特集 教育改善のための教育・学習支援

教育支援室における「教育研究支援・自律学習支援」の取り組み〜獨協大学〜


篠原 幸喜(獨協大学教育支援室)


1.はじめに

 獨協大学は、1964年、初代学長天野貞祐の「大学は学問を通じての人間形成の場である」を建学の理念とし、日本の教育界に一石を投じることを目指して開学した。学生数は約9,000名であり、外国語・経済・法および2007年4月に開設される国際教養学部を加えた、4学部8学科で構成される。本学では外国語教育環境を基盤とし、さらにIT基盤を活用したグローバル・リテラシー(国際的対話力)の養成、情報リテラシー教育によるコンピュータスキルの獲得、さらに教員と学生が真にコラボレートできる授業環境の改善・充実など、教育の今日的課題を踏まえた様々な工夫と実践を重ねている。その一端を担うのが「教育支援室」である。本稿では教育支援室の開設に至る経緯、支援機能、今後の計画などについて報告する。

2.教育支援室の取り組み

(1)設置の目的と経緯
 1998年、本学における情報システムの整備計画を策定するため「次期システム検討委員会」が設置された。委員会では「情報機器の導入」から「活用の推進」を目的に、同年と翌年の2年間にわたって「実験授業・実験研究」を実施した。この結果、委員会は「教育・研究へのIT化を促進するには大学内に支援組織を設置することが喫緊の課題である」との報告書を学長に提出した。また、2000年に設置された「21世紀委員会」も「大学が教育サービスを行うには、教員の活動と共に、教育・学習を支援する職員の役割が極めて重要である」と提言した。教授会は、両者の指摘を受け「教育・研究へのIT活用を促進し、総合的にこれを推進するための仕組みとその有効な運用を担う組織」として、2002年6月に「教育システム化推進準備室」の開室を決議した。教育システム化推進準備室は、その後2年間の着実な実績を経て、2004年からは「教育支援室」として改組され、全学に向けた本格的な運営を開始した。

(2)教育支援室の体制
 2006年3月までの体制は、室長(専任教員)1名、事務責任者(専任職員)1名、プロデューサー(専任職員)1名、コーディネーター(外部委託)2名、ヘルパー(外部委託)4名、TA10名、SE1名、合計20名であった。
 2007年4月からは、図書館や研究所の機能を兼ね備えた新棟「天野貞祐記念館」に移転する。この移転に併せて学内の教育支援体制の見直しが行われ、教育支援室は新規業務として「天野貞祐記念館に新設されるCAL教室および図書館PCのサポート」や「既存の一般教室AV機器操作サポート・障害対応」などを担当することになった。この業務拡大に伴い体制も次ページ図1のように強化された。

図1 教育支援室体制図(2007年度)


3.教育支援室の業務内容

 いずれの大学においても直面している課題として、学生側の「基礎学力低下、自己表現力の欠如、知的意欲、目的意識の希薄化」や、教員側の「授業への工夫不足、学生のニーズや能力の認識不足」があるのではないだろうか。特に講義における学生のニーズや反応が得られないことから、教育内容の毎回の調整に当たって焦点を絞ることが難しく、結果として内容の改善が図られにくいことは、最大の課題の一つである。
 教育支援室は、こうした大学教育を行う上での課題を解決するため、ハードウェア、ソフトウェア、そして人的サポートを総合的に組み合わせたサポートを行っている。具体的な教育研究支援、自律学習支援を以下に例示する。

(1) 講義支援システムの運用サポート
 講義支援システムは、本学が独自に開発したLMS(Learning Management System)の一種である。本学では「システムに教員が合わせるのではなく、教員に合わせたシステムを開発するべきである」という方針のもと、2000年度から講義支援システムを開発し、運用してきた。2007年度からは、これまで蓄積されたノウハウを反映させ、よりセキュアに、より使い勝手を向上させた新システムへ移行する。講義支援システムの主な機能は、図2の通りである。

