教育事例紹介 薬学

グループによるプレゼンへの取り組みと他大学・医療現場との遠隔授業の試み


佐藤 憲一(東北薬科大学医薬情報科学教室教授)
川上 準子(東北薬科大学医薬情報科学教室助手)
星 憲司(東北薬科大学医薬情報科学教室助手)
岩谷 香寿美(東北薬科大学医薬情報科学教室副手)


1.はじめに

 医療系はコンピュータ&ネットワーク活用の重要性が高い分野の一つであり、薬学系では中心が医薬品ですので、ものすごいスピードで新薬が開発される現在、医薬品情報のデータベース活用・作成をはじめ、分子構造と活性の関係、生体内での薬物動態など、コンピュータも高度に活用しないと、理解そのものや臨床現場での的確な対処も十分には行えないでしょう。忙しい日々の医療現場において、患者へのアナログ活動を充実させるのにも、前提としてデジタル活用能力の充実が望まれます。EBM(Evidence Based Medicine:科学的根拠に基づいた患者にとって最も害の少ない有益な治療法)に根ざした効果的な医薬品選択、副作用対策も統計ソフトを使った実践的なトレーニングなしでは不十分であり、薬学6年制のスタートした今後、医療現場と大学をネットワークで結んで緊密に情報交換する必要性が急激に高まっているのではないでしょうか。
 東北薬科大学は仙台のほぼ中心部に位置する、開学70周年を間近に控える薬学系の単科大学であり、2006年度からは6年制の薬学科と4年制の生命薬科学科が併設され、大学院博士課程までの全学生数は1,700名ほどになります。

2.情報教育環境の構築と利用

 情報科学センターでは160台のPC端末を備え(PC端末80台×2部屋)、柔軟な画面転送システムとカメラを使用して一体となった運用が可能です。ファイル、電子メール、Web、データベース、プリンターの各サーバも高速ネットワークで端末PCと円滑に接続されています。センターでは「情報科学」や「統計演習」のすべて、「独語」、「有機化学」、「生化学」、「医薬品情報学」、「放射薬品学」、「物理化学」などでは半期の授業で1〜2回、また「有機系、医療系」実習の導入講義でと、各種アプリケーション・インターネットを使って授業が展開されていますが、いずれの場合も教師画面の全端末への転送システムが大活躍しています。目の前の画面で詳細な部分までしっかり確認できる画面転送は、離れた場所のスクリーンに投射されたプロジェクターの映像を見るより集中力が維持しやすい点で優れていることが実感できます。

3.グループによるプレゼンテーションへの取り組み

 2002年4月からのセンター拡充により2端末室連動による学科単位(約140名)での授業が可能になったことを機に、「情報科学II」の授業内容の一つとして、受講者を8名ごとの50グループに分けてプレゼンテーションに取り組んでいます。授業のコマ数は3回を予定して、1回目はテキストと教材に基づくスライド(PowerPoint)作成のトレーニング、2回目はグループごとに情報収集を開始し、発表内容やスライド作成の分担を打ち合わせます。それ以降の作業はすべて自由時間を利用して、スライドを完成させ、リハーサルまで行います。3週間後の3回目のプレゼン授業が発表会で、各グループは5分の持ち時間でスライドを画面転送システムにより全端末に映しながら発表します。アニメーションや音声を効果的に使いこなすグループも多く、「制限時間内にいかにポイントを分かりやすく説明するか」、プレゼン発表は学生にとり楽しくもあり、緊張も強いられる有意義な体験のようです。

写真1 プレゼンテーション発表会風景

 テーマは情報関連、医療・薬学関連をはじめ、一般的なものまでの広範な30個ほどに及びますが、「コンピュータ・インターネット犯罪 」、「インターネットでの通信販売」、「遠隔地医療とインターネット」、「ワクチン接種と食物ワクチンへ」、「外国における薬剤師の職務権限と仕事内容」、「日本で作られた画期的な薬」、「チーム医療と薬剤師の役割」などの発表が多く、視聴する側も非常に勉強になるようです。今年度は発表会での質疑応答を強く推進したところ、発表会が授業2回分に延びてしまいましたが、多くの学生が質問を行い活気に満ちた発表会になりました。

