私情協ニュース1

平成17年度「教育の情報化フォーラム」開催される



 平成17年度「教育の情報化フォーラム」が、6月10日(金)、11日(土)の2日間、大阪府吹田市の関西大学千里山キャンパスにおいて、約380名の参加者の下で開催された。
 第1日目の全体集会では、フォーラム運営委員長山崎和海氏(立正大学)の司会のもと、戸高敏之会長(私立大学情報教育協会、同志社大学)による開会挨拶、そして会場校を代表され関西大学の小幡斉副学長による、示唆に富んだ挨拶が行われた。
 今年度のフォーラム運営委員18名の紹介に続き、「授業改革の試みと学習支援のための組織的な取り組み」と題し、石澤末三氏(帝塚山大学経済学部教授、前学長)による基調講演が行われた。石澤先生が学長時代に推進し、平成16年度特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)および現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)に採択された帝塚山大学の取り組み事例(「TIES」)を中心に、組織的な教育支援の成果と将来展望などについて講演された。25大学との連携にまで広がっている身近な教育改革の事例でもあり、講演後、会場との活発な質疑応答も行われた。
 引き続いて、井端事務局長による本協会の活動報告として、平成17年度の事業計画とその推進状況や、また振興財団補助金行政などについての補足説明等も行われた。
 その後テーマ別自由討議(第1日目4分科会、第2日目4分科会)を開始した。討議は8テーマを設定し2日間に分けて実施し、フォーラム運営委員による司会のもと、課題提起者を中心に、会場からの積極的な参加により活発に行われた。今年もフォーラムの趣旨である「授業改革の視点から教育の情報化に関わる問題について広く討議を行い、対応策を模索する。またそれぞれの教育現場で実際に直面している問題・課題についての意見交換と情報の共有、会員同士の理解と協力を必要とする問題及び関連情報等について協議すること」が、全体的に活かされたフォーラムとなった。
 第1日目の討議終了後に多数の参加者の下で懇親会が開催され、参加者相互の親睦を深めることができた。また2日目の討議終了後には、現代GPに選定されたプロジェクト(「ITを利用した実践的遠隔授業(e-learning)」)のデモも含めた関西大学千里山キャンパスツアーが組まれ、多くの方々が参加された。
 最後にあたり、本フォーラムの会場校をお引き受け下さった関西大学の関係教職員の皆様に謝意を表します。


テーマ別自由討議(6月10日)

A:個人情報の活用と保護

 2005年4月より「個人情報の保護に関する法律」が施行され、教育機関においても個人情報保護に対する関心はますます高まってきている。札幌学院大学では2002年にスタートした「学生支援のための情報システム」において、学生情報の統合的データベースから、教員、職員がその立場に応じたアクセス権限に従って必要な情報を引き出し、組織的な連携の中で学生の個別支援を展開するといった試みを行っている。このシステムでは、情報ネットワーク上で学生の個人情報を取り扱う関係上、その構築と運用にあたっての個人情報の厳格な保護対策を実施しなければならなかった。これを実施するための規程を「情報セキュリティポリシー」の対策基準の一つとして制定し、それに基づき様々な個人情報保護対策をとってこられた事例について、斉藤和郎氏(札幌学院大学総務部情報処理課長)から紹介いただいた。
 札幌学院大学では、情報セキュリティ対策実施のための主要組織として情報セキュリティ委員会があり、電子計算機センター長、情報処理課長、法令上の観点からの顧問的な役割としての法学部教員、情報技術を専門とする教員、法人総務部長で構成されている。委員会では、情報セキュリティポリシーの見直し、教職員への啓蒙活動、データ活用のためのアクセス権限設定、各部署からの相談窓口、外部監査の導入などの活動を行っているが、これをベースに個人情報保護委員会を近々設立する予定である。
 事例紹介後、第三者への個人情報の提供(特に父母への成績通知)、掲示板への個人情報の貼り出しなど、各大学での考え方についての議論がなされた。各大学での個人情報の取り扱いについての基本的考え方の違いが、法律施行を契機にこれらの議論を通して現れてきたことは興味深く、今後も引き続き議論していくべき重要な課題であると思われた。


