教育支援環境とIT


キャンパスのライフラインとなる情報ネットワーク
〜大阪経済大学KEIDAI Virtual Campusとeラーニング〜



1.本学の歩みと現状

 大阪経済大学は、1932年の浪華高等商業学校の創設に始まり、1935年に昭和高等商業学校として再生・再出発し、以来「自由と融和」を建学の精神として引き継いできました。「人間的実学」を教育の基本目標として掲げ、現実生活において具体的に役立つ知識や能力の修得を重視するとともに、良識ある人として豊かな人間性を養うことを目的としています。
 2002年に創立70周年を迎えるにあたり、この年を「改革元年」と位置づけ、1)人間的実学を基軸に据えた理論と実学の融合教育、2)地域社会・企業社会・国際社会に開かれた大学づくり、3)地域社会・企業社会・国際社会から評価される人文・社会系のセンター・オブ・エクセレンス、の三つの基本目標をかかげて取り組んでいます。
 1946年、昭和高等商業学校を大阪経済専門学校と改称した後、1949年に学制改革により大阪経済大学となり、経済学部経済学科を設置しました。学部・学科の新設や改組を経て、現在では経済学部(経済学科、地域政策学科)、経営学部(経営学科、ビジネス法学科)、経営情報学部(ビジネス情報学科、ファイナンス学科)、人間科学部の4学部7学科となり、2005年5月現在、男子学生6,126名、女子1,201名、合計7,327名の学生を擁し、専任の教員128名、職員104名が在職する人文・社会系の総合大学となっています。


2.IT環境の整備過程

 経済・経営系でもコンピュータを使用した研究が広がり、教育現場でもプログラミングを中心とした情報教育が求められるようになったことに対応して、大阪経済大学では、汎用コンピュータにパンチカードリーダおよびマークカードリーダとラインプリンタを組み合わせたシステムを導入し、FORTRANやCOBOLのプログラミング教育や統計学や計量経済学などにSPSSを使ったバッチ処理を使用し始めました。その後、バッチ処理に加えてTSSに移行し、端末50台を備えたコンピュータ実習室が作られました。このような時代を経て、1995年4月にLANを構築し、クライアント・サーバシステムを教育と研究に使用し始めました。ネットワークシステムの第1期となったこのシステムは、クライアントPC 370台の規模で、ネットワークOSにはWindowsNT3.5を使用しました。第1期は「情報処理概論」や「情報処理実習」といった選択科目でOSと基本アプリケーション・ソフトの使い方などリテラシー教育が中心でした。
 その後3年ごとにシステムを更新し、学内のインフラを増強してきました。
 1998年4月に更新した第2期のシステムでは、クライアントPCは490台に増加し、情報倫理教育等の自主学習用にe-Learningを導入しました。
 2001年4月からの第3期システムでは、PC台数をほぼ倍増させて830台の規模となりましたが、その後も新校舎の建設に伴って順次PCを増設し、第3期の最終年度である2003年には1,023台のPCを擁するまでに至りました。
 全学生に情報教育を実施し、卒業生全員が情報リテラシーを有するようにすること、情報システムを利用する科目が増加してきたことに対応すること、通信速度を引き上げてインターネットを授業のなかで活用できるようにすることなどを目指しました。また第3期には、新入生のITスキルの格差を縮小する目的で、入学直後に情報システムを利用するための講習を実施し始めました。
 KVC(KEIDAI Virtual Campus)構想をスタートさせたのも第3期です。KVCは大学の教育機能をネットワークの中に構築することで、時間と空間の制約を受けないマルチメディア対応のセルフラーニング環境を提供すること、学生と教職員との間に便利で直接的なコミュニケーション手段を提供すること、それらにより学生と教員との双方向型の教育環境を実現し、学生個人の夢の追求・実現を支援することを目指しています。


3.ライフラインとなったKVC

 2004年4月に更新した現在の第4期のシステムでは、PC 1,224台の規模のLAN(Windows2003
Server,WindowsXP Professional)を構築して運用しています。学生が自由に利用できるオープン端末室も、第1期にはF館40台のみでしたが、現在は、海外衛星放送が受信でき語学学習を主目的としたセルフラーニング室(C館 30台)をはじめ、E館90台(図1)、F館 70台とA館50台と、IT環境を大幅に拡充しました。

図1 PC90台のE館オープン端末室

 本学の教育研究用ネットワークシステムは、学生にとって授業とその関連で使用するシステムであった時代を超え、第4期のシステムでは、入学時からすぐに必要になるキャンパスのライフラインとなってきています。KVCは履修登録や日々の開講状況、教職員との連絡、催し物の案内、クラブや友人とのメール連絡など、毎日利用するシステムで、現実のキャンパスと仮想のキャンパスであるKVCが一体となったハイブリッドキャンパスを提供しています。
 講義形式の授業と図書館を利用した学習で構成されていたこれまでの教育環境に加えて、LANとインターネットが可能にする新しい教育環境を創造しようと取り組んでいるのがKVCです。その中にマルチメディア性をさらに高度化したリッチメディア型のコンテンツをe-Learning教材として充実させ、補習と課外自習の教育環境を提供しつつあります。キャンパスのハイブリッド化によって学生生活と学習スタイルを変え、教員のファカルティを向上し、授業の効果を高めたいと考えています。