4.他大学・医療現場との3地点を結ぶ遠隔授業

(1)2地点を結んだ遠隔授業(大学間)
 2004年度に京都薬科大学(情報処理教育研究センター:深田守先生、京都)と本学(仙台)を繋ぎ、情報の授業の一環として初めての遠隔授業(交互に双方の授業配信、質疑応答など)を行いました。遠隔中継にはTV会議システム(PolycomVSX7000)とMedia Encoderを用いており、当日は両大学ともスタッフ3〜4名とTA数名が進行、カメラワーク、記録などで慌しく活動することになります。現在は、両校の時間割の枠内で行っていますので、中継できる時間帯や学年の制約(東北薬科大:1コマ70分、2年生;京都薬科大:1コマ90分、1年生)もありますが、多くの学生には好評なようであり、「今回のネットワークを利用した遠隔授業を通して、1,000kmも離れているのに一緒にいる感覚で交流ができた。また、遠隔地医療の有効性も確信できた」とか「薬剤師になるという同じ目的をもった人達が遠く離れたところでしっかりと勉強している様子をすぐ側にいるような感じで見ることができ、会話を通してすごくしっかりしていたので、自分達も頑張らないといけないと大きな刺激を受けた」といったように、学生の意欲向上に貢献できるように思われることが、スタッフにとっても励みになっています。特に、前節で紹介した学内でのプレゼン発表後に遠隔授業の中でも二つのグループがプレゼン発表し、相手校の学生達との質疑応答を行った際には、「鋭い質問をするので感心した」、「発表の準備をもっとやっておくべきだったと反省した」など、学内だけでの場合と比べて、学生に与える影響ははるかに大きいように感じられました。
(2)3地点を結んだ遠隔授業(医療現場−大学)
 昨年度より、医療現場の協力をいただいて、3地点を結んだ遠隔交流にも取り組んでいます。以下では本年6月に行われた社団法人 日本薬剤師会中央薬事情報センター(林課長ほか4名、東京)〜京都薬科大(京都)〜本学(仙台)(3地点ともTV会議システム:PolycomVSX7000を使用)を結んでの遠隔授業について紹介します。当日は、TV会議の画面に3地点を表示し、両大学から挨拶を行った後に、中央薬事情報センターからの講演を、既に配布済みのプリント資料も見ながら、学生が拝聴させていただきました。

写真2 遠隔授業で講義を受ける学生

 講演は「日本薬剤師会とはどんな組織か」、「中央薬事情報センターの仕事」について簡単に紹介後、「日本薬剤師会の電話薬相談の紹介」について講演していただき、次いで両校の学生との間で「質疑応答」が行われました。3コマの遠隔交流を連続して行ったため、他の2クラスに対してはそれぞれ、日本薬剤師会で取り組んでいる「DSU解説の紹介」、「薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイド」についてお話しいただきました。日常活動の中で、患者さんや医療関係の方々との交流が深い組織の方による生の情報が多く盛り込まれた内容であったので、「どういう患者さんが電話相談してくるか」や、「最近は、インターネットの普及で質問内容が高度であるため即座に回答できないことも多い、そのような時にどう対応すればよいか」といった内容に学生は引き込まれ、熱心にメモを取りながら聞いていました。実は、学生だけではなく教員にとってもたいへん勉強になることが多く、熱心に遠隔交流に協力していただいた中央薬事情報センターの先生方には感謝しきれない思いでした。
 3地点を結んだ遠隔交流では、2地点交流と比べ、「全体進行の中心となる人を決めておく」ことが円滑な進行には大切であり、「画像の解像度が落ちてしまう」といったマイナス面もあります。準備にもいろいろと時間がかかり、多くの方々の協力も欠かせません。それらの苦労があっても我々を遠隔交流に駆り立てるのは、多くの学生達の(学内の授業とはまた違った感じの)目の輝きです。遠隔交流により、実際に訪れることは難しい医療現場との交流や、100名以上の学生を一度に相手してもらうことも可能になり、「学生達は現場との交流をフィードバックして、大学時代だからこそ可能なしっかりした卒後活動に向けた土台作りの学習に反映させていく」のでないかと密かに期待しつつ、少しでも満足感が得られればと考えています。
 遠隔授業後に学生の書いた感想と意見によれば、「林先生の話を聞いて、患者のことを一番に考えられる薬剤師になりたいと思いました」と受け止めた学生もおり、医療人としてのあり方を考える機会としてとても役立っているようです。薬学系も6年制が始まりましたが、医学・歯学分野と比べて学生数がかなり多いという問題もあります。インターネット環境がかなり充実した昨今、今後は大学全体での組織的な、他大学や医療現場との遠隔交流への取り組みが期待され、また有用であるものと確信しています。


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