教育支援環境とIT


金沢学院大学における教育支援環境
〜ユビキタス情報教育支援環境実現をめざして〜




1.はじめに

 金沢学院大学は、石川県金沢市の東部にある3学部7学科の文科系総合大学です。本学は、1987年に日本海側初の4年制女子大学(金沢女子大学、文学部2学科)として開学しました。1995年に男女共学化し金沢学院大学と名称変更し、経営情報学部3学科を開設しました。そして1999年には大学院経営情報学研究科(修士課程)、翌2000年に美術文化学部3学科を相次いで設置し、2005年4月から大学院経営情報学研究科(博士課程)がスタートします。2005年2月末現在で学生数は1,639名、教職員数は263名となっています。
 同じ学園内にある金沢学院短期大学の前身の金沢女子短期大学は、全国に先駆けて情報処理教育を推進してきました。本学のIT教育環境はその伝統や蓄積されたノウハウの上に構築されたものです。例えば、インターネット導入も1994年に行われ、大学のホームページ開設も1996年と地方文科系大学としては比較的早い時期に行われました。現在も以下で概説するように多方面でITを活用した新しい教育支援環境の構築を模索・実行しております。


2.IT設備

 本学のIT設備は次のようになっております。パソコン室8室(うちMacOS2室)、パソコン自習室2室、パソコン総台数389台。その他、サーバ集中管理室があります。また、学内ネットワーク環境として、有線LANに加えて、無線LANのアクセスポイント(図書館、学生食堂、ラウンジなど54箇所)を設置して、キャンパス内であればどこでもインターネットにアクセスできる環境になっています。経営情報学部および美術文化学部情報デザイン学科のほぼ全員の学生はノートパソコンを保有しており、学内無線LANにアクセスして授業や課題作成に活用しています。


3.ITを活用した教育支援システム

 教育支援システムには、授業開講時に必ずしもとらわれない非同期型、および授業とリアルタイムに結びつく同期型のものに大別されますが、本学ではこの両方向からのアプローチで教育支援システムを構築・運用してきました。さらに、次のステップとして、ほぼ全員の学生が所持している携帯電話を教育支援に活用することを計画しています。

(1)非同期型教育支援システム(Vextclass)

 Webを活用した双方向教育支援システムとして、本学では、コマツソフト(株)(現:クオリカ(株))、大阪産業大学、大阪大学と共同開発したVextclass[1]を活用しています。Vextclassは、フォーラムとよぶ単位で学生を管理し、フォーラムごとに次の機能が提供されています(図1にフォーラムの画面例を示しています)。

1)教材配信機能
 学生は、学内LANを経由して教員の公開した資料をいつでもどこからでも閲覧またはダウンロードできます。この機能は、一般的な保存形式のファイルならほとんど利用できます。

2)コミュニケーション機能
 フォーラムの掲示板を利用して教員・学生あるいは学生相互のコミュニケーションが可能です。

3)課題配信・集計機能
 指定した日に課題を自動配信し、学生の提出した解答を自動受信します。教員側の操作で受理した課題の採点と集計ができます。ここでの課題は、穴埋め、選択解答形式のものにとどまらず、いわゆるテキストマイニングの手法を利用して記述問題の採点も行います。採点結果は、コメントを付けて個々の学生に配信されます。

4)相互啓発機能(ディベートとクイズ)
 テーマを与えてディベートさせることにより、学生に相互啓発の機会を提供します。また、学生が相互に問題を出し合うクイズ形式の相互啓発機能もあります。

5)自己啓発機能
 学生は、自分の採点済課題や教員の提示する正解例を閲覧できます。また、マイルストーンによって自分の達成度を知ることができます。これによって学生は小テスト後の早い時点で理解の不足している部分を確認でき、復習の機会が得られます。
図1 フォーラムメインメニューとフォーラムトップページの画面例
 本学では、このシステムを主に経営情報学部のコンピュータリテラシー関係の授業で2000年から活用しています。授業後にとった学生のアンケート結果を一部紹介しますと、「紙で課題をする場合に比べて、楽しいので紙よりやる気が出る。紙でやる課題よりやりやすかったし、わかりやすかった」、「課題の提出方法として印刷しなくていいので便利、しかし提出期限がきっちりしているから反面つらい。自宅に環境がない場合は不便」、「成績や解答が見られることは、コメントもついてくるのでよい。また、すぐに結果がでるのでよかった」など、概ね満足度の高い結果が得られています。

 電子教材作成については、現在のところ組織的な作成支援体制はありませんが、Vextclassで用意されている共通の教材利用フォルダに登録することにより、教材の共同使用が可能です。このフォルダの利用により、教員の教材作成負荷を分散・軽減させています。


(2)同期型教育支援システム(ECP)

