私情協ニュース4

平成17年度 情報倫理教育研究集会


 平成17年9月6日、立教大学池袋キャンパスにおいて、情報倫理教育振興研究委員会主催により情報倫理教育研究集会が開催された。参加者対象者は、情報倫理教育に関わっている加盟大学・短期大学の教職員で、49名(37大学、6短期大学)の参加があった。
 委員会では、急速に発展したインターネット社会の高度な利便性を踏まえた上で、犯罪やトラブルを回避するために、被害防止、加害防止の意識を利用者の内心に働きかけることを目的として、情報倫理教育e教材の開発を行ってきた。これまでに、多くの加盟大学・短期大学より、教材としての評価をアンケート結果として得ている。本会は、e教材更新の経緯や、授業における活用方法の向上、教員相互の連携による内容の充実化等の可能性を検討し、本協会として支援可能な事項について模索することを趣旨とした。
 具体的には、e教材2005年更新版の紹介を端緒に、具体的な活用事例の紹介や、同教材を教育目的や時事性に応じて更新していくための仕組み作りについての意見が示されたほか、全体討議において活発な意見交換が行われた。以下、それぞれの内容について紹介する。

「e教材2005年更新版の紹介」
 情報倫理教育振興研究委員会
 委員長 荒木 伸怡氏(立教大学)

 授業における活用事例や、試用についてのアンケート結果などをもとに、教材の更新を行ったこと、具体的には、スライドの切り替えを手動で行えるようにしたことや、関連資料を追加し、ハイパーリンクによって容易に閲覧できるようにしたことについての説明がなされた。

活用事例1

「情報倫理教育e教材の効果的な活用方法」
 情報倫理教育振興研究委員会
 委員 和田 悟氏(明治大学)

 明治大学情報コミュニケーション学部「情報倫理」(1年前期、必修、170〜190名程度)において、e教材を使用した目的や併用した教材、成績評価について説明がなされた。具体的には、講義内容の前提となる事柄について過不足なく伝える手段として、e教材を使用したこと、併用した教材として講義テーマに即したNHKの放送番組などを映像資料に用いたほか、インターネット協会、文化庁などが公開している資料を用いたこと、期末試験においては、知識を問うことよりもトラブルの事例を設定し、それにどのように対応するかを問う内容とし、学生に考えさせる契機としたことなどが紹介された。また、現状において映像教材を共用することの困難さについても同時に指摘された。

活用事例2

「情報倫理教育e教材の効果的な活用方法」
  情報倫理教育振興研究委員会
  委員 河合 基氏(名古屋産業大学)

 e教材の活用を考える上で、「実施時期はいつが適当か」「講義は必修か選択か」「カリキュラムにおける位置づけはどこか」「関係科目間の関連性はどう考えるか」などの要素についての考察が重要であることが指摘された。さらに、それらを踏まえ、名古屋産業大学の1年生の必修科目「環境情報技術概論」の1コマにおいて、e教材が活用された例が紹介された。そこでは、e教材をあまりコメントを挟まずに順に提示していくという方法がとられたこと、また、精神論だけでなく技術論について補足したこと、などの説明がなされた。また、成績評価の方法として、小テストとして、e教材を観る前と後で、あるケースに対してどのように意識が変化したかや、講義を通して得たものは何かを問うたことが報告された。さらに、今後の課題として、教員集団に働きかけ意見を集約し、教材の更新のためのデータとして提供していくことや、e教材を調整の軸として情報系科目間の内容の連携を図っていくことなどが挙げられた。

課題提起

「教材更新のための仕組み作り」
  情報倫理教育振興研究委員会
  委員 中西 通雄氏(大阪工業大学)

 e教材は、各大学・短期大学のカリキュラムに合わせて更新もしくはカスタマイズしていく必要がある、という問題提起がなされ、具体的な方法論や課題についての説明がなされた。その中で、教員にとって使いやすい教材にしておくためには、教員の意見を集約することが重要であり、成功事例や失敗事例をノウハウとして蓄積し、Webなどで閲覧可能にして、意見交換を容易にする場が必要であるとの見解が示された。また、教員によるe教材の改変が可能となるように、権利関係を見直し、明確化して、それぞれが改変版を相互に提示しあえる環境を実現することが望ましい、との提案がなされた。さらに、情報倫理教育に役立つリンク集などを情報として共有できるようにするなどの工夫や、様々な学会や研究会において、e教材の活用事例を報告していくことが、e教材の普及ならびに更新を活発にするものであるとの意見が示された。

全体討議

「情報倫理教育の教育効果を高めるための対応策

司 会 情報倫理教育振興研究委員会
委員 高辻 秀興氏(麗澤大学)
パネリスト 荒木 伸怡氏、和田 悟氏、
河合 基氏、中西 通雄氏

 休憩時間に参加者より質問事項を採取して取りまとめ、それをもとにディスカッションを行った。参加者からは、情報倫理という言葉の「倫理」についてどう考えるかということや、情報倫理教育の内容の組み立てをいかに考えるかなどの質問のほか、パネリストが紹介した授業方法についての質問が見られた。
 パネリスト側からは、情報倫理教員の基本的な枠組みとして、「倫理・技術・法律」を柱とする意見が出された一方、情報倫理とは内在的な制約に基づく行動規範であるとし、重要なのは「倫理・技術」であるという考え方が示された。また、社会に貢献する人材の育成という立場から、人格形成という意味合いもあるということが指摘された。

情報倫理教育e教材の概要
http://www.juce.jp/rinri2005/e-rinri2005.html
文責: 情報倫理教育振興研究委員会
委員  伊藤 穣(跡見学園女子大学)

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