教育支援環境とIT

京都光華女子大学におけるIT環境とその活用
〜IT教育から教育のIT化へ〜



1.本学の概要

 本学は現在、文学部・人間科学部(2008年度、「人間関係学部」より名称変更予定)・短期大学部の3学部から成ります。在籍学生数は2,212名、専任教員数は82名です。この3学部の教学を支える原点にあるのが、建学の精神に基づく教育理念です。それは「仏教精神に基づく教育」と「女性を大切にする教育」に集約され、校訓「真実心」に象徴されます。具体的には、思いやりと奉仕の精神、明朗・快活な心、真理の探究と誠の心、平和と平等の心、を育んだ学生自身が各自、品性と知性の光り輝く、自立した21世紀を生きるにふさわしい女性に成長することを目標にしています。この未来に向けての遠大な理想追求の理念のもとに、学生一人ひとりの人間形成と専門教育に、熱き情熱を不断に傾注し、実践するのが本学の教育目標であり、使命です。
 文学部は日本語日本文学科および国際英語学科(2008年度、「英語英米文学科」より名称変更予定)から成ります。人間の作り上げてきた文化的な営みについて学び、そこから人間の営みに広く目を向け、人間の心や生き方について深く考えることを教育理念としています。人間科学部は人間関係学科、健康栄養学科(2008年度、「人間健康学科」より名称変更予定)から成り、「実学教育」と「女性のエンパワメント」を理念としてそれぞれの専門分野を学び、社会の一員としてその発展に貢献できる人となることを教育理念としています。短期大学部はライフデザイン学科とこども保育学科から成り、人としての可能性を追求し、充実した人生を歩むことができる女性の育成を目指しています。
(以上、本学ホームページおよびホームページに公開されている資料より改編)


2.本学のIT教育と教育のIT化

 本学では短期大学(現短期大学部)で、1986年にIT教育を開始しました。パソコン教室1室を準備して、ワープロ、表計算、データベースを主としたOA教育を始めました。1991年には「情報教育センター」を設立し、この時点から、IT教育に加えて教育のIT化に取り組むようになりました。本学では現在、学生サービスを含めて広い意味での教育のIT化を課題として取り組んでいます。その中核をなすのが情報教育センター(以下、センター)です。センターには五つの実習室と二つの自由利用コーナーがあります。学内LANは1Gbpsまたは100Mbpsで、インターネットとは100Mbpsの回線で接続されています。コンピュータの配備、インターネットへの接続、学内コンピュータネットワークの整備、各種の教育・学生サービスシステムの整備など、IT教育と教育のIT化に必要な環境は十分に整備されています。センターは、このような環境の提供とIT教育および教育のIT化における支援を行っています。
 本学のIT教育には、すべての学科を対象としたIT基礎教育と、IT関連の学科で提供されるIT専門教育があります。IT基礎教育は 「導入教育」の一環として実施しています。教育のIT化にはまず、教育を受ける学生にコンピュータおよびコンピュータネットワークを「活用する」能力を習得させる必要があります。社会に出て必要となるリテラシーとしてだけでなく、本学で学習するために必要な知識・技能の習得として位置付けています。
 IT環境を利用した教育も進んでいます。その一つは語学の授業におけるCALL(Computer Assisted Language Learning)の活用です。センターの実習室のうち4室はCALL授業対応となっており、英語、フランス語、中国語の授業で使用されています。2008年度には別途、CALL専用の教室を開設する予定です。もう一つはデータ解析の授業です。本学では早くから、統計パッケージSPSSを使用してデータ解析の授業を行っています。
 教育のIT化は電子スライドをはじめとする電子教材の開発と利用が中心でしたが、この数年間はe-Learningの利用へと発展しています。その中心はLMS(学習支援システム、Blackboardを使用)とVOD(Video on Demand)です。LMSをベースに展開する授業も次第に増加し、人間関係学科メディア情報専攻では、ほぼすべての授業において何らかの形でLMSを使用しています。VODは主に、対面授業を補完する形で使用されています。授業を収録したビデオを、スライドなどの教材とともにe-Learningコンテンツ化して配信するものです。復習や宿題の参考資料として活用する学生も多く見られます。このほか、電子メールやブログを積極的に利用するなど、教員と学生の間のコミュニケーション形成にITを活用し、良好な学習環境の構築に役立てています。本学では以上を「サイバーキャンパス」と位置づけ、整備と運用を行っています。


3.本学における学生サービスへのITの活用

 本学では、積極的に取り組んできた教育のIT化に比べて、学生サービスのIT化は事務処理のIT化とともにやや遅い速度で進んできました。それでも、各種の案内のWeb化には比較的早くから取り組み、シラバスをはじめとする教務資料は、ほぼすべてが電子化されています。学生はこれを、学内だけでなくインターネット上で入手することができます。今回、教務、学生生活、就職支援といった情報サービスを一元化し、サービスの向上を図るために、新たな統合システムを導入しました。2007年度に試験運用、2008年度から本運用の予定です。これに伴い、学生に関する情報が一元管理されることになり、情報の活用は格段に進むものと期待されます。
 このシステムの導入により、学生ポータルサイト(仮称「光華navi」)が開設されました。履修登録、成績登録・閲覧、シラバス・時間割の閲覧、各種案内の発信・受信など、履修および学習支援に必要な情報の受信と発信を、ここから行うことができます。さらに現在進めている機能追加により、生活支援やキャリア支援もこのシステムを通して行うことになります。さらに、2008年秋を目途に、ICカードタイプの学生証の導入を進めており、これを使った出欠管理も計画中です。修学支援とこれらの支援がシステム上で一元的に行えるようになることで、学生サービスは飛躍的に向上するものと期待されます。これらは、本学が進める「学生一人ひとりのための教育とその支援」をコンセプトにしたエンロールメント・マネージメントの一環として進めているものです。


