教育事例紹介 保育・幼児教育

IT活用による保育実践の臨床的サポートと教材化

八木 紘一郎(白梅学園大学子ども学部教授)


1.はじめに

 本学の学内ネットワークは100Mbpsです。研究系・事務系・教育系の三つに区分できます。
 対外接続は、SINETの東京農工大ノードに100Mbpsの専用回線でつないでいます。コンピュータ室は二つあり、それぞれ48人の学生が一度に実習できる他、授業のない時間帯には自由に利用できます。コンピュータ室には「アシスタント」が10:00〜18:00(土曜日は15:00)に勤務していて、学生はネットワークやアプリケーションの利用について常にアドバイスを受けることができます。最近10年以内に建設された校舎の各教室にはネットワークの配線やプロジェクタの設備があり、ノートパソコン画面を提示しながらの授業ができます。こうした環境の中で、私の担当する授業科目で提示、使用した画像データはすべて教員フォルダに保存してあり、学生は受講内容をまとめる目的のためならば、いつでもコンピュータ室でそれらを入手することができるようになっています。
 本稿で紹介する授業は、幼稚園教諭取得を目的にした学生のための授業「メディア社会と子ども」に使用した教材ですが、他に保育士資格取得や小学校教諭免許取得系の授業科目にも使います。本学では幼児教育系の教育(養成教育)にIT活用はまだ馴染んでいませんが、ここに紹介するようなIT活用の方法を保育・教育教育に程よく取り入れて展開していく意味はあるのではないかと思っております。その実態と課題を報告します。


2.ITを活用した保育実践の臨床的サポートから教材化へ

 図1は、IT活用による臨床的サポートと教育活動との関係を表したものです。Aは、教員と保育現場の実践者の間との臨床的サポート関係で、Bは、教員と学生間の教育活動関係です。
 〔1〕は教員による作業で、A・Bについての検討分析コンテンツ化などの編集・提示作業、〔2〕は現職者のリテラシー 、〔3〕は学生のリテラシーです。

図1 IT活用による臨床的サポートと教育活動との関係

(1)コンテンツ化の作業
 〔1〕の教員は、個人情報保護への配慮も視点から、ITを活用して情報を汎用性のある臨床的サポート用コンテンツおよび教育材用コンテンツ(イラストや画像作成)に作成します。

図2 保育実践の臨床的サポート過程

【臨床的サポート用に作成したコンテンツの例】
「壊れている「つながり」(関係性)を立て直すしかない。」
〈相談内容の概略〉
「3歳児クラス。保育者として荒れているクラスだと感じ、困っている。数人の男児たちを中心に、部屋の中を走りまわり、モノを投げたり、人を叩く、蹴る、戦いごっこばかりで、保育者の話を聞けない子どもが多い状態。どうしたらいいのでしょうか。」とのこと。

 

(2)演繹的な方法と帰納的方法の双方をもって
 事例から「人間関係のつながり」(関係性)を問題にし、「受けとめ不足」が主因の荒れ状態と思われるので、紹介したような図解(図3:イラストは八木作成)と解説、対策を具体化するイラストとコメント(省略)をコンテンツにして、問題解決に対処するように伝えました。実践者とは、電子メールおよび画像、VTR、説明、研究会、対面型検討会などを繰り返しました。特にITによる情報のやりとりによって、子どもの状態や変化に、その日のうちに施す対応策を連絡できるので、ニーズに応じた臨床的サポートが実現しました。

図3 壊れている「つながり」(関係性)

 IT活用は、今日のような複雑化・多様化した保育・教育現場のニーズに迅速に対応するために有効で、なおかつ生きた知見を得るために非常に有効です。事例は遠隔地の保育現場から寄せられる相談でしたが、IT活用によって、そうした距離に関係なく、相談の内容の特徴や変化していくプロセスについて、総合的・系統的・力動的に分析・検討し、得られた知見を臨床的、学術的に生かしていくことが可能になりました。特に、事例研究を現場での現在進行形の実践を対象にすることができ、リアリティのある臨床性を非常に高めました。また、現在進行形の事例を対象に検討するので、それまで見えなかったプロセスが見えるようになりました。従来よりも実践者と研究者との臨床的な相互連携が可能になり、生きた情報が教材化に活用できるようになるのです。必要なときに相談でき、対応することができるようになって、状況変化と過程の特徴、それらへの対応の仕方についてより詳しく知ることができ、後の臨床活動に役立たせることができることで、新しい事例研究や教育活動の理論、パラダイムの見直しにもつながる可能性があります。

3.授業へのIT活用

 リアリティのある事例コンテンツは生きた教材として大いに役立ちます。また、保育・幼児の教育に、保育実践全体を時系列的に理解したり、個人の複雑な行動間の関連について、その構造を明らかにすることができるなど、多くの有用な示唆を与えてくれると思います。保育・幼児教育に関する養成教育においては、実践の臨床的サポートによる仮説生成―検証を繰り返した成果の多様な集積をじっくり溜めて、ようやく教育用教材として活用していくことができます。保育実践現場との臨床的サポート関係の構築によって、いつもホットな事例を提供することができます。保育・幼児教育系教育現場へのIT活用は、学生の理解力促進に非常に貢献していくと思われます。

4.まとめ

 しかし、課題はあります。特に汎用性のあるコンテンツを作成する技能が教員に求められます。その技能がないと、臨床的サポートも教育用教材化もできません。特に個人情報保護の観点からも生情報をすばやくコンテンツに置き換える技能は必要です。さらに、それを教育用コンテンツとして構成するメディアリテラシー、情報リテラシーとしての文法性、構文性に関するスキルアップも課題です。なかでも、画像等を使用したプレゼンテーションの構文・文法性のスキルアップ(情報リテラシーやアートリテラシーの向上)と思われます。


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