(1)e-Learningの取り組み
 現在e-Learning開講科目は、「教育史」「有価証券法」「国民経済計算論」「会計学特殊講義」「統計学」「教育工学」「社会情報論」「経済情報処理」「プレゼンテーション技法」「情報通信基礎」「データベース論」「プログラミングI」などで、他に資格取得のための教材として「TOEIC」をはじめ、「基本情報処理技術者試験対策」「初級シスアド試験対策」「マイクロソフトオフィススペシャリスト」など市販教材を導入し、約50科目の教材を学生に提供しています。
 オリジナル教材としては、PowerPointだけで作成したもの、スタジオで収録した映像を取り込んでリッチメディア化(高度にマルチメディア化)したもの、授業風景の映像を取り込んでリッチメディア化したものがあり、学生は、授業に先立ってe-Learning教材で予習したり、添付されている資料を印刷して授業に出席する、講義後は、理解できなかった部分の復習や、講義に欠席した場合の補習に利用しています。
 e-Learning教材は、学内のみならず自宅からもアクセス可能です。教員からも資料の印刷・配布の手間を省けるなど授業の能率が上がり、学生からの質問が増えたなどの学生の受講態度改善に大きな効果が生まれているとの評価がもたらされています。
 ただし、授業をビデオ収録してからコンテンツとして仕上げて公開するまでの編集作業に最低でも3日間を要しているため、利用を広げるためには教材作成支援室のスタッフを増員することが必須と考えています。
2004年度には「e-スタジオ(教材作成支援室)」を設け、学生アルバイトも採用して対応していますが、より良い教材を作成するための労力と時間、費用対効果が大きな課題です。

(2)ポータルサイトの開設
 キャンパス内のPCから、ブラウザを起動すると、まず一人ひとりに対応した総合窓口である「KVCポータル」の画面が出てきます。そこには学生なら自分が受講している科目、教員なら担当科目の「時間割表」や「スケジュール表」「お知らせ」「学習支援サービス」などが表示され、自分に関係する情報を漏れなく的確に入手できます。時間割表には休講や補講、教室変更も表示され、受講している科目にe-Learning教材があれば、リンクボタンが表示され、そのボタンから教材をすぐに呼び出すことができます。受講科目名は科目情報にリンクされており、連絡事項や出席状況、シラバスがすぐにできる仕組みです(図2)。

図2 時間割「履修一覧」

 学生の出席状況は全教室に設置されたカードリーダ(図3)に学生証をかざすことで記録されます。その情報は翌日KVCポータルに反映され、自分で確認することができます。

図3 教室の学生証リーダ

 お知らせや行事スケジュールは、各担当部署から学年別や学部別など配信先を指定できるので、対象外の学生には配信されず、必要な情報だけが届きます。また、スケジュール表には自分の個人的な予定を追加して書き込むこともできます。
 今後はシラバスとe-Learning教材をリンクさせ、履修登録の際に視聴できるようにすること、キャリアサポートとして実施している自己発見レポートや学習カルテをKVCポータルに統合し、入学から卒業まで能力アップの過程を自己管理し、将来の進路目標に向かって進むことに役立つものに仕上げていく予定です。


4.情報システムの稼動状況

 LANとKVCの環境整備によって本学のIT環境はかなり充実してきていると考えていますが、システムの持っている諸機能を教員が十分に理解し、活用しているとは、まだまだ言えない状況です。諸機能を分かりやすくPRしていく必要があります。また、購入した教育・研究用のソフトウェアの活用状況についても検討を始めています。
 ハードウェアについては、クライアントPCの稼動時間を把握できるようにしています。また、ソフトウェアについても使用時間を把握できるようにしていますが、すべてのソフトウェアの使用時間を把握することはできていません。PC教室の利用状況は、1部(昼間部)だけで計算すると、月曜〜土曜の第1限〜第5限に合計30コマの授業を割り当てられることになりますが、実際には21コマ程度(70%)が限界であるといえます。ただし、50台のPCを備えた教室は語学の授業にも多用されており、この限界を超える利用率となっています。また、100台のPCを備えた教室も、情報の実習授業の他、時にPCを利用する一般科目の授業にも利用されているため、これも限界を超える利用率になっています。20台程度のPCを備えたゼミ用の教室は20%〜40%の利用率で、まだ有効活用に向けた工夫の余地があるといえます。オープン端末室として開放しているE館とF館の合計160台のPCは、休暇中を除けば、月曜日から金曜日の午前9時から午後9時までの時間のうち、平均稼動率は40〜50%ですので、十分有効に活用されていると判断しています。
 私学の経営環境がますます厳しさを増す中、「不良資産」に該当する設備を持たないよう、ハード・ソフトの利用状況を、今後さらに厳しく管理していこうと考えています。

文責: 大阪経済大学
情報処理センター長
経営学部助教授 山田 文明


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