4.キャリア教育への取り組みとITの活用

−19年度現代GPに採択の取組におけるITの活用について−

 19年度に文部科学省で募集の現代GP「実践的総合キャリア教育」に、本学が応募した「学生個人を大切にしたキャリア教育の推進」が採択されました。この取り組みは、本学が進める学生を主体とした教育の実現を目指すエンロールメント・マネージメントの一環として実施するものです。その実現の方法として、本学が進めてきた教育におけるITの活用を全面的に導入しています。この点に本学のIT活用の特色が集約されているものと考え、以下に紹介します。なお詳細については、本学ホームページをご覧ください。
http://www.koka.ac.jp/
 この取り組みにおける「キャリア教育に関する基本的な考え」(教育目標)は次の3点です。第1は、就労意識の喚起・醸成です。働くことの意義を理解し、働く自分に確かな希望を抱いてもらおうというものです。第2は、読む、書く、聞く、話すの基礎的能力の養成です。第3は、基礎的能力を発展・高度化させた社会人基礎力の養成です。以上により、確かな職業意識を基礎に、社会で活躍できる基本的能力(社会人基礎力)を備えた「自信を持って社会に出ていくことができる」人材を育成することが、本取り組みの目的です。
 これを、「正課」および「正課外」教育から成る総合的で実践的な「キャリア教育課程」により実現します。「正課教育」は単位を付与する正課の科目として位置付けられ、その中でキャリア教育を行うものです。1・2年次の「導入・基礎教育」と3・4年次の「発展・応用教育」から成り、専門教育を含めて関連の科目を「キャリア教育」の視点から体系化します。「正課外教育」は各種の課外講座などで実施する教育で、学生のキャリア形成や就職の支援を含みます。以上のように、この教育課程(キャリア教育課程)は、既存の全学共通あるいは、学科ごとの基礎・専門科目をベースにして、「キャリア教育」の視点から構築するバーチャルなもの(学科横断的な課程)です。対象は大学の全学部学科としています。
 このような教育課程における所期の目的を達成するには、一人ひとりの能力、個性、状況に応じた「個別対応教育」が極めて有効であると考えています。集合教育では、たとえ少人数であっても十分な成果を上げることは難しいでしょう。第1に、重要課題の一つである「就労意識の喚起・醸成」では、 個別相談・指導など、個々の学生との十分なコミュニケーションを形成し、その意識を引き出すことが必要です。第2に、基本的能力をはじめとして、所定の習得水準を保証した教育には、新たな教育プログラムが必要です。本取り組みではこれらを、ITの活用とe-Learningの併用により解決しようとしています。これにより、教室での対面教育に加えてユビキタスな学習環境とコミュニケーションの機会を提供することができます。学生はいつでもどこでも学習支援を受けることができるなど、個別対応教育の実現に大きな効果を発揮すると考えられます。
 ここで、本取り組みで行うITの具体的な活用について、以下の4点を紹介しておきます。

(1)学習支援のためのITとe-Learningの活用
 本取り組み実現の基盤として重要になるコミュニケーション形成をITにより支援するものです。そのユビキタス性によりコミュニケーション環境が時間的・空間的に大きく広がり、個別対応教育としての支援効果が期待できます。授業ではLMS上で授業情報・教材を提供し、あわせてコミュニケーションの場を開設します。また、復習・自習教材による各教科の学習支援およびスキルアップ学習用にe-Learningを提供します。学生はユビキタスな学習環境で効率的にスキルアップと資格取得を目指すことができます。

(2)学生総合データベースの構築と活用
 教務、学生生活、就職など、学生に関する情報を一元的に管理し、個々の学生の状況を詳細に把握することができます。これにより、学生個々の状況に応じた迅速・的確な支援・指導を可能にし、情報提供を円滑にするための学生ポータルサイトを強化することができます。大学での活動に必要な情報を提供し、円滑な学習と学生生活を支援します。

(3)リメディアル教育および基礎英語教育でのe-Learning教材の活用
 基礎英語教材の開発に着手しています。今年度はこれをe-Learning教材にする予定です。英語学習には反復練習が必要であり、e-Learning教材は効果的と考えられます。さらに2008年度は、国語教材も開発の計画です。

(4)インターネットによる学外支援システムの開発と利用
 学外実習では、実習中の知識・技能面に加えて精神面の支援が必要です。これを効果的に行うため、学習支援とコミュニケーション形成にITを活用するものです。Webサイトの形で開発中です。2008年度から試験運用を開始します。


5.現状の問題点と今後の課題

 本学のIT環境は一時、少なくとも量的には十分なように思われました。多くの学生が自宅にパソコンを持ち、インターネットにも接続するようになり、学内の情報設備の量的な問題は解決するかに見えました。しかしこの数年、ここまで紹介したように、授業でのIT環境の利用をはじめとして、その用途の拡大によって再び量的な問題が生じています。学生支援の全面的なIT化とITによる支援を全面的に採用した現代GPの推進により、端末の大幅な増設を中心に、より一層のIT環境の整備が必要となっています。早急な対応が求められるところです。しかしながら、端末の増設は大きなTCO(Total Cost of Ownership)を発生させます。単純に増設するのではなく、TCOの削減とともに取り組む必要があります。
 一方、せっかくのIT環境がまだ十分に活かされていない面もあります。多くの授業で利用されるようになるには、その有用さを理解するためのFD活動と利用上の支援が必要と考えられます。これを担っているのは情報教育センターですが、その能力と容量を超えつつあります。教員スタッフの配置など、センターの機能アップのための組織改革を必要としていると考えられます。


文責: 京都光華女子大学
情報教育センター長 山本 嘉一郎



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