B:e-Learningの実践(1)〜授業と学習の統合的支援〜

 教育現場へのe-Learningの導入の進展に伴い、市販のシステムも形を整え、これまで解釈に幅のあったe-Learningの意味も明確化してきた。B分科会では冬木正彦氏(関西大学工学部教授)が開発された授業支援システムCEASの開発目標とその特徴について紹介いただいた。同氏は文部科学省の現代GPに採択の「進化するe-Learningの展開」の代表者であり、CEASはその核となるシステムである。
 CEASは授業と授業外学習、教師と学生とを有機的・発展的に関係づけようという独自モデルに基づき開発された。教員の発想を実現しやすい授業支援を目指し、かつ強力な学習管理機能も備えている。使いやすさの基盤は、独自の教育モデルと利用者である教員のワークフローを考慮した設計思想に依っていることを説明された。多様な形態のコンテンツを教員の個性的な授業形態の中に組み込み、授業・授業外で簡単に表示可能な機構とユーザーインタフェースが提供されている。このことが学期単位での知識の集積はもちろん、授業毎の内容の更新をも促す効果をもち、週単位で講義内容・手法の進化、授業と自習の有機的な結合を可能にすること、さらに新しい授業形態を産み出す可能性すらあることを、語学教育における教員・学生・TAの三者一体となる新授業形態を例に紹介された。
 後半のディスカッションの中で、費用、維持管理の学内機構、セキュリティ、システム導入の効果などに対する質疑応答があった。
 また2日目のキャンパス見学では、CEASの実演を冬木氏自ら披露いただき、上記の特徴が一層よく理解された。商用システムを換骨奪胎されたとは言え、学生数2万以上、教員数2千、講義数1万という規模の授業、レポート、質疑応答、テスト、成績評価と授業外の学習支援を司るWeb機構を管理・運用するシステムを組み上げられた構成力・組織力は敬意に値した。


C:教育力向上のための教育支援組織体制

 「東海大学教育支援センター設置の経緯と教育支援体制について」と題して、中津川平伍氏(東海大学教育支援センター教育支援課長)より、教育支援組織について課題提起いただいた。
 東海大学・大学評価委員会の「FDを担当する組織を作り、全学的『組織的』な教育支援を展開し、社会から期待される教育を行うことが必要である」との答申を受けて、学長主導の元に2001年4月に「教育支援センター」が設置されたこと。大学改革の一環であること。組織は、所長・次長を含め98名で、同センター設置の経緯と組織・構成が詳細に説明された。
1) 教育支援研究施設(教員10名)
FD(Teaching)に関する問題解決、調査・分析、研究会開催など。
2) 教育支援課(職員5名)
相談窓口、教育施策の企画・立案・提供・実施・分析、FD活動の支援・推進、サイバーキャンパス事業の支援など。
3) 技術管理課(職員10名)
教室教育環境の整備・保守・点検、技術支援、教材作成など。
4) 技術支援課(職員63名)
実験・実習の指導、大型共同利用機器のオペレートなど。
5) 印刷業務課(職員8名)
教材・テキストなど資料の印刷・製本など。
 質疑では、総合情報センターとの関係、予算と権限、利用率や成果などについての質問があり、今までの支援業務の検証や新たな支援強化の課題。教員への啓蒙活動に力を入れていること。教育向上には組織的支援とともに教員の意識の高揚が重要であり、総合的業績評価システムが2005年導入されたことなどが報告された。また、参加各大学から学生による授業評価の取り扱い方法、授業公開の実施例などが披露された。教育支援の組織的取り組みは大学改革全般にかかわることから、広い視点で活発な意見交換が行われた。