 同期型システムとして、本学では2001年末よりInterwise社が開発したInterwise ECP(以下ECP)を利用しています。このシステムは、CCDカメラとヘッドフォンを使用し、Web上でリアルタイムに授業を行うものです。その授業規模によって、1対1で使用するiメンタリング、20人規模のiミーティング、50-100人規模のiクラスなどのイベントが用意されており、各種の学習形態に応じた運用が可能です。
 利用できる教材として、画像ファイル(bmp、 gif、jpg)、HTMLファイルでアクセスしたインターネット上のリソース、MS-Office ファイル(Word、Excel、PowerPoint)、ビデオファイル(avi、mov)、オーディオファイル(wav、mid)などがあります。
 本学における利用例を二つ述べます。[2]

1)習熟度別クラスの分散授業における一斉授業
 本学経営情報学部一年生のコンピュータリテラシー科目では約200名を5クラス、習熟度別に3段階に分けて講義実習しています。習熟度別に分け少人数化した実習はそれなりに目が届き指導効果が上がります。 一方、「コンピュータの基礎知識」など全クラス共通の講義内容の場合、一人の教員が全クラスに同時に講義を行うことにより、教員の負荷を軽減することができます。この目的のためECPのiクラスを利用して5クラス同時に講義を行いました(図2参照)。
図2 習熟度別分散授業におけるECP
2)遠隔授業
 高等学校情報科教員免許に必要な講義科目に「情報化と職業」があります。2003年度では本学の学部生20数人に加えて他大学の大学院在学の科目履修生一人が履修しました。開講からしばらくして他大学院生の通学時間が往復で2時間弱かかること、前後の時間割の関係で本学へ通学することが難しくなることが明らかになりました。そこでECPのiミーティング機能とWebページを組み合わせて遠隔講義を行い、この問題に対応しました。本学学部生は普通教室に着席し、ECPでの講義画面をプロジェクタで投影したものを見て受講しました。遠隔地の他大学大学院生はパソコン(ECPのクライアントソフト使用)およびヘッドフォンセットを使用し受講しました。


(3)携帯ユビキタス授業運営支援システム

 学生の保有率が極めて高い携帯電話を教育支援に活用することは意義あることです。本学では、有線LANと無線LANを統合したネットワーク学習環境下で、携帯電話とノートPCとを積極的に活用して、講義や演習などの授業の活性化と教員の授業運営の省力化・効率化を目指す携帯ユビキタス授業支援システムを開発しました[3]。2004年度から経営情報学部や美術文化学部の一部で試験運用を開始し、2005年度より本格運用の予定です。システムは以下の三つに分けられます。

1)科目履修登録
 学生が受講希望の授業科目に履修登録します。学生からシステムへのメールアドレス登録によって開始される履修申請までの手続きに関するものです。指定のメールアドレスへ科目番号および教員番号を送信することによって登録されます。

2)授業運営
 各授業日の出席票メールの送信から開始し、授業中に行われる教員と学生間のコミュニケーションを行います。授業内容に関する多種類のクイズやアンケート、小テストなどの教員から学生への問いかけメール配信や学生から教員への質問などの質疑応答コミュニケーションができます。学生の回答は、返信メールまたは動的に生成されるWebページで行い、システムは学生の回答を収集し、回答の評価と集計・グラフ作成などの一連の情報処理を行います。 出席管理は不正が行われないよう、授業時に教員が指示するキーワードを入力させたり、一授業内で複数回出席票を送ったり、一定の時間経過後に出席票の提出を締め切ったりという方法を併用することによって正確を期すようにしています。

3)授業外活動
 授業時以外で行われる教員から学生への連絡事項や休講情報を携帯メールに送信して知らせます。履修者全員に連絡することも特定個人宛に連絡することもできます。
 本システムを利用した授業での学生の反応は、ア)受講者の8割は、携帯利用の授業に好意的であったこと、イ)講義中は、携帯を使って、出席票やクイズや小アンケートに対して積極的に反応すること、ウ)クイズの問題回答のために友達同士で相談する機会が増えたこと、エ)課外における教員と学生とのメールや対面コミュニケーション量が増加したことなどがあり、少なくとも従来の授業に比べて学生の授業への参加意識が高まったことが実感できました。


4.今後の計画

 いつでもどこでも授業や勉強に関するコミュニケーションが可能なユビキタス情報教育支援環境構築をめざしていくのが今後の目標です。現在、ほぼ全員の学生が携帯電話を所持しています。2005年度よりこの携帯電話を利用した授業支援の本格運用が予定されています。今後はさらに非接触型のICタグと連携させたシステムの開発を行う予定です。当面は必修科目の出席管理から始めることを計画していますが、将来的には学生証、学生食堂での清算、図書貸出など総合的な学生サービス実現を視野に入れています。


参考文献
[1] 長坂悦敬, 阿手雅博:記述問題の自動評価を目指した教育支援情報システムによるInteractive Education.情報教育方法研究第3巻, 2000.
[2] 樋川和伸他:eコミュニケーションシステムを利用した遠隔会議・授業の実践.金沢学院大学紀要 第2号 情報科学自然科学編, 2004.
[3] 樋川和伸, 岡田政則, 中西一夫:携帯メールを活用した授業支援システムの開発と実証実験について.金沢学院大学紀要 第3号 情報科学自然科学編, 2005.

文責: 金沢学院大学
経営情報学部教授 中西 一夫
基礎教育機構教授 岡田 政則



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