特集 大学教育への社会の期待

人材育成における大学教育への期待
〜株式会社 内田洋行〜


三宅 泰次郎(株式会社内田洋行 人事部研修担当課長)


 当社は『教育分野』『環境分野』『情報分野』の3事業分野を持ち、創業97年を超える企業であるが、現在、『第2の内田洋行の創設』に向けて変革にチャレンジしている真最中である。
 我々が目指す姿は、従来から提供してきた『学ぶ場』『働く場』『集う場』という『空間』に『情報』を融合させた『ユビキタス・プレイス』をお客様と共に創り上げ成長のお手伝いをしていく企業である。変革にあたっては当然ITが重要な位置を占め、2種類の『IT人材』が活躍しなければならないと考えている。一つは、コンピュータ技術者に代表される、ITによる価値創出・価値提供を行う人材であり、もう一つは、情報の利活用を通して各持ち場で価値を創出する人材である。後者は、全社員を意味することから、当社では一定レベルのITスキルは、日常の職務遂行上また変革推進上欠くことができず、全社員がこれを保持することが求められている。
 当社のITトレーニングは新入社員研修からスタートする。新入社員研修は営業職・技術職・スタッフ職などの職種を問わず全員共通カリキュラムで55日間前後実施するが、うち20日間程度をITトレーニングに充てている。以下はその概要である。

  カリキュラム 目  的
当社におけるIT活用 会社の仕組みとITの結びつきを理解する
コンピュータの基礎 コンピュータの構成要素やデータの処理を学ぶ。
ネットワーク ネットワークの基本的な知識と、インターネットの仕組みを理解する。
データベース Accessを利用してデータベースの考え方と利用目的を理解する。
セキュリテイ インターネットに接続する際に潜むリスク、脅威を理解し、セキュリテイ対策の手段を知る。
ソフトウェア 現場で使用するアプリケーションの利用方法を身につける。

 配属後は、各部門における新人育成プログラムに委ねられることになるが、コンピュータ技術者として配属されたものは専門的なITトレーニングを最低7ヶ月以上に亘って続けることになる。
 コンピュータ技術者たることを期待されている者には、大学でしっかりと専門的な情報分野の学術を身につけてきてもらいたいのは言うまでもない。そして、すべての大学卒業生には、大学で身につけたアカデミック・スキルをITの上で存分に駆使できるようしっかりと基礎的な力を身につけてきてほしい。つまり、大学教育に最も期待したいのは、極めて常識的ではあるが、『正しく考え、正しく感じる力』の強化、アカデミックなスキルの強化である。学問を通して身につけるべき、「多面的な物の見方・考え方」、「地道で粘り強い思考力」、「仮説を構築し検証する姿勢」、教授や同級生との交流を通して培われるべき「対人感受性」、「状況感受性」、そして「判断の基幹となる価値観の重要性を理解しこれを確立しようと努力する姿勢」などが、明らかに不十分なまま社会に出てくる人たちが散見される。
 このような力は企業人に求められるコア能力であり、当社が変革を推進していく上でもなくてはならない能力であると我々は考えている。
 このような能力こそ、生き抜く上で、仕事をしていく上で最も大切な力であることを教えていただきたい。これらを学問への精励を通して養うことが学生の本務であり、大学教育の場がこれを養うに如何に貴重な機会であるかを教え、指導していただきたい。
 『正しく考え、正しく感じる力』は生涯に亘って啓発していくべきものであることは言うまでもないが、20歳代前半におけるその素養の有無は、容易に縮まらない大差であり、企業人としての成長に大きく影響するのである。


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