特集 大学教育への社会の期待

社会が求める人材の育成について
〜株式会社 日立コンサルティング〜


関 穣(株式会社日立コンサルティング PCドメインディレクター)


1.「大学とは何業か?」

 私は大学関係者に会うと、必ずこのような質問をする。大半の方は「教育サービス業」と答える。確かに、大学は教育を受ける学生からの収入で成り立っており、「教育サービス業」というのは正しい答えだが、ここに、大学が社会が求める人材を育成できない、根本的な理由があると考える。
 批判を恐れずに言うが、「大学は製造業」だ。大学は“人材“を創出する製造業、という考え方を持つことが、社会が求める人材を創出するためには重要と考える。大学を製造業ととらえると、顧客は社会であり、意識すべきは社会の声となる。
 大学を「製造業」ととらえ、社会(=顧客)が求める人材をどのように育成すべきかについての考えを記載する。


2.社会が求める人材像

 若干古い調査結果だが、「若年者の就職能力に関する実態調査(2004年、厚生労働省)」での、採用時に重視する能力のトップ10は、1)コミュニケーション力、2)基礎学力、3)責任感、4)積極性・外向性、5)資格取得、6)行動力・実行力、7)ビジネスマナー、8)向上心・探究心、9)プレゼンテーション力、10)職業意識・勤労観とある。
 基礎学力、資格取得以外、知識やスキルとは異なる能力が上位を占めている。これらは「知っている」、「できる」ではなく「やっている」ことを問う能力と整理できる。私はこれらを『実践的応用力』と呼んでいる。「理論や知識等を活用し(応用)実際に行動する(実践)力」という意味である。ちなみに、経済産業省では、これらの能力を『社会人基礎力』と呼び、12の能力を定義している。


3.実践的応用力を育成するためには

 実践的応用力は、知識やスキルと異なり、座学で身に付けさせるのは困難である。座学では、「知っている」、「できる」という状態にすることはできても、「やっている」という状態にすることは難しいからである。実践的応用力を身に付けさせるためには、実践の場を学生に提供することが重要となる。昨今、大学にて取り組まれているプロジェクト学習は、まさに実践的応用力を育成するための教育プログラムといえる。
 場の提供に加え、次の3点を考慮することが実践的応用力の育成のために重要となる。
(1)目的意識の醸成
 社会で活躍するために実践的応用力が必要なことを学生・教員に十分に納得させる。
(2)評価軸の定義
 点数や資格としての結果が見えにくい実践的応用力を継続的に育成・習得しようと学生や教員が行動するためには、学生・教員の共通言語としての評価軸の設定が重要(民間企業の人事評価手法の一つであるコンピテンシー評価の考え方が適用可能(某大学で試行済み))。
(3)学外での実践の場の提供
 4年間という時間の中で、学内生活の時間は残念ながらごく一部。そのため、学内だけで実践の場を提供するだけでは不十分であり、学外での活動も実践的応用力の育成機会ととらえ、大学としてサポートしていくことが必要。


4.産学連携での実践的応用力育成

 最後に、実践的応用力の育成に向けた産学連携の試みを提言したい(図1参照)。
 前述のとおり、実践的応用力を育成するためには、社会との連携は不可欠であると考える。例えば、実践的応用力の評価指標を、大学(学生・教員)との共通言語として採用の際に活用する、学外での実践の場を提供する等、産学連携で実践的応用力の育成に取り組むことで、一大学としての取り組みでは限界のある実践的応用力の育成を、さらに強固なものとすることができると考える。
 本来的には我が国全体として取り組まなければいけない活動だと考えるが、まずは小さなコミュニティでもこのような産学連携の動きを実施していくことが必要ではないかと考えている。

図1

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