の情報化とe-Learningの推進が予想されるため、オンデマンドとライブ双方に対応したストリーミングシステムも導入しており、まずは学園祭の撮影ビデオコンテンツなどの配信計画が進行中です。
 さらに、リカレント教育のユーザや学生の自由な活動も考慮して、オープンネットワークを設けました。具体的には、マルチメディアセンターと多目的ホールに情報コンセントや無線LANを提供した他、カフェにもインターネット端末を設置しました。これらのエリアでは、課題実習やゼミの資料作成、課外活動の共同作業などが活発に行われています。また、本郷キャンパスとしては、「オープンネットワークは明確に学内のネットワークと区別する」というポリシーのもと、佐賀大学の情報基盤センターで開発されたOpenGateを利用してWebブラウジングの際にパスワード認証を要求するシステム環境にしました。


4.情報処理教育支援

 情報処理教育を主な目的としたコンピュータ実習室は、Windows端末179台(32+42+24+24+57)とMacintosh端末44台の合計6教室を提供し、Active Directory による統合認証を実現しています。Windows環境については、移動ユーザプロファイルを採用することで個人環境を提供し、その設定をスクリプトで自動化して、初心者でもストレスなくコンピュータ利用が始められるよう留意してあります。また、「セキュアクライアントの提供を行う」というポリシーから、パッチの自動配布だけではなく、WebブラウザやMailクライアントも本学で構成した安全な設定テンプレートを適用しています。Macintosh端末では、デザイン教育に対応し得るグラフィック処理ソフトを各種揃え、タブレットやA3ノビ対応のプリンタを設置して学生の創造力を自由に伸ばす装備にしました。さらに、Macintosh教室ネットワークは専用ファイルサーバに接続されたスイッチへ直収して、グラフィック作品の転送などがスムーズに行えるよう設計してあります。上記の教室以外にも、マルチメディアセンターでは15台のWindows端末や10台のiMacが自由に利用可能で、学生達のコラボレーション学習に寄与しています。特に、Windows端末には多国籍版のOSや英・仏・独・中・韓5カ国のキーボードを取り揃え、留学生にも大変好評です。
 以上のコンピュータ教室の管理サーバ群やインターネットサーバ群は、メンテナンスを考慮してすべてストレージサーバを利用したSANブート構成にしてあり、教室用ファイルサーバは、NASによる高速アクセスとストレージサーバによる大容量で拡張性豊かなデータ領域を実現して、教育や研究の要求に充分対応できるシステムになっています。


5.情報処理授業のオンライン化

 前述のWindows環境の5コンピュータ実習室は、一つの閉じたネットワークシステムとして統合されており、その中に立てたファイルサーバと認証サーバを活用することによって、学生個人のファイルの保存、教材配布、課題提出をすべてオンライン上で実施可能とし、さらに教員自筆のオンライン教科書をイントラネットWebサーバから供給することによって、情報処理演習の授業を完全にオンライン化しています[1][2]。すなわち、この一連の機能「教材配布用フォルダ」「オンライン教科書」「課題提出用フォルダ」が、オンライン化された情報処理演習授業の中枢を形成していて、これによって、デジタル化されたマルチメディア教材が瞬時のうちに全員に配布され、本学のネットワークシステムに合致した内容を持つ教科書がオンラインで画面上に現れ、課題提出も画面での操作で済むという、ペーパーレスかつ授業の情報化に貢献できるシステムを構築して利用しています。

(1)教材配布用フォルダ
 ファイルサーバ内に教員ごとに設置されていて、教員が事前に用意しこのフォルダに入れておいた教材を、学生が自身のフォルダにコピーして使用するために設けられたもので、教員はフルコントロールのアクセス権を持ちますが、学生には閲覧用のアクセス権しか許可していません。

(2)課題提出用フォルダ
 学生が作成した課題の解答ファイルを自身のフォルダからコピーして提出するため、ファイルサーバ内に設けられたものです。受講学生ごとに個別の提出用フォルダが用意され、そのフォルダには教員と該当する学生のみがアクセス権を持つよう設定されています。もちろん、該当する学生には訂正・追加・削除等の必要なファイル操作が許可されています。

(3)オンライン教科書
 本学の教員が本学のネットワーク構造とカリキュラムに合わせて執筆したオリジナル教科書で、イントラネットWebページからアクセスできるPDFファイルとして提供されています。学生は、二人に1台設置されている中間モニターでこのオンライン教科書を見ながら、説明を受け、課題をこなしていきます。現在、外国語学部と短期大学の1・2年次の計6演習科目用に執筆されて利用されています(図1、図2)。
 2003年度のアンケート調査では、約80%の学生が紙の教科書よりオンライン教科書を好み、その理由として、

 1)持ち運ぶ必要がなく、なくす心配もない
 2)授業のペーパーレス化が実現されるので環境保全に役立つ
 3)編集が容易で日進月歩の情報技術の現状を直ちに反映できる

が上位に挙げられました。
 なお、情報処理授業のオンライン化は2001年度から推進しており、毎年改良を加えながら現在に至っているものです。
図1 オンライン教科書へのリンクページ
(a)科目を選択すると目次ページが現れます (b)望む週のテーマを選択するとPDFファイルが開かれます
図2 オンライン教科書の例

6.今後の課題

 本郷キャンパス内のLANの高速化に伴い、SINETを経由した1.5Mbpsのインターネット接続では限界が見えてきました。今後は、ADSL回線を確保しインターネット接続口を二つにすることで、この問題の解決を行う予定です。教育面では、授業のオンライン化を情報処理の授業以外にも推進していくことが重要だと考えています。現在、語学教育やゼミナールでのコンピュータ教室システムの利用が少しずつ広がりつつあるので、情報教育研究センターでは文系教員のための技術的支援と教材作成支援体制を整え、全学的な授業の情報化推進体制を整備する予定です。同時に、オンライン教科書のe-Learning教材化も重要です。すでにコンテンツは存在するので、筆者(櫻山)のゼミではゼミ生にe-Learning教材化を推進させる試みを実施しています。さらには、キャンパス間遠隔講義も視野に入れており、そのための設備整備も推進中なので、早期の実現を目指したいと思っています。


参考文献
[1] 櫻山義夫, 浜 正樹: 情報処理演習のためのオンライン教科書―オンライン教室システムの一環として―. 文京学院大学総合研究所紀要 第3号, 2003.
[2] 櫻山義夫, 浜 正樹: 情報処理演習のためのオンライン教科書−その2−. 文京学院大学総合研究所紀要 第4号, 2004.

文責: 文京学院大学
   外国語学部教授
 櫻山 義夫
  文京学院短期大学
  
   英語英文学科専任講師  浜  正樹



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