D:社会支援を取り入れた教育政策と課題〜東京電機大学情報環境学部におけるプロジェクト科目を核とした産学連携〜

 現在、ネットワークを活用して産官学が協力し、大学の教育支援、人材育成支援が実現されることが期待されている。本分科会では、現代GPにも採用された東京電機大学情報環境学部の先進的な試みを中村尚五氏(東京電機大学情報環境学部長)から紹介していただき、それに基づいて討論が行われた。
 2001年に新設された同学部では、単位従量制の導入やセメスター制の採用を始め、授業時間を90分/週1回ではなく50分/週3回や75分/週2回にするなど、大胆な大学教育改革の試みを行っている。その一環として、問題発見・解決能力の涵養、自立心・独創性の開発を目指し、2・3年次にプロジェクト科目が設定されている。
 それらの科目では企業などから提供されたテーマを学生が選択登録し、インハウス型インターンシップとしてセメスター内で完結し、最後に成果をプレゼンテーションする。企業との打合せや進捗状況の報告は、通常、電子メールと添付ファイルによって進行し、成果が公表可能なものはWeb上で公開している。
 中村氏の報告はあらかじめ配布されたレジメの内容を越えて具体的事例が多く紹介され、実際運営のノウハウや、学生が積極的にこの授業に取り組んでいる様子が理解できるものであった。
 報告後の質疑応答では、企業と大学との関係など運営のノウハウにかかわる質問が多く、実態に即しての説明があった。なお質疑のなかで、行政の役割について、県の産業振興課が企業からのテーマ募集のアナウンス窓口になってくれていることが紹介された。
 最後に中村氏から、この試みの延長上にバーチャルなインターンシップのシステムが開発されつつあることが紹介され、実用化実験への参加が呼びかけられた。


テーマ別自由討議(6月11日)

E:教員による個人情報活用と個人情報保護の考え方

 本分科会では、本年4月より全面試行された「個人情報保護法」に対して、学校教育の立場からの対処という観点から、堀部政男氏(中央大学法科大学院教授)より事例などを含めた詳細な解説が行われ、それを元に質疑・討論が行われた。
 まず、同氏から、個人情報保護法に関する経緯が解説された。同法は、元々自分に関する情報を自分でコントロールする「自己情報コントロール権」に関する法律である。欧州を中心とする歴史的展開や欧米を中心とする先進国の事例や、日本の個人情報保護法に関する法学的な解説があった。
 次いで、学校教育に関係する「同法をめぐる様々な事例や判例」などの解説があった。同法でいう「個人情報取扱事業者」に該当するのは大学組織であり、大学に所属する教職員はこの事業者の「従業員」に、学生、自治会、同窓会などは「第三者」に該当することになる。従って、大学として「個人情報保護法」に対応することの重要性が指摘された。
 私立大学情報教育協会がまとめた「教員の個人情報に関する不安な事項」についても触れ、以下の留意点に関して解説があった。具体的な例として、学生の学籍情報、名簿、論文・作品等の取扱や卒業生の個人情報に案する取扱などを取上げ、留意点を整理した。
 最後に、同法が、基本的には「苦情の申し立てを重視する」性格をもつ法律であることに触れ、大学としては、法律の精神に遡って判例などを参考にして個別の対処を組織全体として地道に行なうことの重要性が指摘された。顧問弁護士などと充分に相談して、大学組織としてのポリシーを明確に決め、これをパンフレットなどで事前に最初に交付しておくことが、最も重要な点である。


