特集 大学教育への社会の期待

高度ICT人材を育成するための大学でのPBLの適用
〜株式会社 FUJITSUユニバーシティ〜


西川 忠行(株式会社FUJITSUユニバーシティ クロスファンクショナルグループプランナ)


1.はじめに

 今後のIT業界を牽引していく高度ICT材の育成が急務であり、その中でITアーキテクト分野の人材は、システム構築の上流を担う人材である。システム構築の上流工程では、技術を背景として顧客要件をくみ取り、顧客へのソリューションを提案する。他方、顧客要件そのものも、あいまいである場合や、立場によって要件が異なる場合があり、要件を一つにまとめあげることさえも難しいとされている。技術力に加えて、顧客への説明、折衝などコミュニケーション力も必要とされている。
 ITを専門とした学生に対してこのような上流工程を疑似体験的なPBL手法を用いた教育コースで実証実験を行った。学生には、ITアーキテクト技術者の本来的な職務の一部を擬似的だが体験してもらい、職域の広さを認識してもらえたと思う。本稿では、このような教育を大学で継続的に実施していく上での課題と対応について述べる。


2.PBLを大学で実施する難しさ

 PBLは、実プロジェクトを行うのが理想的である。企業では、OJTとして実際のプロジェクトを若手が先輩の指導を受けつつ実施する。このようなPBLを大学で行うためには、1点目は教材探しである。教材探しのポイントとして1)から3)が考えられる。1)学生の数(グループの数)だけ教材を探してこなければならない。2)ビジネスの内容。学習期間にあった規模であるか。3)顧客からの条件。納期、品質、難易度が学生のスキルで対応できるか、という点である。以上の条件を満たす教材を実ビジネスから探し出すには、企業の協力を得てもなかなか難しいのが現状である。準備だけで大変な手間がかかる。その上、毎期続けていく困難さは相応のものである。
 2点目は、指導者を探すことである。指導者として、その分野に精通した人材が必要になる。通常、考えれば、ビジネスを提供してもらった企業から指導者の派遣も仰ぐことになるが、現場の人材は、自社内の人材育成さえもままならない状況で、大学で指導するまでの余裕はない。
 そこで、疑似体験型のPBLでの学習が現実的になる。モデルは、固定的なものになるのは、やむをえないが、テーマを探す難しさ、実ビジネスに伴うリスクは避けられる。しかし、指導者(講師)の確保は同様に課題になる。


3.PBLでの講師の重要性

 PBL特有の講師の条件がある。まずは、現場経験である。そのPBLで扱う事例の経験者か、その事例をはじめ多くの事例を熟知したベテラン講師であること。受講者主導で演習を進めるにために、受講者の議論を講師の経験(実務でその事例を扱った時にどのような検討がなされたか、課題は?悩んだ点は?・・・等)と比較しつつ、受講者を観察し、状況を察知し、議論の方向性がぶれた場合、修正しなくてはならない。
 次に講師スキルである。従来、講師は教えるのが主務で、講師主導で授業は進められた。しかし、PBLでは、学生主導で学習を進める。プロジェクトを進めていく上での課題に自分で気づき、自分で解決する。実務に近い演習とするならば、例えば提案書を作成した場合の上司レビュー、顧客プレゼンテーションなどの場面を想定する。講師は上司や顧客になりきって、コメント、クレームなどを通して指導を行う。提案書の内容だけでなく、プレゼンテーション力、説得力、など幅広い能力を評価し、実務に近い場面設定の中で指導することが必要になる。


4.大学の先生方と企業側講師の連携

 今後、PBLのような受講者主導の教材が順次、企業から提供される。企業側で講師をできる人材が少ないのは現実であり、実務経験者を講師として育成しなくてはならない。
 他方、PBLといえども、実務的な部分もあれば、その背景には、原理原則的な部分もある。それらを大学の先生と企業の講師で分担をすることで、教育の品質向上と、講師不足の解消に結びつけることができる。
 そのためにも、まずは、産学共同で教育を実施していくという意識あわせが必要である。


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