教育事例紹介 薬学

TDM教育のためのサイバーキャンパスシステムの構築

松山 賢治(武庫川女子大学薬学部教授)


1.はじめに

 平成18年度より薬学6年制がスタートしましたが、この中で6ヵ月の卒前実務実習は新制度の大きな特徴です。この6ヵ月の卒前実務実習は、1ヵ月の大学内の事前実習、2ヵ月半の薬局実習、同じく2ヵ月半の病院実習から成り立っていますが、最大のポイントは1ヵ月の学内事前実習でしょう。事前実習のカリキュラムとして、「錠剤」、「散剤」、「水剤」、「軟膏剤」の基本調剤は従来どおりで問題はありませんが、薬局へ来店した患者への患者接遇、ベッドサイドでの患者に対する服薬指導、コミュニケーションスキル、薬物血中濃度をもとに薬物投与量や投与間隔を最適化するTDM(Therapeutic Drug Monitoring)などに関しては、新しい薬学領域であり、各大学ともに実務家教員の力量に頼っているのが実情です。
 今回、私立大学情報教育協会を中心に、「新しい薬学領域」に関する標準化のためにIT教育教材を作成することになり、本稿ではITを用いたTDM教育のためのサイバーキャンパスシステムの構築について述べます。

2.薬学部−現職薬剤師−4年次学生のトライアングルから構成されるTDMサイバーキャンパスシステムの構築

 武庫川女子大学では、9年前から現職薬剤師を対象とした職能拡大のための社会人大学院を開設し、その実習において、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)用の抗菌薬であるバンコマイシンのTDM教育を行ってきました。この間、大学院学生の所属する病院において、バンコマイシン投与後のMRSA患者血液を持参させ、TDxアナライザーによる測定サービスを提供するとともに、我々が開発したWindows用コンピューターソフト「PEDA」を用いた最適投与計画作成実習を行っていました。その後、近隣の中小病院の薬剤師にも対象を拡げ、血中濃度の測定サービスとTDM教育を行いました。
 一方、4年次学生は、クラス単位(約50名)で、臨床薬学教育センターの65台のコンピューターを用いたコースウェア方式のTDM教育を行ってきました(写真1)。

写真1 65台のコンピュータを用いたコースウェア方式のTDM教育

 この間、本学のTDMソフト添付のテキスト、「PEDAによるTDMの実際」を、じほう社より出版するに至り、全国からTDMやバグに関する問い合わせが殺到し、最新の改良プログラムを本学のホームページに掲載するようになったことが、今回紹介するTDMサイバーシステムの端緒でした。TDMサイバーキャンパスシステムは図1に示すように、地域薬剤師、夜間大学院生、学生のトライアングルから構成されます。病院薬剤師は実際の臨床データ解析のため、夜間大学院生や4年次学生は実習課題をレポートにまとめる際の手段として、各自が地域、自宅からこのシステムにアクセスし利用できます。従来の対面教育とこのITシステムを組み合わせることにより、TDM教育をより堅固なものとします。

図1 TDMサイバーキャンパスシステム

3.TDM解析の方法

 TDM解析ソフトは「PEDAによるTDMの実際」(じほう社)に付録のPEDAプログラムをインストールして利用できます。また、最新版プログラムは武庫川女子大学薬学部の臨床薬学教育センターのホームページ(http://ph2.mukogawa-u.ac.jp/~rinsho-c/)にアクセスし、 TDM のボタンをクリックすることによりダウンロードできます(次ページ図2)。この解析ソフトPEDAを使用すれば、バンコマイシン、アルベカシン、テイコプラニン、フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸、テオフィリン、ジゴキシンの薬物について簡単に解析することができます。
 まず、例題の薬物血中濃度をもとに、PEDAを用いた音声付きTDMガイドソフトを立ち上げます。同時に解析用PEDAソフトを立ち上げ、2画面の状態で、ガイドソフトを聞きながら、実行したい薬物の血中濃度に関して解析ステップ毎に一時停止しながら、順次、実際に解析したい自分のデータを入力していきます(図3)。このようにTDMガイドソフトとPEDA解析ソフトを併用しながら、TDMを実行できるようなります。

図2 臨床薬学教育センターのホームページ
図3 TDMガイドソフトと解析用ソフトを立ち上げた2画面の状態

 最終的には、図4に示すように、現在の血中薬物濃度の状態と、最適化した投与量、投与間隔での予想血中濃度推移を示し、医師に投与量、投与間隔の変更を考えてもらう資料とする文書を作成し、終了します。

図4 推奨投与量、投与間隔での予想血中薬物濃度推移

4.おわりに

 上述したように、薬学6年制における教育において、実習の占める割合は極めて大きくなります。中でもテーラーメイド薬物療法としてのTDMは、新しい薬学教育の中軸となるものですが、全国的にTDMを教えられる教員は数が限られているのが実情です。そのような状況下、これらの教育を効果的に行うためには、熟知した教員の手による音声、映像、コンピュータ操作を一体化したIT教材が極めて有効です。本教材が薬剤師の臨床における活躍の場を広げてくれることを期待しています。


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