図2 講義支援システム概要図

(2) 授業レポートシステムの運用サポート
 本学では、大学全体の自己点検活動として授業評価アンケートを行っている。しかし、全学的なアンケートでは設問が定型的であり、また学期末にしか実施されないなどの制約がある。授業レポートシステムは、そうした問題を解決し、教員がいつでも授業改善につながるアンケートやレポートを実施、回収、集計を行えることを目的として開発された。授業レポートシステムの特徴は、以下の通りである。
教員は、Web上でアンケートを作成し、自由に質問項目や課題を設定することができる。そのため、授業内容や理解度を問うアンケートとして使用したり、授業毎の小テストとして使用したりするなど、利用用途を自由に選ぶことができる。また学生のデータの閲覧や、コメントを付与することができる。
学生はWeb上で自分の回答内容の確認すること、教員が付与したコメントを閲覧することができる。
アンケートは普通紙で作成するため、Web上のアンケートなどと異なり教室設備に依存せずに実施できる。回収したアンケート用紙は、スキャニング時にOMR処理とイメージ処理が行われる。OMRでは、学籍番号の集計やアンケートの統計処理を行う。イメージ処理では自由記述部分の回答が、画像データとしてデジタル化される。

図3 授業レポートシステム概要図

(3) 全学共通カリキュラム支援
 本学では2003年度に全学的なカリキュラム改革を行った。特に教養ある国際人を育成するため、従来の教養科目という枠や専門科目の枠にとらわれない、より学際的な観点で授業科目を再編成した「全学共通カリキュラム」を導入した。全学共通カリキュラムにおいては、学内外の人材を講師に招くことが多く、教材の作成や配布、さらに機器の仕様上とりわけ学外の講師にとってインターフェースが悪いことがある。しかも特定の授業や授業の中でも特定の回に支援を集中させなければならないなど、マンパワーの問題もしばしば生じる。教育支援室は、こうした問題を解決するために人的支援(教材作成、教材配布、機器操作支援等)を行い、学外から招いた講師から好評を得ている。

(4) 教材作成支援
 教員は、教育改善に対するアイデアを持ってはいるものの、それを実現できるスキルや環境の問題から、教育改善や教材作成をあきらめることが少なくない。そこで教育支援室は、教員の持っているアイデアを具現化し授業で活用するために、技術的な相談・サポート窓口を設置し、アイデアを教材などのシステムに「翻訳」する支援を行っている。必要に応じてハードウェア・ソフトウェアの整備を行い、専門の技術スタッフがシステムや教材の開発を行う、といった総合的な授業支援の環境を整備している。

(5) 情報機器貸出
 学生の自律学習を促進するための取り組みの一つは、機器の貸出である。貸し出している機器は、ノートパソコン、プロジェクター、デジタルビデオカメラ、デジタルカメラ、PHSカード、などである。
 貸出期間は、機器によって異なるが、基本的に学生2泊3日、教職員は1ヶ月である。貸出期間中は、自宅に機器を持ち帰って利用することも可能である。そのため、ノートパソコンの貸出稼働率が非常に高く、人気のサービスとなっている。

(6) 広報活動
 教育支援室の活動は、学内の既存組織との明確な区別がなく、利用者からはその業務内容がわかりづらいとの評価があった。そのため、様々な手段で教育支援室の活動を周知してきたが、特に効果が高かったのは、教育支援室ニュースの発行である。教育支援室は紙媒体で年に10回程度の割合で発行される。対象は全教員である。内容は教育支援室のサービスの紹介や、教材作成などに役立つ情報などで構成される。教育支援室のバックナンバーを片手に教育支援室を訪れる教員が増えており、その効果は高いと考えている。


4.おわりに

 教育支援室は、日々の成果を検証しつつ、さらなる教育成果の質的向上を目指して、活動内容を進化・発展させるため組織をあげ努力を続けている。教育現場は、教員の個性、科目の特性、受講生の既習状況、受講生数などの様々な条件で、まったく異なる状況となる。本学の教育支援室の取り組みは、組織的であるにもかかわらず個別対応型を原則としており、教員それぞれのニーズに合わせた支援活動である。教育支援の実践活動と成果は、今後全学の教員が個性ある教育改革を実現しようとする際の必須条件になると認識している。
 また今後は、天野貞祐記念館の完成を機会に、図書館、外国語教育研究所、情報センターの連携を強化し総合的な立場から学習環境を改善する計画が進められている。この三機関の連携を効果的に実現し、新たな教育・研究支援組織の設置について検討するため、2007年1月に「教育・研究支援体制の整備に関する検討部会」が設置され、先進的な支援体制の構築を目指していくことになっている。


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