F:e-Learningの実践(2)〜e-Learning教材の開発と利用のあり方〜

 本分科会の目的は、e-Learningは普及してきてはいるが、その利用方法は手探り状態であることから、e-Learningシステムをどのような部分でどのように利用すれば効果があるか、また、利用上でどのような問題点があるのかを議論することであった。課題提起者として、金沢大学から鈴木恒雄氏(金沢大学総合メディア基盤センター教授)を招き、事例の紹介と課題提起をしていただき、その後、約95名の参加者と自由討議を行った。
 e-Learningでは教材作成に大変な時間と労力がかかることから、金沢大学ではできるだけ多くの人が利用し、長時間使える科目が適切と判断し、一般物理学をe-Learningの対象として選択された。教材作成に当たっては、予・復習演習を義務付け、多人数講義でも日常的に学生の学習・成績状況が把握でき、講義のビデオとPowerPointファイルを自動的に作成でき、個々の教員がカスタマイズできること等を条件にされた。
 e-Learningを利用した効果は、e-Learningを利用しなかった時よりも学生が良く勉強していること、1クラス100人の場合でも、採点の負担を気にすることなく多くの演習問題を課すことができること、教員から学生ひとりひとりがよく見え、様々な意見を授業時間外で聞くことができ、それを講義にフィードバックできたということ等である。また、作成したオリジナル教材では、見開きで左が教科書、右がノートになっているものが学生に評判が良いということである。
 参加者の質問は、金沢大学で授業のIT化を推進し、教員をサポートしている、IT教材作成支援室のスタッフの構成、教員への支援内容、経費についての質問が最も多かった。また、学生に必携化しているノートPCへのサポート体制についても質問が多かった。


G:「教材コンテンツ作成のための支援体制」

 分科会ではまず東 孝博氏(獨協大学副学長)から、獨協大学の教育支援環境をいかにして作ったか、その経緯と流れを中心に説明をいただいた。獨協大学では 2002 年から教育支援室として、業務委託と専任教員の組み合わせ(常勤10名、非常勤20名、ヘルプデスク70名(延べ)程度)て効率よく運用していると紹介された。
 次に原田豊氏(獨協大学情報センター教育支援室課長補佐)から、講義支援システム(教員・学生間のコミュニケーションの場を提供)、授業レポートシステム(教室で紙に書いたレポートをスキャンしてデータ化するもの)、講義のアーカイブシステム(スライドとビデオ録画をシンクロさせるもの)などについて紹介があった。
 教員の任意利用である(大学としてやって欲しいというのはない)にもかかわらず
 最後に東氏から、トップダウンではなく、またシステムにしてもサービスにしても押しつけるのでなく任意で勧める、という方針をとった点が強調された。上から、ではなく、教員のクラス運営について日常的な部分で支えていくのが重要だと考えている。システムを作るだけではなく、チョーク一本からの支援、という姿勢で臨みたいとしめくくられた。


H:社会科学系における双方向型の教育

 本分科会では、松島桂樹氏(武蔵大学経営学部教授)から、経営学領域におけるe-Learningの実践事例を課題提起として紹介していただいた。
 氏の岐阜経済大学時代の取り組みの紹介では、電子掲示板を使った情報共有や、サポート職員とのコミュニケーションの支援などの実践をとおし、e-Learningの双方向性が学生の参加意欲と教員の生産性の向上に寄与する点が示された。
 青山学院大学のAMLプロジェクト参加の事例では、e-Learningを活用することで、戦略・企画、製品設計、投資評価、生産設計、マーケティングという横につながった業務プロセスをネット上で疑似体験しながら対面授業と組み合わせて学習するサイバービジネス協調型演習が紹介され、授業シナリオの重要性が示された。
 武蔵大学での事例では、大人数授業におけるe-Learning活用の試みが報告された。LMSは帝塚山大学が開発したTIESを利用し、授業と同期してネット上に掲載される教材やクイズの活用、携帯電話を利用した双方向の情報交換や授業資料をコンビニで印刷できるネットプリントの事例などが報告された。
 産官学が連携した大学授業の共同活用の事例として、岐阜県国際ネットワーク大学コンソーシアムならびに私情教経営学教育IT活用研究委員会が主催した武蔵大学、阪南大学を結んだ遠隔授業の実践が紹介された。大学では聞く機会の少ない実業の実体を知ることができるなど、e-Learningによる新しい産学連携のスタイルが示された。
 この後、e-Learningの運用段階での対応、少人数の専門教育と大人数の基礎教育でのe-Learning活用方法の違いなど会場からの質問や活発な討議が行われた。


文責: 教育情報化フォーラム運営委員会


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